清潔なトイレは先進国の証?マレーシアが威信をかけ取り組むトイレ革命

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※本記事は特集『海外のトイレ』、マレーシアからお送りします。

クリックorタップでマレーシア説明

 

在住外国人みんなの悩みのタネ、トイレ

「もう、いや! また詰まっているんだもの。いったい故障していない日なんて、あるわけ?」。マレーシアの大学の講座で勉強していたころ、同級生たちがぶうぶう言っていたのは、学内のトイレがしょっちゅう故障していることでした

「トイレ故障中」の張り紙。

マレーシアのトイレはおおむね水洗です。しかし、紙が硬いからか、排水管が細いのか、しばしば詰まっていて、マレー語はできないけれど「故障」という単語は覚えた、という外国人留学生もいました。

女性の場合は便座に座って用を足すこともあり、清潔度も気になる問題です。床が水びたしだとか、便座に靴跡が付いている(!)とか、個室内に紙の用意がないのは、小さなことでも毎日続けばストレスを感じます。

トイレをきれいに使いましょう、というポスター。

日本に旅行したマレーシア人の感想は、「街にゴミが落ちていない」「電車が時間に正確だった」あたりが二強ですが、「トイレがきれいだった」という反応も意外とあります。きれいな方が、やっぱり気持ちいいですよね。

 

いろいろすぎてまとまらないトイレ・マナー

マレーシアの場合、トイレ問題を考えるときに無視できないのは、紙処理派と水処理派の綱引きがあることです。早くから紙があった中国では、葉っぱや反故紙などでふき取る習慣が生まれたのに対し、年中暑い東南アジアなどでは水で洗い流すのが主流。そういうわけで、中国にルーツをもつ華人は紙を使う人が多いのに対し、マレー系、インド系は同じトイレでも水を使う人が少なくありません

ショッピングセンターなどのトイレ。ダイヤル式でシャワーが使える。

西洋式のトイレの普及とともに、紙を使う人も増えましたが、水で洗った方がすっきりする(その上涼しい)と感じる人も依然多く、民族が入り混じる職場のトイレなどでは「ドライ・トイレ」と「ウェット・トイレ」を分けているところもあるそうです

ハンドシャワーが使える個室には、ドアに表示があることも。

一番よく見かけるタイプのハンドシャワー。

個人店舗や家庭では、バケツに水を汲み置くタイプのトイレも。

ちょっとお借りします。ホースからは、こんな感じで水が出ます。

伝統的なトイレはしゃがむタイプですから、大多数ではないにしても、まだ洋式トイレに慣れていない人が便座に上がってしまうことも。だから便座に靴の跡が残っていたりもするわけです。

「便座に上るな」の英語/マレー語二か国語表示

加えて、労働者の4人に1人が外国人で、正式な許可をもった労働者だけで180万人という社会ですから、それぞれの習慣が持ち込まれてトイレのマナーは複雑化しています。マレーシア国民でも、国語のマレー語ができない、英語がわからない人もいることから、「トイレをきれいに使いましょう」といった標語も複数言語で書かれるという事情があります

 

ルック・イースト再び?「日本のトイレを見習え」

求める基準は違うにせよ、誰だってきれいなトイレを使いたいはず。外国人観光客も増えるなか、政府や地方自治体もトイレ改革に乗り出しています。

「わたしは現在の状況がとてもはずかしい。汚い公衆トイレは、わたしたちマレーシア人の公共意識の低さの表れだ」。2019年8月、マハティール首相は市民教育に関するスピーチで公衆トイレの問題を提起、日本の清潔ぶりを引き合いに出しました。

*出所 ‘Mind your toilet manners’, The Star, 14 Aug 2019.

啓発ポスター「清潔なトイレ文化をめざして」。

地元紙によると、トイレの啓発キャンペーンは、これまでにも何度も行われてきました。

*出所 Many clean toilet campaigns held to instil awareness, The Star, 14 Aug 2019.

1997年には住宅地方政府省が、2004年には国立トイレ衛生委員会などが組織され、クアラルンプール、ジョホール・バル、クチンでも啓発キャンペーンが行われました。2005年の「世界トイレの日」には、全国145の地方自治体で公衆トイレの清掃と意識改革キャンペーンが展開。

クアラルンプールでは2007年9月に「きれいなトイレ月間」が設定され、保健局が正しいトイレの使い方のパンフレットやちらしを配布、清掃の実施要項を定めています。

クアラルンプール国際空港のトイレの使用説明。

実は今年2020年は、1981年の「ヴィジョン2020」発表以来、マレーシアが先進国入りの目標としてきた年でした。2019年に政権交代があったため、2020年中の達成は見送られましたが、一定の経済成長を遂げた今、「市民意識が高まれば、進歩的で清潔なマレーシアは世界から尊敬されるだろう」というマハティール首相は「トイレ改革」も視野に入れているようです。

 

旅行者のためのきれいなトイレの探し方・携行品

さて、マレー語での一般的なトイレの呼び方は“tandas(タンダス)”。英語の「トイレット」も通じます。ショッピングセンターでは“wash room”という表示を見かけたこともあります。

「レストルーム」もよくつかう言い方

街なかで公衆トイレを見つけるのはなかなか大変で、駅やバス・ターミナルのトイレはあまり清潔とはいえないので、わたしは外国人の友達には、国際級ホテルか、ショッピングセンターのトイレに行くよう勧めています。掃除の回数が多いので、清潔に維持されているからです。

単にアイコンで表示されているトイレも多い。左端の緑マークは礼拝所のしるし。

快適なトイレ生活のために、もっていると助かるものを3つ考えてみました。

 

1.何はなくともトイレットペーパー

ポケットティッシュでもいいのですが、残り少なくなったトイレットペーパーを芯と一緒に持ち歩くのも便利です。たいてい紙が備え付けてありますが、紙質が硬かったり、補充されていないこともままあるので。

ほんとに書けちゃった。硬くて厚いトイレットペーパーにサインペンで落書き。

2.少額コイン

ホテルやショッピングセンターのトイレはおおむね無料ですが、利用料が必要なところがあります。1リンギ以下の小額コイン(20~50セン程度)をもっていると便利です。以前、地方旅行中に、連れに荷物を頼んでバス・ターミナルでトイレに行ったところ有料で、お財布を取りに戻ったことがあります。

人気の観光場所「セントラル・マーケット」のトイレは有料。

コインを入れてはいる、セントラル・マーケットのトイレ。

3 S字フック

先に、水で処理する習慣があることを書きました。トイレの床は水びたしのことが多く、日本のように手荷物を置く棚などがないことがよくあります。ドアのフックなどにちょっと荷物をかけておくには、100円ショップなどで売っているS字フックがあると便利です。

ドアのフックに持ち手をくるくる巻きつけた、バッグのかけ方。

なお、ドアの上部に隙間がある場合、泥棒にご用心を。上から長い棒のようなものを個室内に差し入れ、ハンドバックなどの持ち手を絡めて持ち去るケースがあるそうです。中にいる人はすぐに追いかけることもできませんし、犯人の姿も見えませんので、逃げられてしまうことも多いとのこと。フックに持ち手を絡めておくのは、防犯上も役に立ちます。

飛行機をイメージした、クアラルンプール国際空港のトイレ。

 

トイレでわかるその国の文化

旅行中のトイレは、ちいさな異文化体験。

たとえば、トイレットペーパーが個室内にはなく、入り口にある大きなロールから必要分だけ切って入るところがあるのは、補充することを考えると合理的な仕組みです。一列に並んで待っていると、「わたしは洋式トイレがいいので、お先にどうぞ」という具合にトイレの形による譲り合いがあることもわかります。

ときには困ることもありますが、観察していると習慣や考え方の違いも見えてきて、トイレ・ウォッチもなかなか面白いものです。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

森 純

森 純

マレーシアを中心に東南アジアを回遊中。東南アジアにはまったのは、勤めていた出版社を辞めて一年を超える長旅に出たのがきっかけ。十年あまりの書籍・雑誌編集の仕事を経てマレーシアに拠点を移し、ぼちぼち寄稿を始めました。ひとの暮らしと文化に興味があり、旅先ですることは、観光名所訪問よりも、まずは市場とスーパーマーケットめぐり。街角でねこを見かけると、つい話しかけては地元の人に不思議がられています。

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