早期リタイヤで倹約しながらつつましく…ドイツで広がる老後スタイル

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※本記事は特集『海外の老後』、ドイツからお送りします。

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少子高齢化するドイツ

海外暮らしもそこそこ長くなると、「いつまでこの国にいるのかな」などと考えたりもします。このまま定年を迎える年齢になったら、さてその後は? だんだん他人事ではなくなってきた年頃の私、自分が住んでいるドイツの年金や定年後の生活について調べてみました。

ドイツの人口は一言で言うと、少子高齢化。日本とよく似ています。近年では出生率は上昇しており、2016年では一人あたり1.59人という数字になりました。ですが一方で平均寿命は伸びているので、高齢化社会となるわけです。

少子高齢化社会で問題になるのが、年金制度。公的年金は、現在働いている者が支払った保険料で高齢者を支える仕組みで、これはドイツも日本も同じです。ところが、現役で働く世代の人口が減って高齢者が増えれば、支えきれなくなるのは自明のこと。そこで年金が今後も回るために、日本と同様にドイツでも年金改革が行われています。

3つの柱からなるドイツの年金制度

ドイツ版ゆうちょ銀行の年金パンフレット。

そもそもドイツは年金制度発祥の地だということ、ご存じでしたか? 私は今回調べて、初めて知りました。1871年にドイツ帝国としてドイツ統一を果たした当時の宰相ビスマルクが、1880年代に年金制度を含めた社会保険を整備したのが始まりでした。

当然ながら、当時の制度がそのまま変わらずに続いているわけではありません。年金改革が行われた結果、現在のドイツにおける老齢年金は「公的年金保険」「企業年金」「個人年金」の3つの柱から成り立っています。これらが、年金受給の年齢に達すると支払われるわけです。

一つずつ見ていきましょう。

まずは「公的年金保険」から。これは3つの柱の中で、最も基本となるものです。会社員・ブルーカラー労働者・公務員・一部の自営業者・農業経営者のいずれかに該当する者は、それぞれの職業に合った老齢保障制度に加入する義務があります。

次に「企業年金」ですが、これは5つのパターンがあります。例えば、会社が社員のために保険に加入して会社と社員が保険料を折半して支払うやり方や、会社自体が社内で年金を積み立てて、社員の退職後に会社から直接給付されるやり方などです。これは加入の義務はありません。

最後に「個人年金」。これは個人が保険会社の個人年金保険に入ったりするものです。個人年金にも加入義務はありません。

ドイツ政府が個人年金加入を勧めるために2002年に導入したのが、リースター年金です。収入の一部を年金用に積み立てる制度で、個人年金のほかに企業年金タイプもあります。公的年金保険に加入する義務がある人が対象となります。リースター年金の対象にならない自営業者には、リュールップ年金という制度が2005年にできました。

少子高齢化が進むドイツでは、老後は公的年金保険の年金だけでは不十分とされています。安定した生活を送るために、政府は企業年金や個人年金へのプラスアルファの加入を推奨しています。プラスアルファで入る保険のうちリースター年金とリュールップ年金は、一定の条件で年金保険料分が所得控除となるメリットもあります。

つまりドイツの年金制度は、公的年金保険を基本として、企業年金と個人年金で補完する形と言えます。

 

年金をもらえる年齢が65歳から67歳に

さて、長年に渡り支払った年金は、いったいいつから受け取れるのでしょうか。

もともとは65歳からでしたが、2012年から段階的に開始年齢が引き上げられるようになり、最終的には67歳で開始となる見込みです。例えば1946年生まれの人は2011年に65歳になった時点で支給が始まりますが、47年生まれの人は65歳と1ヶ月から、48年生まれの人は65歳と2ヶ月から開始というように、生まれ年が1年遅くなると1ヶ月ずつ支給開始が遅くなり、64年生まれの人からは67歳からようやく年金が支給される予定です。

47年以降に生まれた人は、「65になったら年金がもらえると思っていたのに……」と肩透かしを食らった格好です。開始が遅くなるのは1ヶ月ずつですが、最終的には2年も遅くなるのですから「結局私たちにしわ寄せが来るのよね」と、友人はこぼしていました。

人生100年時代と言われるこの時代。年金制度も個人の人生設計も、新たなモデルが必要なのでしょう。

60代は余裕で若い

年齢にかかわらず、ドイツ人はハイキング大好き。

私がよく参加する地域散策ツアー。参加者の年齢層は高い。

実際のところ、昔の60代と今の60代ではかなり違うように思います。自分が幼かったせいもあるのでしょうが、昔の60代は老人の域に入っていたように思いますが、今ではまったく当てはまらないのではないでしょうか。

今の60代はまだまだ若く、定年を迎えても形を変えて働き続けることは全然珍しくありません。

統計によれば60歳以上の3人に1人は、ほぼ毎日スポーツをするとか。周りを見てもジョギングやゴルフなど、スポーツを楽しんでいる人は大勢いるので、この結果も当然のように感じます。むしろ年を取ってからのほうが、健康のために適切なスポーツは必要だとも思います。とにかく人生100年時代なんですから、できるだけ健康でいることが大切になってきますよね。

 

早期リタイヤも一つの選択肢に

一方で、早期リタイアし倹約しながら暮らす「フルガリスムス」という考え方も登場しています。以前、40代でリタイアしてバカンスなどの楽しみを断念して生きる男性がメディアで紹介され、反響を呼びました。

ドイツのリゾート地では高齢者をよく見かける。

経済的な理由から早期リタイヤに至る「フルガリスト」もいますが、自らの意思で金銭に左右されない人生をあえて楽しむ人々もいます。こうした人々は貯金を投資などで運用しているケースもあるそうです。

寿命が伸びた分、生き方の選択肢も増えている現在。いずれにせよ大切なのは、健康と暮らしていけるだけの資金だなと思います。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

久保田 由希

久保田 由希

東京都出身。ただ単に住んでみたいと2002年にドイツ・ベルリンにやって来て、あまりの住み心地のよさにそのまま在住。「しあわせの形は人それぞれ=しあわせ自分軸」をキーワードに、自分にとってのしあわせを追求しているところ。散歩をしながらスナップ写真を撮ることと、ビールが大好き。著書に『ベルリンの大人の部屋』(辰巳出版)、『歩いてまわる小さなベルリン』(大和書房)、『きらめくドイツ クリスマスマーケットの旅』(マイナビ出版)ほか多数。HPTwitterFacebookInstagram

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