韓国はなぜコーヒー好き?王の嗜好品から純喫茶におしゃれカフェまでその歴史

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※本記事は特集『海外の飲み物』、韓国からお送りします。

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韓国人1人あたりのコーヒー消費量は年間500杯!?

韓国の繁華街やビジネス街を歩いていると、片手にコーヒーを持っている人の姿をよく見かけます。街中にはカフェがひしめき合い、地下鉄の駅や繁華街にはコーヒースタンドが至るところにあります。

会社では出勤時や昼休みにコーヒーをテイクアウトして職場に持ち込み、常にコーヒーが欠かせないという人もいます。厳しい受験戦争にさらされ、勉強の集中力を高めるためにコーヒーを飲む学生も多くいます。

コーヒーの消費量については様々なデータがあり、それぞればらつきがありますが、韓国人1人あたり年間約500杯とも言われています。

一方で、近年ではコーヒーやカフェに関する規制もニュースで取り上げられることが増えました。2017年にはソウル市が火傷による怪我を防ぐためにバスへのコーヒーの持ち込みを禁止したり、2018年には法律や条例によって、カフェインの過剰摂取を防ぐために小中高で高カフェイン飲料の販売を禁止したり、環境保護のために店内では使い捨てカップの使用を禁止したり、といったことです。

では、なぜ韓国人はコーヒーが好きなのか? そして、なぜ最近ではカフェ文化が根付いているのか? 文化のみならず、歴史的な面からも見て行きたいと思います。

 

韓国で最初にコーヒーを飲んだ人は?

韓国で最初にコーヒーを飲んだとされる人は、朝鮮第26代王の高宗(고종、コジョン 1859~1919)です。高宗は当時、朝鮮で勢力を強めていた日本の勢力を恐れて、ソウルにあるロシア公使館に逃げ込んで暮らしていたときにコーヒーと出会います。

高宗の最初の写真

高宗はロシア公使館から戻ったあとは、1897年に大韓帝国を樹立して皇帝となり、現在ソウル市庁のそばにある徳寿宮(덕수궁、トクスグン)で暮らしますが、コーヒーの味が忘れられず、日常的にコーヒーを愉しむようになります。これに目を付けたロシア語訳官が、高宗を暗殺しようとコーヒーに毒を入れたという事件もあったほどです。しかし、高宗は口にしたあと異変に気付き、結局は未遂に終わっています。

徳寿宮には海外から流入した文化の影響を受けたため洋風の建築が多いのですが、そのひとつが1900年頃に建てられた「静観軒」という建物。ロシア人建築家により設計された韓洋折衷の建築物で、テラスが取り付けられています。

テラスにはテーブルが置かれ、高宗はこの場所に外国使節たちを招き、お茶会を開くなどしてコーヒーを飲んでいたといいます。こうして20世紀初頭には高宗をはじめ、上流階級の人たちがコーヒーを嗜むようになりました。

日本では、「水戸黄門として知られる徳川光圀が日本で初めてラーメンを食べた」(現在は異なる説が出ている)と伝えられていますが、このように高貴な人物がコーヒーを嗜んでいたことは、韓国でコーヒー文化が発達したことにも影響しているのではないでしょうか。

 

インスタントコーヒーと、韓国の純喫茶「タバン」

日本統治時代、そして朝鮮戦争(1950~1953)のあとは、アメリカから救援物資としてインスタントコーヒーが入ってくるようになり、庶民たちもコーヒーを飲むようになります。

韓国語では喫茶店のことを「タバン(다방、茶房)」といいます。しかし韓国で若者たちが行くような場所は「コピショプ(커피숍、coffee shop)」や、最近では「カペ(카폐、cafe)」と呼ばれるので、今では昔ながらの喫茶店、日本でいえば純喫茶にも似た存在ですが、70~80年代にはこのタバンが庶民や学生にも広がり、流行していたのだといいます。

当時のタバン(다방)などを模したセット場

 

喫茶店ではインスタントコーヒーが出てくる!?

今でも韓国には昔ながらのタバンは存在します。そこで出てくるコーヒーといえば「タバンコーヒー(다방커피、茶房コピ)」が主流です。

タバンコーヒーとは、インスタントコーヒーに砂糖、粉ミルクを適度な分量で混ぜあわせた甘めのコーヒー。お店ではコーヒーカップに入った形で出てきます。「インスタントコーヒーにお金を払うのか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、韓国では今でも一般的なものとしてこうしたものが売られています。

 

コーヒーに卵の黄身を入れて飲む?

こうしたタバンのなかでも驚きなのは、かつては「モーニングコーヒー(모닝커피、モニンコピ)」という名のメニューがあり、インスタントコーヒーのなかに卵の黄身を入れて飲んでいたということ。これは主に朝に飲む人が多く、卵の栄養素も同時に摂れる、という優れもの。これにごま油を加えて飲む人もいるのだとか。

このことを50代ほどの方に尋ねてみたところ、松の実や生姜など生薬を用いた韓国の伝統茶である雙和茶(쌍화차、サンファチャ)に卵の黄身を入れたものも「モーニング(모닝)」と呼んでいたともいいます。これらについては、現在はタバンのメニューにはないところがほとんどですが、今でも出してくれるお店があります。

卵の黄身を入れた雙和茶(ソウル特別市中区・乙支茶房)

写真は雙和茶に黄身を入れたものですが、こんなふうにコーヒーに卵の黄身を入れて飲むのも同じこと。コーヒーや雙和茶にとろりとした卵の黄身が加わります。あまり慣れない味ですが、飲んでみると心なしかスタミナがついたような気分になれます。

レトロな雰囲気のタバンの様子(乙支茶房)

昔ながらのタバンの雰囲気はレトロで、今の若い世代が気軽に入るカフェとは異なりますが、昔ながらの喫茶店を味わってみたい方は、入ってみる価値があると思います。

 

コーヒーミックスは韓国発祥!

そして、インスタントコーヒーのなかでも韓国発祥のものがあります。その名も「コーヒーミックス(커피믹스、コピミックス)」。1976年に東西食品(동서식품、トンソシップム)という企業が発売したものです。

これはインスタントコーヒーに脱脂粉乳や砂糖が含まれ、スティック状の袋に入っているもの。この会社の商品は、のちに「맥심(Maxim、メクシム)」というブランドで広まり、現在も韓国で高いシェアを維持しています。

ホテルの客室に置かれていた同社のコーヒーミックスと玄米緑茶

このコーヒーミックスが登場した80年代以降には、自動販売機でもこれが飲めるようになりました。

 

食堂に置かれたコーヒーマシン

韓国の一般的な食堂のなかでも、学生やサラリーマンが日常的に使うようなお店ではなく、その地域でも若干、格式の高いお店には食後のサービスとしてコーヒーマシンが置かれています。100ウォン(約10円)を投入して飲むこともありますが、大抵の場合は、サービスとして無料で飲むことができます。

食堂のコーヒーマシン

 

駅のホームなどに置かれた30円コーヒー

地下鉄の駅のホームや、街中の一部にはコーヒーミックスの自販機が置かれています。これは1杯300~500ウォン(約30~50円)ほど。ミルクコーヒーや砂糖コーヒーのように、ほとんどはコーヒー類ですが、ココアや韓国の伝統茶が含まれることがあります。

 

韓国ではなぜカフェ文化が発達したか?

1988年のソウルオリンピックの後には、前述の「コピショプ(커피숍、coffee shop)が登場し、かつてのインスタントコーヒーから立ち替わり、焙煎した豆から淹れた「原豆コーヒー(원두커피、ウォンドゥコピ)」が一般的になります。

そして1990年代後半になると、外資のカフェチェーンが進出してくるようになり、1999年には韓国のソウル・梨花女子大学校前にスターバックス1号店が出店します(ちなみに日本の1号店は1996年)。

伝統建築が感じられるソウル・仁寺洞のスターバックスは、英語ではなくハングルの看板

その後は韓国発のチェーンのカフェも続々と増えていきます。その一つであるカフェベネは日本にも進出こうした韓国発のカフェチェーンではコーヒー以外のフードメニューも充実。下の写真は「EDIYA COFFEE」という大手チェーンのトーストですが、厚切りの食パンの上にはクリームがたっぷり乗っています。

韓国ではひとつ注文して、2人でシェアして食べることが多いため、このように一品にボリュームが感じられるものがあったりもします。

 

カフェ文化は韓国の世相や人付き合いを反映?

そして近年では、個人経営のカフェも街中にたくさんあります。新しくできては立ち消えて……といった繰り返しで、他の飲食店と同様、入れ替わりもなかなか激しく感じられます。

五輪開催都市・江陵にある海辺のカフェ通り

なぜ、このようにカフェが多いのでしょうか。ひとつは開業する側の事情。韓国では、たとえば事務職であれば50代で退職を余儀なくされることもあり、早期にリタイアした人たちが気軽に始められるのがカフェだといいます。

これについては韓国の就職・働き方の記事で触れています。

https://traveloco.jp/kaigaizine/work-korea

そして筆者なりの解釈を含みますが、韓国の人付き合いにも答えがありそうです。

韓国では食事の際に誰か一人がお金を支払うことが一般的(若者たちの間では割り勘もします)。その代わり、食事をご馳走になった人は次のお店であったり、別の機会に支払いをして帳尻を合わせます。そういったこともあり、食事を済ませると、そのままカフェに行こう、という流れになりやすいのです

最近ではお酒を飲まない人が増えてきており、会食をしたあとも2次会はカフェで済ます、という流れが多いのだとか。するとコーヒーを飲む機会が必然と増えるというわけで、それだけカフェの需要が生まれるのでしょう。

また韓国のカフェは一杯注文するだけで、長時間滞在できるゆったりとした雰囲気のお店が多く、Wifiや電源が完備されているためカフェで勉強したり仕事したりする人も多く、居心地がよいこともひとつの特徴です。

 

最近のインスタ映えカフェブームとおしゃれカフェ

さらに近年では国内にお洒落なカフェが増えており、日本人観光客のなかにはカフェを目当てに来る人もいるようです。インスタ映えするようなカフェ、居心地のよいインテリアのカフェ、伝統家屋である韓屋スタイルのカフェ、様々なお店があります。

そうしたカフェでのメニューはコーヒーだけにとどまらず、それ以外のドリンクや、ケーキなども工夫を凝らしている店が多く、それぞれが特徴的。どのカフェに入ってもほかとは違った新鮮な気分に浸れます。

こちらは、ここ数年で人気を集めていたソウル・カロスキル発「DOREDORE(ドレドレ)」というカフェのレインボーケーキ。虹色のケーキがインスタグラムに映えることでも注目を集めました。ソウル市内にも数店舗あります。

そしてコーヒーにとどまらず、カフェのメニューにある甘い飲み物は女性たちを中心に虜にします。

ストロベリー・ヨーグルト(ソウル・中区 THE PIORA)

こちらはソウル・東大門でお花屋さんをカフェにリニューアルした「THE PIORA」というフラワーカフェのストロベリー・ヨーグルトというドリンク。イチゴの赤とヨーグルトの白のコントラストが写真映えします。

生花店だけあって、店内は花や草木で覆われており、花の香りとともにコーヒーやドリンクを愉しむことができます。また、このようなフラワーカフェはほかにもあります。

 

「韓国カフェ=おしゃれカフェ」、そのイメージの源流は?

韓国で、若者たちを引きつけるおしゃれなカフェが多いのは、やはりコーヒー好きの影響もあるのではないかと思います。「かつては王が飲んでいたものである」ということが、高貴なイメージとともに庶民に浸透していったのではないでしょうか。

そして、砂糖や粉ミルクが入った甘いコーヒーミックスこそ、韓国ならではのコーヒー。たとえどんなに美味しいコーヒーがこれから出てきても、私はこれこそが韓国の味なのではないかと思います。韓国のコーヒーやカフェがどのような歴史をたどって今に至るのかを知れば、韓国のカフェ巡りもきっとより楽しいものになるのではないでしょうか。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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