キムチ・チキン・即席めんが韓国で国民食になったワケ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※本記事は特集『海外の国民食』、韓国からお送りします。

クリックorタップで韓国説明

 

毎日の食卓に欠かせないキムチこそ国民食

韓国の国民食として、まず最初に挙げられるものといえば、キムチ(김치)でしょう。韓国の食卓には欠かせない漬物でご飯の副菜はもちろん、麺類にも付け合わせて食べたりします。そのほかにも酒の肴としていただくことはもちろん、炒めものや蒸し物として使われるなど多様です。

白菜キムチ

キムチの材料は白菜で作ったものが最も代表的ですが、ダイコンやキュウリなどの様々な食材で作られるだけでなく、水キムチ(물김치、ムルギムチ)という発酵した酸味のある冷製スープのようなキムチもあります。

ナバクキムチ(나박김치)・水キムチの一種

2013年12月には「キムチとキムジャン文化」がユネスコ世界無形文化遺産に登録。このときには日本の和食も同時に登録されており、誰が見てもキムチこそが韓国を代表する国民食だといえるでしょう。しかしキムチ以外の「国民食」では外食に由来するものが多いように思います。以下ではそんな韓国の国民食をご紹介していきます。

 

国民食・インスタントラーメン

韓国の国民食と言ったときに、インスタントラーメンがそのひとつに挙がります。韓国語では「ラミョン(라면)」といいますが、この言葉を使ったときは、主にインスタントラーメンのことを指します。世界ラーメン協会によれば、韓国では一人当たりの年間消費量が74.6食で、2位のベトナム53.9食、3位のネパール53.0食を大きく突き放し、ダントツで世界一なのです

 

インスタントラーメンは日本発

インスタントラーメンが世界に先駆けて発明されたのは日本でのこと、1958年に日清食品がチキンラーメンを発売。その頃、韓国では朝鮮戦争(1950~1953)によって国土が荒廃してしまったために、食料難の時代が長く続いていました。

そんななか日本の明星食品が韓国の三養食品(삼양식품・サミャンシップム)に対して無償で技術協力をします。そして1963年に韓国で初となるインスタントラーメン、「三養ラーメン(삼양라면)」が発売されたのです。

韓国のインスタントラーメンの元祖、「三養食品」は平昌で牧場を運営

韓国で日本以上にインスタントラーメンが根付くことになったのは、やはり食料が豊富でなかったことが理由ではないか、と思います。80年代に入る頃まで主食のコメが不足していたといい、満腹感が得られやすいラーメンが受け入れられた、ということも言われています。

インスタントラーメン

韓国のインスタントラーメンには、ジャガイモのでん粉が入っており、モチモチとした麺が主流。日本では粉末スープを最後に入れますが、韓国では粉末スープを先に入れてから麺を煮込む、という違いがあります。

現在、韓国におけるトップシェアは「辛ラーメン(신라면・シンラミョン)」。韓国の大手食品会社の農心(농심・ノンシム)から発売されています。召し上がったことがある方は日本のインスタント麺との違いがお分かりでしょう。

 

お店でもインスタントラーメンが出てくる

韓国ではお店でもインスタントラーメンが出てきます。最近は日本式のラーメン店も増えており、韓国の人たちもその味を知っている人も多くなりましたが、そんな今でも韓国の軽食堂や学食ではインスタントラーメンが定番です。

ソウルの学生街・新村(신촌・シンチョン)。ここには「シンゲッチ(신계치)」という、学生街に定着したラーメン店があります。それは辛(신・シン)ラーメンに、卵(계란・ケラン)、チーズ(치즈)が入っており、この具材の組み合わせが韓国の「ラミョン」の主流です。2019年現在では4,000ウォン(約400円弱)で食べることができます。

シンゲッチ(신계치)外観

もちろん、ごく普通のインスタントラーメンなのですが、卵もふんわりと仕上がっていて、簡単そうに見えつつも、意外と家では再現できないような気がします。

 

インスタントラーメン自動調理器

インスタントラーメンは、家庭や飲食店ではもちろん、外でも食べます。ソウルの中央を流れる漢江(한강、ハンガン)の岸辺のあちこちにある公園は、市民の憩いの場になっており、平日の夕方になると学生たちが集まってきたり、休日は家族で訪れて日向ぼっこをして遊んだりします。

漢江公園(汝矣島)

そんな漢江にあるコンビニには、カップラーメンよりもインスタントラーメンのほうが多く陳列されています。そして生卵も購入できます。

それもそのはず、なんとお店の外にはインスタントラーメンの調理器が置かれているのです。水を入れて粉末スープをセットし、ボタンを押すと数分でインスタントラーメンができます。

こういった機械が用意されている場所は、漢江の近くのコンビニくらいです。とはいえ、韓国のコンビニにはイートインコーナーがあるところが多く、インスタントラーメンこそ作れないものの必ず給湯器が備え付けられており、その場でカップラーメンが食べられるようになっています。そしてスープを捨てるための網付きのバケツも用意されています。

このようにインスタントラーメンは、家庭内はもちろんのこと、韓国では外に出ても気軽に食べられるもので、日々の食生活に根付いているといえます。

 

サムギョプサルもフライドチキンも国民食

韓国の会社員たちが仕事を終えた後、同僚や友人と一杯、というときに最も人気のおつまみは、豚の三枚肉の焼肉、サムギョプサル(삼겹살)です。豚肉は牛肉よりも値段が安いこともあり、庶民的な食べ物。これも国民食だといえるでしょう。

サムギョプサルや焼肉については以下の記事をご覧ください

https://traveloco.jp/kaigaizine/bbq-korea

そしてもうひとつがフライドチキン。韓国ではヤンニョム(양념)というコチュジャンやニンニクなどで作った合わせ調味料をフライドチキンに絡めて食べる、ヤンニョムチキンもあります。

こうしたものも含め、「チキン(치킨)」と呼ばれていますが、チキンとビールの組み合わせは「チメク(치맥)」といい、最高の組み合わせだとされます。そのなかでもフライドチキンはテイクアウトしたり、宅配サービスを利用して家で食べることもありますし、公園などに配達してもらうこともできます。

チキン&ビールのチメク

 

近年はチキンに関する新造語が続出

韓国では50代前半で早期退職に追い込まれる人が多く、その際に飲食店を開業することが多いのですが、そのなかでも手軽に始められるのがチキン店です。今や韓国にはチキン店が増えすぎて飽和状態になっています。

韓国の就職事情や働き方は以下の記事をご覧ください。

https://traveloco.jp/kaigaizine/work-korea

こうしてチキン店が増えすぎた状態から「チキン共和国(치킨공화국・チキンコンファグッ)」といわれたり、「最後はどう転んでもチキン屋を始めるしかない」という意味で、「起承転結」をもじって「起承転鶏(기승전닭・キスンジョンタク)」という自虐的な言葉まで生まれているほどです。

しかしフライドチキンは消費者にとっても人気が高く、「チメク(치맥)」も新造語ではあるのですが、こうしたチキンは手軽で美味しく、ある意味で中毒性の高い食べ物になっているようで、「チキン様」といって崇拝するニュアンスで、チキンと神様(하느님、ハヌニム)を合わせた「チヌニム(치느님)」という言葉もあります

 

フライドチキンの前は鶏の丸焼き

ちなみにフライドチキンが韓国に入ってきたのは80年代以降のこと。それ以前には電気オーブンで焼く鶏の丸焼き(통닭・トンタッ)のほうが一般的で、これもビールと一緒に食べられていたようです。

そのまま鶏を丸焼きしたものがスタンダードですが、近年ではもち米やナツメなどを詰めたものや、チーズをまぶしたもの、甘辛たれのヤンニョムを加えたものもあります。

そしてここ最近では再びトンタク(통닭)の店が増えています。鶏の丸焼きというよりも、フライドチキンのように衣がついておらず、丸ごと軽く油で揚げたようなもの。チキンよりもさっぱりしており、値段もお手頃ということもあってか、中高年に人気があります。

ともかく鶏肉は牛や豚に比べて値段が安く、ヘルシーというイメージもあるためか、韓国では参鶏湯やタッカルビも含めて鶏肉料理が盛んです。

 

出前フードの定番、チャジャン麺(짜장면・チャジャンミョン)

そして出前フードの定番でもあり、国民食といえるほど根付いているものといえば、「チャジャン麺(짜장면・チャジャンミョン)」という韓国式ジャージャー麺。19世紀末の開港期に中国から入ってきて、中国・山東省から韓国西海岸の仁川へと伝わったとされています。

チャジャン麺発祥の店、共和春(공화춘・コンファチュン)のチャジャン麺

日本では最近「町中華」が再び脚光を浴びてますが、韓国の町には韓国式の中華料理店があり、そこではチャジャン麺のほか、海鮮や野菜が入った辛い麺料理のチャンポン(짬뽕)が定番料理として親しまれています。

チャジャン麺とチャンポンがセットのチャムチャ麺(짬짜면)

しかし通常はこのチャジャン麺は家で作ることはせず、多くの人には外食料理であり、家で食べる場合でも出前をとるという認識です。決して難しい料理ではないようですが……。

 

チャジャン麺はまんべんなくかき混ぜて食べる

韓国料理のビビンパは野菜とご飯、そしてコチュジャンをしっかりかき混ぜて食べますが、このジャージャー麺もまた箸でしっかりかき混ぜ、麺にソースを絡めて食べます。

今では庶民的な料理となり、日本のラーメンのような頻度で食べられるチャジャン麺ですが、かつては卒業式などの特別な日に食べる料理で、外食料理として国民食のように定着していきました。

仁川・チャジャン麺博物館

また4月14日は俗に「ブラックデー」とも言われているのですが、2月14日のバレンタインデー、3月14日のホワイトデーに何も起こらなかった男女が、黒い服を着て一緒にチャジャン麺を食べる日でもあります

 

ロングセラーとなった国民的なおやつ

チョコパイ

そして韓国の国民的おやつといえば、「チョコパイ(초코파이)」の名があがります。パッケージに「情(정、ジョン)」と書かれていますが、韓国は「情の国」とも言われ、韓国人を表すキーワードでもあります

そしてオリオン(오리온)のチョコパイは、なかにマシュマロが入っていて、モチモチした食感が特徴です。韓国ではこうしたモチモチしたものが好まれるでしょう。チョコパイは軍隊で支給されるということもあり、特に男性にとっては思い出深い味になっているようです。

 

バナナ牛乳

そして国民的な飲み物といえば、ピングレ(빙그레)のバナナ牛乳(바나나우유、バナナウユ)が挙げられます。1974年に発売され、40年を超えるロングセラー商品です。

口にするとバナナの味が口の中に広がって甘ったるく感じますが、韓国ではよく飲まれるコーヒーミックスも同様に、こうした甘いものが好まれるようです。

https://traveloco.jp/kaigaizine/drink-korea

 

外食から生まれる多様な国民食

韓国ではキムチ以外の国民食は、外食に由来するものが多いという特徴があります。また、貧しかった時代から人々に親しまれてきたインスタントラーメンはもちろんのこと、サムギョプサルやフライドチキンのように流行が定着して国民食となったものもあります。

韓国では毎年のように現れては消えゆく流行フードがあるのですが、最近では海外から入ってきたものが増えてきました。そういったものは韓国人の口に合わせて上手く改良されたりするもの。なかでも庶民的な肉料理やチーズのような辛い料理に合うもの、モチモチした食感のもの、甘みがあるものは、今後新たに定着する可能性があると思います。そんなことを考えると、今後も韓国の食の動向には目が離せません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

  • ※当サイトのコンテンツ(テキスト、画像、その他のデータ)の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイトなどへの引用も厳禁です。
  • ※記事は現地事情に精通したライターが制作しておりますが、その国・地域の、すべての文化の紹介を保証するものではありません。

この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

  • このエントリーをはてなブックマークに追加