美食の国・イタリアの弁当が「手抜き」なのはなぜなのか

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イタリアの「お弁当」ってどんなもの?

普段どんなものを食べているかを見れば、その国の歴史的な文化や考え方まで垣間見える。そんなふうに書いている本をよく見かけますが、個人的には当たらずとも遠からずだと思っています。そもそも、海外の人が何を食べているかって興味をそそりますよね

イタリアのごはんって、こんなイメージ?

というわけで今回は「イタリア人のお弁当事情」をご紹介します。

もともとイタリアは食にはこだわるお国柄。おいしいものを食べることはもちろん、食の安全や栄養価、また食事を摂る時間が豊かなものであるかどうかをとても大切にします。ということは、たとえ弁当であってもさぞかし優雅においしいものを食べているはず。実際に、以前の職場で撮らせてもらった同僚たちの弁当をお見せしましょう。

 

弁当その1:生ハムとモッツァレッラチーズとフルーツポンチ

まずはイタリアらしい組み合わせのこのお弁当。生ハムとモッツァレッラチーズ、それから右下のパックの中身はフルーツポンチです。写真には写っていませんが、これに小さなパンをひとつ加えて1人分。

イタリアのスーパーには生ハムをカットして販売してくれるコーナーがあり、「100g」とか、「5枚くらい」とか、自分の好きな量を指定して包んでもらうことができます。なので、生ハムはビニールのパックもしくはこの写真のように紙にくるまれている状態が標準。モッツァレッラは水気があるので、袋から出してタッパーに入れて持ってきていました。

見て分かる通り、スーパーで買ってきたまま……ですね。「優雅なイタリア人のランチ」とのギャップに戸惑っているのはきっと私だけではないはず。他の人のお弁当も見てみましょう。

 

弁当その2:生ハムとモッツァレッラチーズと堅パン

こちらはお店側の手心すら加えられていない、さきほど以上にシンプルなお弁当

左上の袋に入っているのはグリッシーニと呼ばれる堅パンで、クラッカーのようなものと考えるとイメージしやすいでしょう。塩気も甘みもないので、味はただただ小麦粉です。タッパーがないぶん、さきほどのお弁当よりもさらにスーパーで買い物してきた感が増しています。

 

弁当その3:野菜のグリル……だけ

こちらは「昨日の晩ごはん」系のお弁当で、かぼちゃとズッキーニのグリルです。

なにかメイン料理の付け合わせだったのか、これがメインだったのかは聞き忘れてしまましたが、持ってきていたのは本当にこの写真のタッパーだけ。そんな少しで足りるのか心配になりましたが、そもそも普段からそんなに食べないのだとか。

えー、ここまでくると「お弁当」の体を成してないと思う人もいるかもしれませんが……もう一つだけ紹介していいでしょうか。

 

弁当その4:昨日の晩ごはんで残ったスープ……だけ

ここまでくるとお弁当感ゼロになってきましたが……こちらは豆のスープです。

イタリアでは硬い乾燥豆を1時間以上も煮込むので、サラサラではなくドロドロのスープになります。こちらもいわゆる「昨日の晩ごはん」系のお弁当で、同僚はこのスープだけをタッパーに入れて持ってきていました。

さて、イタリア人のお弁当、いかがでしょうか。きっと、「美味しそう!」よりは「そんなざっくりしてるの?」と拍子抜けした人のほうが多いはず

イタリア人全員の弁当を見た訳でもないので偏りがあることは否めませんが、それでも手軽さ……というか、手をかけない感じはだいたいみんな似たようなもの。このように、イタリアでは、色とりどりのおかずが詰め込まれた日本のようなお弁当に出会うことはほとんどありません

これが好みかどうかは人それぞれだと思いますが、お弁当のために早起きする必要もなく、好きなものを食べていればいいという発想はとても気楽なもの。とくに普段から弁当をつくる人であれば、真似をしたいと思うのではないでしょうか。

 

イタリアは美食の国、だけどなぜランチには手を掛けない?

ここまで読んで、ずいぶんイメージが違うなと感じた人もいるかもしれません。先にも紹介したとおり、イタリア人は食にとてもこだわりがあるはず。でも、ランチにはそれほど手をかけない、それってなぜなんでしょうか。

イタリアには弁当文化がない

実は小さな弁当箱にご飯と何種類かのおかずがコンパクトに詰められた「お弁当」は、日本ならではのもの。その弁当文化がイタリアにはないため、料理そのものに手をかけることはあっても、「外へ持ち運ぶランチ」に手をかけるという意識自体があまりありません

そのため、会社に持ってくるランチも「家にあるもの」もしくは「昨日の残り」をそのまま持ってくることが多いのです。

私たちが想像するいわゆる「お弁当」は日本ならではのもの

イタリア人はピクニックが好きなので、ランチを持って公園や野山に出かけることもあります。ただ、その場合もパニーノ(サンドイッチ)や、大きなタッパーに人数分のパスタを入れたものが一般的。ちなみに、パスタの場合は人数分のお皿とフォークを持参し、その場で取り分けます。

手軽な外食が少ない

イタリアには手軽に外食できる場所が少ないというのも理由のひとつ。日本はあまりお金をかけなくてもそれなりのクオリティの食事が楽しめ、さらに選択肢も多いですが、イタリアではランチでも外食なら10ユーロ(1300円)くらいからが相場。

手軽に済ませようと思うとバールでパニーノを注文するくらいしかなく、「だったらスーパーで買ったものや晩ごはんの残りで済ませるよ」ということなのです。

新鮮な生ハムをはさんだパニーノは手軽ですごくおいしいのですが……毎日だとさすがに飽きます。

いちおう日本のコンビニ弁当のようなものはあるけど、選択肢はあまり多くないし、内容の割に値段も高い。

ただでさえイタリアは近年、慢性的な不景気に見舞われていることもあり、国民は全体的に節約ムード。できれば優雅にレストランに行ってゆったりとランチを楽しみたいけど、毎日そうはできない事情もあるのです。

 

お金をかけずにしっかりと食事を、BENTOは静かなブームに

ランチタイムだって、できれば優雅に、しっかりと栄養のある食事を摂りたい。でもお金はかけたくない。そんなジレンマを映すかのように、実は最近は、イタリアでも少しづつ弁当文化が広まりつつあります

 

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Il mio #bento di domani. Ogni tanto si ritorna all’italianità anche se sempre in una cornice giapponese.✌ Al posto del riso, infatti, ho messo una semplice #pasta e piselli che ho preparato con le ricciutelle Agnesi @pasta_agnesi . Nell’altro scomparto invece verdure, formaggio e sottilissime fette di pane. E da buona torinese ogni tanto amo sgranocchiare qualche grissino stirato, tipico della mia città. Per finire, un #gianduiotto un simbolo indiscusso della pasticceria sabauda. イタリア風のお弁当です。ご飯の代わりにグリーンピースパスタを詰めました。 それから、サラダと黒オリーブとチーズも加えました。 あっ! トリノのグリッシーニもありますよ!♪ グリッシーニは細長い棒状の乾パンです。 デザートはトリノのジャンデゥヨッティです!トリノ産の軟らかくて小さいチョコレートです。 いただきます!😋 #torino #bento #biancorossogiappone #bentoitaliano #italianbento #pasta #grissini #grissiniorazio #orazio #gianduiotti #cioccolato #food #lunch #bentoisfun

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食へのこだわりが強いイタリア人にとって、主菜や副菜がバランスよく詰められたお弁当は、まるでフルコースの料理がひとつの箱に入っているように映るのだとか。家で作れば安全な食べ物かどうかを気にする必要もないし、自分の好きなものを食べられる。そんなふうに考える、食に対する意識の高い層を中心に人気を集めています。

寿司のお弁当は意外と人気があって、どこのスーパーでも見かけます。小さめの巻き寿司4個で520円くらいとかなり高いけど。

これまで、イタリアでは日本食というと寿司、天ぷら、ラーメンくらいしか知られていませんでしたが、最近はそこに「弁当」が追加。日本式の弁当を販売するお店が登場したり、お弁当作りの教室が開かれたりと、日本食の1ジャンルとしての地位を確立しつつあります。ちなみにイタリアで弁当はそのまま「BENTO」で通用します。

ミラノ中心街にある「BENTO」という名前のレストラン、流行に乗っかった感じでしょうか。

また、最近ではこうした流行を受けてなのか、日本のように仕切りのついた弁当箱を売っているお店もよく見かけるようになりました。イタリアでランチを持ち運ぶ容器というともともとはタッパーが主流。日本人にとっては見慣れたなんでもない弁当箱も、イタリアではかなり珍しい存在だったりします。

雑貨屋などでよく見かける弁当箱、名前はそのまま「BENTO BOX」。

こんな感じで少しづつ浸透しつつある弁当文化。作るのは少し手間がかかりますが、節約しながらでもしっかりと栄養のある食事を摂りたいというイタリア人のニーズには合致しているのは確か。そう考えると、いずれイタリアで独自の弁当文化が誕生することがあるかもしれません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

鈴木 圭

鈴木 圭

イタリア・ミラノ在住、フリーライター。広告ディレクターや海外情報誌の編集者などを経て2012年にイタリアに移住。イタリア関連情報や海外旅行、ライフスタイルなどの分野を中心に活動中。旅行先の市場でヘンな食べ物を探すのが好き。「とりあえず食べてみよう」をモットーに生きてます。HPTwitterInstagram

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