“家族用トイレ”に”排便する銅像”…ユニークすぎる韓国のトイレ話

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※本記事は特集『海外のトイレ』、韓国からお送りします。

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便器の横には必ずゴミ箱

韓国を訪れた外国人がトイレを見て驚くことといえば、便器の横にあるごみ箱。青い大きな容器にビニール袋がかぶせられ、そのなかにはトイレットペーパーが山のようになっていることもあります。

ゴミ箱が置かれたトイレ

韓国では「トイレットペーパーが水に流せない」と言われているほか、昔の習慣から便器には捨てずにゴミ箱に入れるという人もいるようです。

 

韓国では本当に紙を流せないのか?

韓国でトイレットペーパーが流せない理由は、配水管が狭いからという理由がそのひとつだといわれています。しかし家庭では「トイレットペーパーは便器に流している」との声をよく聞くため、とくに問題なく流せるようです。

そして2018年1月からは法律により、公衆トイレにはゴミ箱を設置しないことになったといい、「ゴミ箱のないトイレ(휴지통 없는 화장실)」という標語が掲げられ、地下鉄の駅などあらゆる場所からゴミ箱が撤去されています。

行政による「ゴミ箱のないトイレ」の表示

とはいえ、韓国のトイレは水の流れる勢いが強くなく、紙を流すと詰まりやすい傾向にあるところが多く感じます。当初は便器に流せるように作った新しいトイレにもかかわらず、しばらくすると「便器にトイレットペーパーを流さないでください」と張り紙が張られ、ゴミ箱が置かれているのを見たことがあります。

 

言葉から見る韓国のトイレ

韓国でのトイレは「化粧室」

トイレのことは、韓国語では「化粧室(화장실、ファジャンシル)」といいます。これは日本でもそのように表記されているので、お分かりでしょう。

他にも「便所(변소、ピョンソ)」や、古い言い方では「後ろの部屋」という意味で、「ティッカン(뒷간、―間)」という言葉があります。

 

お寺のトイレは「解憂所」

韓国にも仏教寺院がありますが、そこではトイレのことは「化粧室(화장실)」とは書かれていません。「憂いを解く場所」として「解憂所(해우소・ヘウソ)」という呼び名があることが一般的です。

解憂所(해우소)

 

韓国には和式トイレ「和式(ファシク)」

また日本ほど多くはないように思いますが、韓国のトイレにも和式トイレが存在します。これはそのまま韓国語読みした形で「和式(화식、ファシク)」または「和便器(화변기、ファビョンギ)」と書かれており、逆に洋式トイレは「洋便器(양변기)」なので、この点は日本統治時代の名残りということもあり、非常によく似ている点です。

 

韓国のトイレの歴史

韓国最古の公衆トイレ跡

現代のトイレはさておき、古代のトイレを見てみましょう。

韓国で発見されているなかで最古のトイレ跡といえば、百済(백제、ペクチェ)時代のもので、全羅北道益山(익산、イクサン)という町にある王宮里遺跡(왕궁리유적、ワングンニユジョク)にあり、約1400年前のものです。実際に残されていたものはただの溝であり、見ただけではトイレとはわかりません。

王宮里遺跡の博物館にあるトイレの模型

その溝がトイレだと判明したのは、そこに寄生虫の卵があったことからだといいます。また木の棒が発見されたのですが、それがお尻を拭くためのものだったと推測されており、上の写真のような模型が作られました。

 

韓国の近世のトイレ

朝鮮時代の貴族とされる両班(양반、ヤンバン)は、家の隅に「側間(측간、チュッカン)」「ティッカン(뒷간、後ろの間)」といわれる独立した建物を使っていたようです。一方で庶民たちは屋根のないトイレを使っていたといいますが、おそらく様々なトイレの形態があったと思います。

 

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豚に人糞を食べさせる済州島のトイレ

済州島の民家には1970年代頃までは、石造りのトイレの周りで豚を飼い、人糞を飼料としていました。済州島の民俗村に行くと、このようなトイレが残されています。

こうした環境で育った黒豚の焼肉は、済州島の名物になっていたのですが、現代ではこのようなものはなくなりました。

詳しくは焼肉の記事をご覧ください

お手頃なサムギョプサルから高級ブランド牛まで、韓国人が愛する焼肉の世界

 

70年代以前の民家では共同トイレだった

韓国では1960~70年代は共同便所が多かったようです。その後1970年代、朴正煕(박정희、パクチョンヒ)政権によるセマウル運動(地域開発運動)が行われたことを機にトイレの環境が改善されるようになり、80年代以降は水洗式へと徐々に移り変わっていったのだといいます。

1960~70年代の共同便所の模型(仁川の水道局山タルトンネ博物館)

 

トイレにまつわるユニークな話

次に現代のトイレに関するユニークな話を見ていきたいと思います。

 

家族用トイレがあったりもする

1993年には韓国中部にある都市、大田(대전・テジョン)にて万国博覧会が開催されました。その会場に備え付けられたトイレには男子トイレ、女子トイレ、そして中央にもうひとつのトイレがありました。なんとそれは家族用トイレだったのです。

2010年代に入ってから、ロッテ百貨店や新世界アウトレットには家族用化粧室が設けられたそうです。これにより、大人と子供が一緒に個室に入ることができ、子どもから目を離さずに用を足すことができる、というのです

 

トイレに人生を賭けた市長

ソウル郊外の京畿道・水原(수원・スウォン)市にはユニークな施設があります。その名も「解憂斎(해우제、ヘウジェ)」。トイレの形をしたトイレ博物館で、別名Mr.Toilet Houseといいます。

建物の前には銅像が立っているのですが、この男性は元・水原市長で国会議員を務めたこともある故・沈載徳(심재덕・シムジェドク)氏。彼がミスタートイレットといわれた人物です。

彼は厠で生まれたことから「犬のうんち」という意味の「ケトンイ(개똥이)」と呼ばれ、トイレに対する愛着が生まれたそうです。1995年には水原市長に就任。その後ワールドカップ誘致活動を進めるなかで、1996年には「水原市の公衆トイレを世界一きれいなトイレにする」と宣言し、「きれいなトイレ文化運動(아름다운화장실 문화운동)」を推進。韓国だけでなく、世界トイレ協会の会長として世界のトイレ文化の改善に尽力しました。

そして2007年に住居としてこの「解憂斎」を建設。家の中心となる位置にトイレが設置されており、彼がトイレをいかに重視していたかがわかります。

満70歳を目前にして亡くなったあと、2009年にはこの建物が水原市に寄付され、博物館となりました。この博物館の面白いところは庭の展示を通して、昔のトイレを知ることができるだけでなく、悶えるような表情で排便する姿の像が置かれているなど「遊び」の要素が感じられます

隣には「解憂斎文化センター」という建物があり、そこでは子ども向けのトイレや便に対する教育的なパネル展示が行われています。こちらも可愛い要素がたくさん感じられる楽しい博物館になっており、建物屋上の展望台からトイレハウス「解憂斎」を見渡すことができます。

展望台からの眺めは壮観。洋式便器と同じように中央が吹き抜けた形状になっています。

 

屋台や飲食店のトイレは?

こうした水原市長の尽力もあってのことなのか、最近の公共のトイレは清掃が行き届いているところが多く、さほど不便に感じることはありません。ただやはりトイレットペーパーが流れにくく、詰まりやすいトイレが多いことは事実です。次に屋台や飲食店の共用トイレについて触れます。

 

屋台にはトイレがない

韓国の冬の風物詩のひとつといえば、「帆帳馬車(포장마차・ポジャンマチャ)」という屋台。テントのなかでお酒を飲んだり、おつまみを食べたりします。これにはなかなか風情があり、ドラマで屋台が登場するシーンを見て、これに憧れる日本人もいます。

しかし屋台にはトイレがないことが大きな欠点。それで困ることもあるようですが、最近では屋台街には公衆トイレが設置されたりもしています。

屋台街の公衆トイレ(ソウル・鍾路3街駅近く)

 

飲食店は共用トイレが多い

ビルや飲食店が密集している場所では、お店のなかにトイレがないところが多く感じます。店員の方にトイレがどこにあるかと尋ねてみると、「お店の外にある」と言われ、場合によっては鍵を手渡されることすらあります

これはいくつかの飲食店が共用でトイレを使用しているというもの。寒いなかで店舗の外に出なければならない、というのは少々不便です。また、こうした共用トイレが性犯罪の温床になっている事実もあり、社会問題になっています。

 

トイレは国際大会に合わせて改善される

そしてトイレの環境改善がされるのは、やはり国際的行事が行われるときです。韓国では1988年のソウルオリンピック、そして2002年FIFAワールドカップの際にトイレがきれいになっていったといいます。

参考ニュース動画(韓国YTN)

そしてウォシュレットについては、公共の場ではホテルや百貨店に取り付けられている程度で、日本ほどは普及していません。筆者の記憶では2012年の麗水エキスポ(海洋万博)開催を機に作られたトイレにウォシュレットがついていた記憶があり、その頃から増えていったのではないか、とも思います。

 

トイレの使用状況がわかるモニター

2018年2月には平昌オリンピックが開催されました。スケート競技が行われた会場に近い江陵(강릉、カンヌン)駅は、高速鉄道の開通と、五輪の開催に合わせて駅が立て替えられたのですが、トイレの入口で個室の使用状況がわかるようなモニターが取り付けられていました。

日本でも現在では一部の高速道路のサービスエリア等で見られるようですが、やはりこうした先進的なシステムは、国際行事に合わせて導入されるものでしょう。

 

発想の自由さが、ストレートに表現される韓国

このように韓国のトイレは現在もなお、かつての習慣であったり、排水の流れにくさなどから、トイレのなかにゴミ箱が置かれているところが多いようです。また飲食店では共用トイレが多いというように、トイレの状況は場所によって差が激しいように感じます。

そしてトイレ博物館にも表れているように、韓国では物事に対して凝りはじめた結果、なにかと個性的なものが出来上がることが多いと感じます。それは韓国の「遊び心」であると同時に、現場レベルではそのときの責任者の裁量によって大きく左右されるため、こうした発想の奇抜さがストレートに表現されやすいのではないかと思います。トイレに限らず、ときどき意外なものが出来上がる韓国。そんなところを思うと、なかなか目が離せません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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