衛生上、宗教上、片づけが簡単だから、カルチャーショックだらけの世界9カ国の食事マナー

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世界の”食事のマナー”を集めてみた

国の特色が出るのが、料理。

以前、世界各地で「味修業」を積んだシェフ・本山義尚さんといっしょに、「外国料理の文化をお弁当にする」という企画を行ったこともありました。

196カ国の料理を知るシェフが「世界」を「お弁当」にするとこうなった

そんな料理が違えば食事そのもの、つまりマナーもちがう! 最近だと、日本の蕎麦の「音を立ててすすって食べる」というマナーが話題になりましたね。今回はそんな、世界の食事マナーを海外ZINEのライターのみなさんに教えてもらいました

 

ベトナムの食事マナーは”床にゴミを捨ててもOK”なことも

ベトナムは中華圏とフランスの食文化が入っていることからも、使う道具は箸・スプーン・フォークなどさまざま。路上店や露店では、骨やティッシュなどを床に捨ててもOKな状況もあります。

・路上店で食べるときには、衛生対策としてお箸やスプーンなどの食器はティッシュでしごく。
・路上店や露店では骨やティッシュなどのゴミは床に捨ててもOKな場所も多い。飼い犬や猫が骨を食べたり、閉店時には箒で掃いたり水で流したりして片付ける。
・麺料理が多いがすすらない、そもそもすする概念がないとも言える。
・衛星上の理由からも器に直接口を付けて食べることはあまりせず、習慣化している。
・音を立てて食べることは珍しくない、最近では都会育ちを中心に減っている傾向あり。

板坂

食事じゃないですが、ベトナムって人前で鼻をほじるのOKじゃないですか。


水嶋

あぁ、確かに、たまに見かけますね。


板坂

前にベトナム男子に聞いたら、好きな女子が鼻をほじっている姿が「かわいい」んだそうです。


水嶋

そんな仕草なの!? 「ゴムバンドを口でくわえながら髪をくくる」みたいな感じなのかな……いや、これも人それぞれか!?

掃除しやすくタイル床が一般的/©ネルソン水嶋

情報提供:ネルソン水嶋

 

イタリアの食事マナーは”大皿をシェアしない”

イタリアはTPOの使い分けがハッキリしているため、衛生上というよりは、マナー関連が多め。ただし、カジュアルな場ではあまり気にしなくてもOK。

・パスタやスープをすすって食べるのはかなりのマナー違反
・料理は基本的にシェアしない、ピッツァも一人一枚食べる。
・パンはテーブルクロスの上に直置き
・朝食は基本甘いもので、軽め。
・皿に残ったソースをパンですくって食べる行為(スカルペッタ)は行儀が悪い。ただし、よほどしっかりしたレストランでなければやってる人はよくいる。
・食後にはコーヒーをよく飲むが、ミルクの入ったもの(カプチーノ、カフェラテなど)は飲まない。「お腹が膨れるもの」というイメージなので、食後に飲むのは奇妙な感じ。ただしマナー違反ではない。
・器は持たない、口をつけない。日本料理店で味噌汁を頼むと、レンゲと一緒に出てくる。
・食卓には塩、胡椒、オリーブオイル、ビネガーが常備してあり、皿の上で好みに味付けしていい。

水嶋

ちなみに「すすらずにスープを飲む」ってどうやるんでしょうか?


鈴木

改めて頭で考えると「あれ?」ってなりますね。吸い込むんじゃなくてスプーンを傾けて口の中に流し込む感じなら、いけると思います。余談ですが、イタリアはそもそも音を立ててすすることができない人が多いみたいです。マナー違反の一方で、そもそも習慣がないのかも。

ピッツァも一人前!/©鈴木 圭

情報提供:鈴木 圭

 

中国の食事マナーは”目上の人が来るまで待つ”

中国は、中華圏の中心地だけあって、ベトナムもふくめて日本や韓国などのアジア圏と近め。メンツを気にするゆえの傾向も。

・器を持ち上げず、口をつけない(意識するというより習慣化している)。
・音を立てることは珍しくないが、マナー的には日本と同じくNGにあたる。
・年上の人より先に食べはじめない。上司が仕事などで遅れてくる場合、冷菜はつまんでもよいが、温菜は注文せずに待つ。これは儒教の影響と考えられるが、関係にもよる。
・麺料理などに入っている肉の骨や殻はお盆の上に置く

海辺

食事のマナーとは違いますが、メンツを気にする人も多いです。たとえば、酔っ払って醜態をさらすことを恥ずかしいと考える意識が非常に高いです。


水嶋

へぇ~~


海辺

会社の忘年会でも半数以上はノンアルコールだったことに驚きました、「日本人ってすごくお酒好きだったのか……」というのは海外に出てみて気づいたことです。


水嶋

そういえば、電車や外で酔いつぶれて倒れているスーツ姿のサラリーマン(?)を、外国人がおもしろがって撮るという話も聞いたことがありますね。


板坂

私も上海(海辺さんも上海)に住んでいたことがあるんですが、トイレで食事をしている様子を見たことがあります。土地の傾向なのか、当時の話なのか、新築だったので抵抗がなかったのか気になっています。


海辺

私は見たことはないですね。ただトイレで同僚からライチをもらったことがあり、「気にしないのかな?」と思ったことはありました。

情報提供:海辺 暁子

 

カタールの食事マナーは”右ひざを立てる”

カタールはアラブ圏に属するイスラム教を国教とするため、その教えが食事マナーとも密接な関係がある。ある動作については、預言者ムハンマドにならったものも。

・大皿を囲むようにして直接床に座る(食事はシェアが基本)
・左手は不浄のため、食事は右手で食べる。
・食事の途中で水を飲む時など、汚れた右手でコップを掴めない時は、左手で持っても良いが必ず右手の甲をコップの底に添える。
・右ひざを立てて食べることでお腹を圧迫し、食べ過ぎを防ぐ。
・食事を食べる順番は基本的に”年功序列”

水嶋

右ひざを立てるって、もしかしてイスラム教の戒律が関係していますか?


福嶋

これはいわゆる「推奨行為」で、「預言者ムハンマドがやっていたのでムスリムも真似した方がよい」とされるものです。


水嶋

へぇーー! 守るべき戒律以外にも、推奨行為というものがあることに驚きました……。

情報提供:福嶋 タケシ

 

マレーシアの食事マナーは”多種多様”で幹事は大変?

マレーシアは多民族国家で、出身や民族によって食習慣が異なる。そのため、華人、マレー系、インド系などで、さまざまなマナーが存在する。

・華人は、にぎやかに話しながら食べるのを好む傾向。
・中華料理店などでは、食器やカトラリー(スプーンやフォークなど)の消毒用に熱湯を入れたボウルが出てくる。
・衛生上、だれが触れたか分からないため饅頭などは表の皮をはがして捨てる。
・マレー系とインド系は手食が多い(使うのは右手)ので、食前・後に必ず手を洗う。
・会食の場合は、宗教上の制約に配慮する必要あり。豚肉、牛肉のほか、ラード、ゼラチンなどの動物性食品、みりんやリキュールなどの酒類にも注意。
・バナナの葉で食べるインドカレーでは、葉をたたむのが食事終了のサイン。葉は葉脈が水平の状態で置かれているが、手前に倒すと「美味しかった」、向こう側に折ると「不満足」というメッセージといわれる。
・飲食店での喫煙は2019年1月から厳格化、屋外でも禁止になった。
・飲酒に関しては、たぶん日本よりもずっと厳しくて、少なくとも街なかでは酔っぱらいは見かけない。
・食品は基本的に持ち帰りが可能、食べ残しを包んでもらうのもごく普通。

水嶋

個人の宗教上の戒律も絡むため、会食の幹事は大変そうですね……。


森

とても重要ですね、宗教的な禁忌が絡むと大問題になります。華人の知人は国営企業で働いていました。公務員や国営企業の職員にはマレー系が多いため、会食はイスラム教の戒律に沿うだけでなく味付けもほぼマレースタイルだったそうです。

バナナリーフカレー/©Misaochan

情報提供:森 純

 

タイの食事マナーは”「遠慮の塊」がある”?

タイは、同じ上座部仏教国であるミャンマーともかなり似ている。

・器は持ち上げず、顔を近づけるのはいわゆる犬食いで下品な行為。
・基本的に、左手にフォーク、右手にスプーンで、スプーンはナイフの役割にも。
・ただし、麺類だけ箸(焼きそばなどはフォーク&スプーン)。ただ日本のように、箸の持ち方に手本などはない。
・もち米は、一口大にちぎり、手で握って固める。大皿(シェア用)のスープや炒めものなどに米粒を落としはいけないため。
・スープや麺類などを中心に、音を立てて食べない。
・食事の場で大きな声や音はよくないこととされる
・一個二個と分けられる料理は、最後の一個を遠慮する。マナーというか習慣というか、美徳というか。「フェーン・スワイ」といい、「素敵な恋人ができますように」といった願掛けみたいな意味合いもある。人によって、譲った方が恋人ができる、食べた人に恋人ができるなど解釈が異なる。
・屋台では小銭はチップに
・マナーではないが、食事は食事、飲酒は飲酒、と分ける人が多い。

板坂

たしかにミャンマーと近いですね、これは違うと思ったのは「麺類だけ箸で食べる」ということ。ミャンマーでは麺類も基本的にスプーンで、最初に麺を短く切ってからすくって食べます。田舎では手で食べる人も。一方で、中国や、中国に近い地域のシャン族由来の麺だと箸で食べます。


水嶋

最後の一個を遠慮するというのは、日本でいう「遠慮の塊」みたいですね


高田

これはマナーというか習慣というか、美徳というか。「フェーン・スワイ」といって願掛けみたいな意味合いがあります。たとえば、「素敵な恋人ができますように」とか。人によって譲った方が、食べた方が、と解釈は違いますが。

タイのパパイヤサラダ、ソムタム/©高田 胤臣

情報提供:高田 胤臣

 

ミャンマーの食事マナーは”スープを回し飲む”

ミャンマーは中国とインドに挟まれるため、箸文化や手食などが混在している。独特なものとしては、スープの回し飲みといった習慣も。

・取り分けの皿や椀は持ち上げない
・手で食べるのはOK、一定年齢以上の人は手で食べる。
・基本は左手にフォークを持ち、右手のスプーンをナイフのようにして食べ物を切るのに使う。
・骨や皮などの食べ残しは自分の皿へ。中華文化圏のようにテーブルに置いたり床へ捨てたりはしない。
・ゲップはOKだけど鼻をかむのはダメ。オナラは論外。
・スープは1テーブルに1つが基本。大きなどんぶりに入っていて、ひとつのスプーンで回し飲みする。
・デザートのお茶の漬物もひとつのスプーンで回し食べ。ただし、スプーンを舐めず、口の中に放り込むように食べるのがマナー。
・年長者や目上の人が食べるまでは食事に手をつけない、とくに肉料理。
・逆に、年長者や目上の人は、遠慮している人の椀に肉料理を入れてあげる。
・殺生を嫌う上座部仏教の帰依度により範囲は異なるが、特定の動物を食べない人が多いため、みんなで外食する際は注文前の確認が大事。

水嶋

スープ回し飲みですか!これあんまり聞いたことないですね。


板坂

これはかなりミャンマー独特と思います、ほかの国で見たことがないです。ただし都会で外国人と接する機会の多い人だと、ミャンマーのこの習慣を外人が敬遠することを知っているので、その人のスープだけ小さい椀に取り分けさせるという気遣いをしてくれる人もいます。


水嶋

上座部仏教の帰依度による食べてもよい範囲とは、どんなものですか?


板坂

もっとも帰依度が高いと完全菜食主義。順に挙げると、魚は食べる、鶏も食べる、豚なら食べる。さらに下がると牛だけ食べない、という感じでしょうか。ちなみに、牛を食べない人は私の周囲だと半数くらいです


水嶋

思っていたより多い!


板坂

ちなみに、マレーシア、タイ、中国の習慣を見て、ミャンマーにおけるスプーン&フォークと箸の使用頻度のばらつきに、中国とインドの間にあることを改めて実感しました。

情報提供:板坂 真季

 

韓国の食事マナーは”お酒の継ぎ足しはNG”

韓国はかなり日本に通じる。違った特徴としては、目上の人の前では、面と向かってお酒を飲むのはNGなど。

・食器を手で持ってはいけない
・テーブルに肘をついて食べることもある
・年長者よりも先に食べない、日本にもないとは言わないがより厳格。
・同じお皿をつついて食べるのは普通、かき氷もひとつの器で食べることも。
・お酒の継ぎ足しはNG
・お酒は年長者や目上の人の前で飲む場合は、面と向かって飲まずに横を向いて飲む。

水嶋

韓国の食器って金属製が多いですよね。これまでの国を振り返ると、珍しい。


吉村

これはかつて、王の食事に毒が盛られていないか確かめるために変色しやすい金属の匙や箸を使っていたころの名残なのかもしれません。ただ最近はステンレス製で、学食などの食器はけっこう軽いですよ。プラスチック製もあります。


水嶋

名残の話、すごく納得……。金属ゆえに重たいということも、「手に持たずに食べる」ということに少なからず関係がりそうですよね。


吉村

言われてみればそうかもしれません。持って食べると、「お膳を与えられていない囚人のようだ」なんて言ったりもします。


水嶋

へ~! 日本だと手に持たないと行儀が悪いと言ったりするし、本当ところ変わればだ……。

情報提供:吉村 剛史

 

ドイツの食事マナーは”乾杯のあとに目を合わせる”

ドイツは同じ欧州諸国のイタリアと共通点も多め。ただし、「食への情熱があまりない」ということで、食事内容はイタリアに比べると質素とのこと。

・音を立てて食べない、すすらない。
・器は手で持ち上げない、直接口をつけない。
・料理はシェアしない、私の皿は私のもの。中華料理店に行くと、客の中でもドイツ人だけ誰ともシェアしていない。
・乾杯して一口飲んだ後に、必ずほかの人と目を合わせる。
・マナーではないが、温かい食事は昼間に食べる。
・一方の夕食は、「火を使わない食事(パン、ハム、チーズという食事)」という伝統的な習慣を続けている家も多い。体感としては、半数以上。

久保田

ドイツもイタリアと似ているところが多めです


鈴木

イタリアもドイツも「私の皿は私のもの」なんだと思います。中華でも和食でもシェアしないので、日本料理店に行くと「一人用舟盛り」なんてメニューまで。


水嶋

それ、すごいですね! 文化が回り回って奇妙な感じに……。


鈴木

テーブルスペースの無駄遣いです。

ドイツの朝と夜はパンが基本/©久保田 由希

情報提供:久保田 由希

 

郷に入りては郷に従え?その国の食事マナー

予想がついたものからかなり意外だったものまで、たくさんありました。すべてのレストランや家庭でそうとは言えませんが、たとえばこのあたり…

・ベトナムの骨やティッシュは床に捨てる
・カタールでは右ひざを立てて食べすぎを防ぐ
・ミャンマーでは大皿に入ったスープを同じスプーンで回し飲み
・ドイツやイタリアといった欧州では「私の皿は私のもの」という傾向が強い
・タイにも遠慮の塊がある、ただし意味合いは日本と異なる。
・マレーシアの会食は多民族を考慮、幹事は大変。
・韓国は目上の前で横を向いてお酒を飲む

その理由も、衛生上のものから、今や習慣化したもの。また、宗教上、合理性を求めたものまで……。だれでも基本的に毎日食事はとるので、もしかすると、料理とともに、文化的な特色がかなり色濃く出るものなのかもしれませんね。

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この記事を書いた人

ネルソン水嶋

ネルソン水嶋

ブロガー、ライター、編集者。2011年のベトナム移住をきっかけにはじめた現地生活を綴るブログ『べとまる』から『ライブドアブログ奨学金』『デイリーポータルZ新人賞』などを受賞を契機に、ライターに。2017年11月の立ち上げから2019年12月末まで、海外ZINEの編集長を務める。/べとまるTwitterFacebooknote

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