韓国では整形がなぜ”ふつう”?外見至上主義と美容文化

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容姿が重視される韓国社会

韓国はコスメや整形手術のレベルが高い「美容大国」というイメージが強いことでしょう。韓国ドラマやK-POPの人気とともに、美容分野も世界へと広まっています。企業が韓流スターたちを起用して宣伝してきたことや、K-Beautyと打ち出し、国策として輸出を推し進めていることもあるかと思います。

しかし韓国が美容大国と言われるようになった背景には、そうした技術の前に、もともと国内で質の高いコスメや美容が求められてきたからではないでしょうか。以下では、具体的な事例を挙げつつ、その理由を探っていきたいと思います。

 

『外見至上主義』というWeb漫画

昨今の韓国の漫画はパソコンやスマートフォンで読む、ウェブトゥーン(웹툰)が主流です。韓国最大手検索ポータルNAVERで、2014年11月から連載されたある漫画が人気を博しました。その名もずばり『外見至上主義(외모지상주의、外貌至上主義)』。現在では日本語にも翻訳され、LINEマンガでも公開されています。

そのストーリーは、「不細工でいじめにあっていた男子高校生がある日、目を覚ますとイケメンになっており、昼はイケメンで学校に通い、夜は不細工な姿でアルバイトをする二重生活を送る」というもの。「結局は外見がすべて」という内容から、韓国でもその賛否は大きかったといいます。

ただの漫画(フィクション)でしょ? と思われるかもしれませんが、賛否を巻き起こした背景には韓国社会の中でもそうした考えがあったからではないでしょうか。事実、日本と比べても、それらに気付かされる機会が多いのです。

 

就職にも「容姿端麗」が求められる

韓国では容姿が就職にも影響するといわれています。求人広告に「容姿端麗(외모단정・ウェモタンジョン)」という言葉を入れて募集をかけたり、履歴書で身長や体重の記入を求めたりすることさえあるようです。韓国には「男女雇用平等法」という法律があり、こういった求人はもちろん禁止されてはいますが、容姿を採用基準として堂々と公表したりするところもあります。

日本でも外見が就職に影響することはあるでしょうが、企業側はそれを公表することはないでしょう。その意味では正直だと考えることもできます。こうしたことも含め、韓国では容姿に対して、露骨な反応をとることが多いように感じます。

 

外見についてズバズバ言う

日本ではたとえ仲が良くても、変えようがない外見のことを話すことは、はばかられる傾向にあります。しかし韓国では打ち解けてくると、身体的な特徴をわりとストレートに言う傾向にあります。「背が低い」「鼻が高い」というようなこともズバズバと。しまいには「整形したらどうなの?」と言う人もいたりします。

このように顔や体形などの容貌に関して触れることがごく普通であるために、必然的に容姿に対する意識は高くなるのです。韓国で美容分野が発展した理由はそういったところにあるのでしょう。

このように韓国が「外見至上主義」ともいわれるなかで、以下では主に2000年以降に発展した文化についてご紹介していきます。

 

ネットアイドル「オルチャン」と自撮り文化

日本でも知られるようになった韓国語の「オルチャン(얼짱)」という言葉。これは「顔が最高だ(얼굴이 짱이다・オルグリッチャンイダ) 」という意味、つまり「美男美女」を指します。

日本では第3次とも言われる昨今の韓流ブームのなかで「オルチャン」という言葉が広まりました。しかし、韓国では2003年頃からある人物たちを指す言葉として使われ始めたと言われ、現在ではほとんど聞くことはなくなりました。

 

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元祖オルチャンともいわれるト・フェジ(도회지)

日本における第3次韓流ブームと、ファッションについては以下の記事をご覧ください。

オルチャンファッションのルーツとは? 流通に見る韓国のソウル中心社会

そんなオルチャンたちがだれかというと、インターネット上のコミュニティを通して人気を集めた美男美女のネットアイドル。そのなかには芸能人としてデビューした人もいます。先に述べた『外見至上主義』の作者であるパク・テジュン(박태준)氏も、オルチャン出身の漫画家です。

またオルチャンだけでなく、「モムチャン(몸짱・モムチャン)」という言葉もあります。モム(몸)は体を指すので、つまり「美ボディー」とでもいうのでしょうか。

韓国のカリスマ主婦であるチョン・ダヨン(정다연)氏が、70キロあった体重を48キロにまで減量。その方法をメディアで伝えたことにより、この言葉が広まりました。2005年には日本でも『韓流モムチャン・ダイエット』という本を発売。その後ベストセラーも生まれるなど、韓国や日本のみならずアジアにも広まっています。

 

自撮り文化は街のあちこちで

こうしたオルチャンの文化が浸透した結果なのかはわかりませんが、韓国の女性たちはスマートフォンで自らの顔写真を頻繁に撮るように感じます。これを「セルカ(셀카)」といいますが、街で歩いているときに、ふと立ち止まったと思ったら、自分にレンズを向けてパシャリ、電車の椅子に座りながらパシャリと撮ります。

そして日本ではSNSのプロフィール写真に友人と2人で写ったものをアップする女性をよく見かけますが、韓国ではひとりで堂々と載せるのが普通です。そして女性に限らずですが、待ち受け画面を自分の顔写真にする人もそれなりに多く見かけます。日頃から外見に気を使い、とにかく自信を持っている、ということの表れではないでしょうか。

 

人気アプリも韓国発

そうしたなかで、自撮りに関する商品やグッズが発達するのも必然といえます。2015年にはセルフィーといわれる「セルカ棒(셀카봉・セルカポン)」が韓国でいち早くヒットし、世界各国に波及しました。

そして自撮り写真を加工するための、スマートフォンアプリも普及。日本でも10~20代女性の間で流行した「SNOW(스노우・スノウ)」は、韓国発のアプリ。自分の顔写真に犬の鼻や舌をつけてみたり、似ている芸能人との比較写真を撮ってみたりと楽しめる要素もあります。

韓国発のアプリ SNOW (Google Playサイトよりキャプチャー引用)

日本では自撮り写真によって「実物よりも可愛く見せられる」という意味で「盛れる」という言い方をしますが、セルカによって実物以上の別人に見せることを、「セルカ(셀카)」と詐欺師という意味の「サギックン(사기꾼)」をあわせて、「セルキックン(셀기꾼)」といい、自らそのハッシュタグをつけて投稿したりします。

またここ数年、韓国では日本でいう「プリクラ」のブームが再燃。4コマ漫画のような写真が撮れる「人生4カット(인생네컷、インセンネコッ)」という機種がその火付け役となりました。日本のプリクラのほうが、加工や修整といった機能面での性能が良いとの声もありますが、それでもこうした写真を撮ることがひとつの流行になり、定着しつつあります。

「人生4カット(인생네컷)」以外の機種もあちこちに増えていった

 

定番のBBクリームや、異色系コスメも発達したコスメ文化

そして韓国では化粧品も発達しています。韓国の学生街や繁華街を訪れるとコスメショップがひしめき合っており、同じようなお店が一か所に集まっています。店員がマイクを使ってセール品や目玉商品を紹介するなどして、呼び込みをしていたりします。

クリスマスシーズンの繁華街のコスメショップ

韓国コスメの代名詞ともいわれ、美容液やファンデーションなどの役割をもつBBクリームを筆頭として、美白効果を含んだCCクリーム、また蛇毒クリームやカタツムリの粘液を使ったマスクシートなど、韓国独自のコスメ商品が登場して話題を集めてきました。メーカーによってはパッケージにも工夫を凝らして差別化を図り、ロングセラーになっているものもあります。

カタツムリのシートマスクと、ハンドクリーム(ETUDE HOUSE)

また近年では日本でも「オルチャンメイク」のアイテムとして知られるようになった、「リップティント」も韓国発の商品のひとつ。ティント(tint)は英語で「染める」という意味で、唇に色を染みこませて発色させるものです。その後、眉ティントも登場しています。

ソウルの繁華街・明洞のリップティントの広告(右)

現在ではこうした企業による製品が韓国の化粧品文化として定着しており、老若男女問わず企業が開発した製品を使う傾向にありますが、伝統的には身近に手に入るキュウリを顔に乗せたり、漢方の粉などを練り合わせて、顔に塗ったりしていたようです。

 

美容整形手術もいとわない

韓国では日本でいう美容整形外科のことを「成形外科(성형외과・ソンヒョンウェカ)」といいます。こうした医療機関や整形手術を行う人は2000年頃に急増したといい、これは経済発展が理由であることはもちろんですが、IMFショック以後の就職難も影響しているといわれます。

釜山・西面の繁華街にある美容整形外科が集まる通り

韓国の街を歩いていると、あちらこちらで美容整形外科の広告を見かけるのですが、そのなかでも特に多いのはソウル・江南(강남・カンナム)のあたり。ここにやってくると、手術を終えたあとに顔にコルセットをして街を歩く人の姿を目にすることがあります。

周辺に美容整形外科が多い狎鴎亭(압구정・アプクジョン)駅を訪れると、このように整形外科が競い合うようにたくさん広告を出しています。

ソウル・地下鉄3号線の狎鴎亭駅には整形外科

女性を中心に、男性を含めた顔が映っている広告はすべて美容整形外科の広告です。なかには「ファッションの完成は顔だ」など整形手術を喚起する広告も見られます。このようななかで、学校周辺での広告の掲載や、手術前とその後を比較するといった過大表現を禁止するなどしています

とはいえ、整形手術を肯定的に考えている人も多いようで、子どもの大学入学や誕生日のお祝いに親が整形手術をプレゼントする、という話はよく耳にする話です

日本でも芸能人が整形手術をしたかどうかについて、インターネット上ではよく噂されていますが、韓国の場合は美容整形したことを公言する芸能人は多く、「カミングアウトしたほうが潔くて良い」という声も聞かれるほどです

とはいえ、一般の人に対して整形手術したかどうかを尋ねるのはやはりはばかられます。しかしヒアルロン酸を注入したり、ボトックスを注射したりするなどの比較的負担が軽い施術をして、キレイになったことを自らアピールする人はいます。

そして「一重瞼を二重にするくらいは整形手術とは言わない」という声も聞きます。さらにはメスを入れる手術をしてもしなくても、定期的に美容皮膚科に通って肌のケアをする人もいます。

 

男性のあいだでも高まる美容意識

最近では、男性でメンズコスメが伸びているといいます。20代くらいの若者が多い場所を歩いていると、明らかにメイクをしたような男性の姿をちらほらと目にします。

さらに韓国には「チムジルバン(찜질방)」という大浴場やサウナなどを含んだ温浴施設がありますが、男湯の洗面台には必ず乳液やローションが備え付けられているほど。またそこではマスクパックをしている男性もよく見かけます。

 

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外見至上主義がもたらした美容文化の今後は?

このように韓国でコスメや美容整形が発達したのは、「外見至上主義」ともいわれるほど、容姿によって優遇されたり、不利益を被ったりすると考える人が多いということが背景にあるといえます。

儒教では「親からもらった身体を傷つけてはいけない」という教えがありますが、韓国は日本以上に儒教の影響が強い国。それにもかかわらず整形手術をする人が多いのは、別の考え方が影響しているように思えます。

韓国出身の評論家・呉善花氏は自身の著書や対談などのなかで、韓国の均一的な食器や衣装などを例としてあげるなかで、「日本以外の東アジアでは『左右対称が美』という考えがあり、『完璧に整ったものが理想的』とされるのは儒教の影響」といった旨のことを述べています。

そうした価値観が根底にあり、そのなかで容姿を変えてしまうほうが合理的だと考える人が多いということでしょう。こうしたなか今後も韓国で美容整形手術やコスメなど、容姿を美しく見せる技術はさらに進化し続けるに違いありません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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