動植物の宝庫マレーシアは”花大国”、1万7千種の中の代表格たち
※本記事は特集『海外の花』、マレーシアからお送りします。
さすが熱帯、1万7000種の植物を擁するマレーシア。
マレーシアで熱帯の豊かさを感じるのは、一年中さまざまな花が咲き、果物が豊富なこと。わたしは雪深い北国の出身なので、途切れることなく咲く花の種類の多さに驚いています。
ボルネオ島に原生林を擁していることもあり、マレーシアは動植物の多様性で知られています。なにしろ1万7631種の植物が確認されているといいますから(出所)、まだ見たことのない花に出会うのも無理はありません。
蘭は街なかで見かける身近な花
豪華な印象のある蘭も、「特にマレーシアは最も豊富で約5000種」(ブリタニカ国際大百科事典)あるそう。日本にも温帯原産の蘭がありますが、熱帯蘭は温室栽培しなくてはならないので高価です。
蘭はマレーシアでは身近な植物のようで、鉢植えも誰でも手が届く値段。最近、自宅近くに蘭園からのトラックが店開きするようになり、ご近所のみなさんが気軽に鉢植えを買っていきます。
ハイビスカスが「マレーシアの花」になるまで
そんなマレーシアで、もっとも親しまれているのはブンガ・ラヤ(”祝福された花”)とよばれるハイビスカスでしょう。
原産地はインドという説もありますが、はっきりしていないようです。園芸品種として改良され、マレーシアでは赤以外に、白やピンク、サーモンピンクなどもよく見かけます。
現在のマレーシアが「マラヤ連邦」としてイギリスから独立した翌年の1958年、農業省は国花の候補を選びました。名前が挙がったのは、ハイビスカス、イランイラン、 ジャスミン、チューベローズ、 睡蓮、 バラ、ミサキノハナの7つ。
続いて情報省が国民にアンケートを実施したところ、結果は、マレー系が多く保守的な土地柄のマレー半島東海岸で好まれたのは薔薇で、華人などの移民が多く都市住民で構成される半島西海岸の人びとが選んだのはジャスミンでした。
しかし政府は最終的に、ハイビスカスを選びました。「国全体でよく知られていてどこでも見られること」、「花の名が各地で共通なこと」、「その時点で他の国の国花になっていないこと」などが考慮された結果だそうです。そうして1960年7月、初代首相のトゥンク・アブドゥル・ラーマンがハイビスカスを国の花と宣言、正式に国花になります。
その後、1970年に国民の統一の象徴として「ルクン・ヌガラ」(国家原則)が発表されました。内容は以下の5つの原則で、マレーシアの学校教育の基本理念にもなっています。
- 神への信仰
- 国王と国家への忠誠
- 憲法の遵守
- 法による統治
- 良識ある行動と徳性
そうして国花であるハイビスカスは、「五弁の花びらがこの5つの原則を象徴している」と学校で子どもたちに教えられるようになりました。
イギリス人の名前がついたラフレシア
「世界最大の花」といえば、ラフレシア。
マレーシアのほか、インドネシア、タイ、フィリピンなどにあるそうですが、わたしはまだ実物を見たことがありません。開花して3日ほどしか花をつけないので、開花時期に合わないと見ることができないといいます。マレーシアではボルネオ島でトレッキングをすると、森に詳しい案内人が咲いている場所に連れて行ってくれるそうです。
ラフレシアをヨーロッパ世界に最初に紹介したのは、シンガポールにイギリスの植民地を築いたスタンフォード・ラッフルズです。任地であるインドネシアのスマトラ島を調査していた際、調査隊を案内していた地元の住民が異様な花を発見、その花は隊の代表者のラッフルズにちなんで「ラフレシア」と名づけられました。
ラフレシアの仲間は二十種ほどあり、もっとも知られているのはラフレシア・アーノルディという種です。ラッフルズの調査に随行して、植物のスケッチや標本採集などを担当していた、やはりイギリス人の博物学者、ジョセフ・アーノルドの名前がついています。
肉厚で、鮮やかな赤い花弁に白い斑点がついたラフレシアの花は、近づくと腐臭がするといいます。毒々しい外観から、案内人たちは人食い花ではないかと恐れたそうですが、実際には葉・根・茎がなくほかの植物の根につく寄生植物で、強い匂いは虫を引き寄せて花粉を広めるためのもののようです。
スパイシーなショウガは、花もきれいだった!
日本では薬味に使われているショウガ(英語ではジンジャー)は、3世紀ごろに中国から日本へ渡来したといわれています。今のところ野生種は発見されておらず、原産地はインドを中心にした熱帯アジアと推定されています。
たいへん種類が多く、分類上はウコン、カルダモン、クズウコン、ミョウガ、バナナなどもショウガ目。ショウガ科の47属1500種(日本大百科全書)の8割はアジアにあるそうです。
マレー半島はショウガの仲間が多く、街なかでもジンジャー・ウォッチングが楽しめるところなので、いくつか紹介します。
自宅のコンドミニアムの植栽になっているのは「レッド・ボタン・ジンジャー 」。しっかり巻いた糸巻きのような形の真っ赤な花で、香りに引き寄せられるのか、いつもアリが集っています。中央アメリカ原産ですが、マレーシアではよく見かける花です。
市場で売っているのは「ブンガ・カンタン」(”ショウガの花”)です。マレーシア・インドネシアが原産で、英語名は「トーチ・ジンジャー」(torch ginger) といい、長い茎の上に花をつけることを「松明」 (torch) に見立ててこの名があるそうです。
マレーシアでは麺料理の薬味などに使われ、特にプラナカン料理のラクサには欠かせないといいます(プラナカン=地元マレー系と、外国から移住してきた他民族とのカップルの子孫)。
空き地などに生えていて、白い大輪の花を咲かせるのは「クレープ・ジンジャー」。花びらが縮れてクレープ織(お菓子のクレープの語源になった縮織のこと)のようなので、この名があります。英語では「マレー・ジンジャー」という名前もあり、マレーシア原産としている資料もあるのですが、インドからマレー半島まで広く分布するようです。
和名は「オオホザキアヤメ」(大穂咲き菖蒲)というそう。1mほどの背の高い花ですので、アヤメの名に納得しました。
ちなみにショウガはマレー語で「ハリア」。マレー系なら辛いソースである「サンバル」に、インド系ならカレーに、華人なら魚料理や炒めものにと、地元ではよく使うハーブです。パハン州ベントン産の特産で、香りがよいといわれています。
マレーシア名物「青いお菓子」の色づけはチョウマメの花
タイやインドネシア、シンガポールには「青いごはん」「青いジュース」「青いお茶」「青いお菓子」などがあります。マレーシアの場合は「ナシ・クラブ」という青いごはんや、「ニョニャ・クエ」とよばれるプラナカンのお菓子が有名。
この青は、熱帯アジア原産のチョウマメの花を色付けに使ったもの。蝶のような形の青い花を咲かせるつる植物で、日本では鑑賞用の鉢物として栽培されているそうです。そういえば、2017年にはサントリーが青い菊を開発して話題になりましたが、この遺伝子組み換えにカンパニュラ(風鈴草)と共に使われたのもチョウマメでした。
食欲をそそる色は赤や黄色などのイメージがあるので、青い食材は不思議な気分になりますが、食事は手軽な異文化体験。東南アジアに来たら挑戦してみてはいかがでしょうか。
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編集:ネルソン水嶋
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この記事を書いた人
森 純
マレーシアを中心に東南アジアを回遊中。東南アジアにはまったのは、勤めていた出版社を辞めて一年を超える長旅に出たのがきっかけ。十年あまりの書籍・雑誌編集の仕事を経てマレーシアに拠点を移し、ぼちぼち寄稿を始めました。ひとの暮らしと文化に興味があり、旅先ですることは、観光名所訪問よりも、まずは市場とスーパーマーケットめぐり。街角でねこを見かけると、つい話しかけては地元の人に不思議がられています。