“伝統”の純粋vs”新風”のクラフト、ビール大国ドイツの今
※本記事は特集『海外の飲み物』、ドイツからお送りします。
ドイツの国民的飲料、それはビールがふさわしい
ドイツで飲み物といえば?
きっと、ビール好きな私でなくても「ビール」と答える人が多いのではないでしょうか。そりゃあもちろんありますよ、ビール以外のドイツでポピュラーな飲み物も。コーヒーに、ハーブティーに、ワインとか。
でもやっぱり、ビールは別格だと思うのです。ワインはブドウ栽培地としての適性から南部ドイツ中心に造られていますが、ビールはドイツ各地で醸造されてきました。もともとドイツでは地ビールが基本で、その地方でしか飲めないものもあります。
ドイツ醸造家連盟の資料によれば、現在ドイツでは1500以上の醸造所が約6000もの異なるビールを造っているのだとか。地方色豊かで、全国で愛飲されているビール。まさに、国民的飲料と呼ぶにふさわしいのではないでしょうか。
ピルスナー、ヘレス、ヴァイツェン、アルト、ケルシュ……これみ〜んなドイツビール
ひと口にドイツビールと言っても、その種類は驚くほど幅広いんです。代表的なものを挙げてみましょう。ピルスナー、シュヴァルツ、ヘレス(ヘル)、ボック、ヴァイツェン、アルト、ケルシュ……。これらは銘柄ではなく、どれもビールの「スタイル」と呼ばれるものです。
いろいろなスタイルのビールも、醸造時の発酵の仕方によって上面発酵ビールと下面発酵ビールの2つに大別されます(細かく分ければさらに自然発酵ビールもあるのですが、それはごく一部なのでここでは割愛します)。上面発酵ビールは芳香や飲みごたえがあり、下面発酵ビールはすっきりとして苦味があるなど、それぞれに特徴があります。
現在ドイツビールの主流は、下面発酵によるものです。先に挙げたスタイルでいえば、ピルスナー、シュヴァルツ、ヘレス、ボックがそれに当たります。対して上面発酵のドイツビールにはヴァイツェン、アルト、ケルシュなどがあります。
もともと最初に生まれたビールは上面発酵のものでした。ところが、1842年にドイツ・バイエルンの醸造家によって、チェコのピルゼン(チェコ語ではプルゼニ)でピルスナーが生まれて以来、製造過程に必要な冷却設備の進歩と相まって全国で圧倒的な人気となり、ドイツビールの主流に躍り出たのです。
ちなみに、日本の5大ビールメーカーの主要銘柄は、いずれも下面発酵のピルスナー。「一番搾り」も「スーパードライ」も「プレミアムモルツ」もピルスナーなので、日本ではビールといえばピルスナーを想像すると思います。
ドイツで最も飲まれているのもピルスナーですが、それ以外のビールも一般的に売られています(地域性があるので、すべての種類がどこででも手に入るわけではありません)。つまり、幅広いスタイルのビールを味わえるということですね。
クラフトビールの流れで、ドイツビールがますます幅広く
日本と同様に、ドイツでもアメリカからやって来たクラフトビール(明確な定義はありませんが、小規模醸造所の職人によって造られた個性的なビールと考えられています)人気がすっかり定着しています。
2010年頃から始まったこの流れによって、ペールエールやIPAといった、ドイツでは当時まだ珍しかったスタイルのビールが知られるようになりました。いまではドイツで誕生したマイクロブルワリー(小規模醸造所)でも造られています。
冒頭に書いたように、ドイツではもともと地ビールが基本で、その点では最初からクラフトビールと言えます。しかし現在では、大手メーカーのビールが全国どこでも売られており、それらを大量生産による個性の乏しいビールと考える人もいるようです。私自身は、大手メーカーの製品に加えて、クラフトビールブームによる選択肢が増えたことで、ドイツビールの楽しみがますます広がったと思っています。
ところで、ドイツには「ビール純粋令」という決まりがあります。「ビールには麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とすること」という内容で、1516年にバイエルンで制定され、後にドイツ全国に広まりました。しかし、EUの前身であるヨーロッパ共同体(EC)から抗議を受けたことで、ドイツ国外へ輸出する場合はその効力を喪失。
しかし、ドイツ国内では未だに有効であり、2016年にはビール純粋令500周年記念イベントが開かれました。
ドイツのマイクロブルワリー醸造家の中には、自分の思い描くビールを造るために、ビール純粋令では認められていないハーブやスパイスなどを副原料として用いる人もいます。この場合はドイツ国内で「ビール」とは名乗れませんが、販売は可能。私が愛飲している中にも、純粋令に当てはまらない「ビール」はあります。
クラフトビールの流れは、ドイツビールの伝統を破壊してしまうのでしょうか。私は、決してそうは思いません。私がこれまで取材したドイツのマイクロブルワリーでは、「ドイツの伝統を踏まえながら、新しいビールに挑戦したい」と語る醸造家たちが大勢いました。もちろんビール純粋令に則って醸造しているマイクロブルワリーはたくさんありますし、大手ビールメーカーの製品は純粋令による品質保証を謳っています。
ビール純粋令はドイツビールの伝統と品質の証としてこれからも存続するでしょうし、それには当てはまらない新しいスタイルのビールは、ドイツビールの楽しみを広げてくれると思っています。
酒場で、小売店で、イベントで。ビールを飲める場所いろいろ
さて、うんちくはこのぐらいにして、実際にドイツに来たらどこでどんなふうにビールを飲めるか、きっと知りたいですよね?
スーパーや専門店で瓶ビールを買って飲む
ビールを売っている場所としては、スーパーマーケットやキヨスクのような小売店、専門店があります。ドイツでは、ビール・ワイン・スパークリングワインは16歳から購入・飲酒ともにOKです(そのほかのお酒は18歳から可能)。日本人は若く見られがちなので、もしかすると身分証明書の提示を求められることもあるかもしれません。
小売店や専門店の前にはベンチが置かれていることも多く、そこで買ったばかりのビールを飲んでいる人も多数。ちょっと日本の角打ちのようですね。
ちなみにドイツでは缶よりも瓶ビールが主流で、ドイツ人たちは栓抜きがなくてもライターの角やフォークの柄などでいとも簡単に栓を抜いてしまうんです。私はいつまで経ってもこれができないので、フックのような形の栓抜きをキーホルダーに付けて携帯しています。これさえあれば、いつでもどこでも飲めますから!
レストランやクナイペで樽生ビールを味わう
店内で飲むなら、レストランやクナイペ(酒場)で。メニューにはピルスナーやヴァイツェンなど、通常3〜4銘柄の樽生ビールが載っていて、0.3リットル、0.5リットルなど大きさが選べます。ビールの種類や量によって異なるグラスが使われるのも、お店で飲む楽しみの一つ。普通は樽生以外に瓶ビールもあります。
クナイペは日本語にすると酒場とか居酒屋の意味ですが、食事メニューがない場合が多くローカル色が強いので、旅行者には入りにくいかもしれません。
クラフトビールの流行を受けて、クラフトビール専門バーや醸造所併設のバーも増えています。醸造所のバーでは、その場で造られたビールはもちろん、そのほかのマイクロブルワリーのビールも飲めることが多いので、クラフトビールファンにはおすすめです。
暖かい季節なら、ビアガーデンにも行ってみてください。ビアガーデンは、下面発酵ビールの本場である南部ドイツのバイエルンが発祥の地。低温の環境が必要な下面発酵ビールは地下で造られ、地表は木陰によって温度上昇を防ごうと木が植えられました。そこからビアガーデンが誕生したのです。木立の下で飲むビールは格別においしく感じます。
ビールイベントでお祭り気分に浸りながら飲む
ビール関係のイベントは各地で開かれています。最も有名なのは、何と言っても毎年に秋にあるミュンヘンのオクトーバーフェストでしょう。これについてはもう説明不要だと思います。オクトーバーフェストほど知られていませんが、ほぼ同時期にシュトゥットガルトでも「カンシュタッター・フォルクスフェスト」という似たようなイベントがあります。
私のおすすめは、ベルリンで毎年8月第1週の金・土・日に開かれる「インターナショナル・ベルリン・ビア・フェスティバル」です。これは約2kmの歩道の左右に世界各国のビールブースがズラーっと並ぶもの。私はこのフェスティバルが大好きで毎年欠かさず通っているのですが、お客さんが年々インターナショナルになってきている気がします。約2400ものビールがあるので、毎年新たな銘柄を試せて、本当に楽しいです。
じつはビール離れ、でもその先は
ビール大国ドイツではありますが、一人あたりの年間消費量は1980年の145.9Lをピークに年々減少傾向にあり、2018年は102Lでした(ドイツ醸造家連盟調べ)。若者のアルコール離れが一因と言われています。これを受けて、大手メーカーはノンアルコールビールや、清涼飲料水とミックスしたビアカクテルなどの商品開発に力を入れています。
今後もビール消費量が低下の一途をたどるのかはわかりませんが、ビール好きの私としては、好みの味を求め続けていきたいです。おいしくてバラエティ豊か、お手頃価格のビールは、やっぱりドイツの国民的飲料だと思います!
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編集:ネルソン水嶋
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