“基本の五方色”と”流行のパステルカラー”、変わりゆく韓国の色彩感覚。

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※本記事は特集『海外の色』、韓国からお送りします。

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韓国人のナショナルカラーはあるかないか

韓国といえば、何色を思い浮かべるでしょうか? やはり韓国の国旗の太極旗から、赤や青あたりをイメージするのではないでしょうか

韓国の国旗・太極旗

実際にスポーツの韓国代表のユニフォームは、サッカーが赤、野球は青を基調としたデザインになっていますし、同じ民族である北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の国旗も赤と青がベースとなっています。

このように、韓国には公式的に定められたナショナルカラーはありませんが、国を代表する色といえばやはり赤や青が挙げられるでしょう。しかしその二色だけではなく、伝統的に親しまれ、これまで様々なものに取り入れてきたカラーが存在するのです。

 

韓国の伝統カラーは「五方色」が基本

韓国の伝統的な色といえば、「五方色(オバンセッ、오방색)」がその基本となっています。これは古代中国の思想である「陰陽五行説」のうちの「五行説」、自然界のあらゆるものは木・火・土・金・水の要素から成り立っている、という説であり、色の場合は青・赤・黄・白・黒の五色がそれぞれに対応します。

五方色と五間色

この五方色を基本にし、それぞれの色の中間にあたる色が「五間色(오간색、オガンセク)」といい、紫・紅・碧・緑・(硫)黄の5色。これは五方色から2つずつ混ぜ合わせたもので、紫は黒・赤、紅は赤・白、碧は白・青、緑は青・黄、硫黄は黄・黒を合わせた色です。中間の色にあたるとはいえ比較的ハッキリとした色なので、これも原色に近いものと言えるのではないでしょうか。

韓国ではこのような五方色・五間色が伝統衣装や建築物、料理などのあらゆるところで取り入れられているのです。

 

子ども用の伝統衣装、セクトンチョゴリ

子ども用の伝統衣装の上衣はセクトンチョゴリ(색동저고리)というもの。チョゴリは上衣を意味しますが、セクトンは色とりどりに複数の色を組み合わせもののことを言います。これにも五方色や五間色が用いられています。

ちなみに韓国の航空会社、アシアナ航空の機体もセクトンの配色がイメージされており、同社のマスコットキャラクターの名前も「セクトン」といいますし、韓国を訪れたときに伝統のお土産品を見てみると、必ずといってもいいほど目にするカラーです。

アシアナ航空の尾翼はセクトンがイメージされている

 

伝統建築物の装飾に用いられる丹青

韓国の宮殿やお寺に出かけると、そこにある建物はどこへ行っても同じような色合いで塗装が施されています。「丹青(タンチョン、단청)」といわれるもので、これにも五方色・五間色が取り入れられています。

宮殿やお寺の建物の軒先は、この色調

これには装飾的な意味合いもある一方で、建物に使われている木材の腐食防止の役割もあります。

 

韓国料理

韓国料理にも五色が使われます。料理については「五味五色」と言われ、色と同じように対応する五つの味があります。この「五味五色」の例としてよく用いられるものが、宮中料理のなかでも代表的な「九節板(구절판、クジョルパン)」です。円状の器の中央にはクレープのような薄い皮があって、まわりに盛り付けられた8種類の肉や野菜を包んで食べる伝統料理です。

九節板(クジョルパン)

五味五色は九節板に限らず、食卓にならぶあらゆる料理を作る際に意識されており、これは食事のバランスとしても理にかなったものといえるでしょう。最も身近な料理でいえば、ビビンパにも五味五色の食材が含まれています。

韓国料理の五味五色に関しては以下の記事をご覧ください。

https://traveloco.jp/kaigaizine/sauce-korea

このように陰陽五行説に基づく五方色が、韓国の色使いの基本になっているといえますが、これ以降は歴史的に見て、服装にどう表れているのかをご紹介していきます。

 

朝鮮王は赤、庶民は白服、日本統治時代は黒服へ

朝鮮時代の宮中では階層により着用する色が別れていましたが、赤は王の色であり、権威を象徴する色でした(王の服は赤が多かったようですが、儀式などの場によっても異なります)。

朝鮮21代王・英祖の肖像(wikipediaより)

王族はもちろん、両班(양반、ヤンバン)といわれる支配階級は色付きの衣装を身に着けることが多かったようですが、一方で庶民たちは白い衣装を着ていたようで、「白衣の民(백의민족、白衣民族)」という言葉もあるほどです。もちろん色物を全く着なかったわけではないようですが、日本統治時代の直前の写真をみると、白衣が多かったことがわかります。

京釜線の起工式(1901年)(wikipediaより)

その後、日本が朝鮮を統治していた時代に西洋文化が流入した影響もあり、制服などで黒い服を着る人が増えたのだといいます。黒も五方色の一つではありますが、日常的な衣服として広く用いられるようになったのは、この頃からのようです。

以下では現代の韓国人の色彩感覚を見ていきます。

 

昔ながらの市場や、中高年の服はカラフルな原色が多い

韓国の町中を見渡すと、看板も鮮やかな色が用いられていることが多いことがわかります。そして街を歩いている人の衣服を見ていると、派手な色が目立つのはどちらかといえば若者よりも中高年に多いように感じます。下の写真はとある地方の市場の写真です。

韓国の市場の様子。看板も果物や野菜も色鮮やか(益山北部市場)

アジアの市場らしく野菜や果物が道に並べられ、原色のカラフルなパラソルが目立ちます。お店の看板もはっきりとした色合いです。下の写真は別の市場ですが、特に布団専門店には明るく色とりどりの布団が並べられています。

原色を中心に鮮やかな色が目立つ布団専門店(全州南部市場)

そして注目すべきなのは、登山の際の服装です。韓国ではソウルや釜山などの都市部にも気軽にハイキングができる山が多いこともあってか、登山用品店があちこちにありますし、市場に出かけると手頃な価格帯の登山靴がよく売られています。

以下はショッピングモールの、アウトドア用品売り場の例です。マネキンが着ている服は流行を取り入れたものだと思いますが、ハンガーにかけられている色は従来の登山服です。

 

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その登山の際に着るウィンドブレーカーの色合いには光沢があり、ハッキリとした派手なカラー。もちろん遭難時に発見されやすくなる、という意味もあるでしょうが、それにしても日本以上にカラフルです。中高年たちは海外旅行に出かけるときにもこれを着ていく人が多く、とある韓国の旅行会社は着用を控えるように通達をだした、と韓国国内で話題になったことさえあります。「등산복은 죄가 없다, 잘못 입은 게 죄지…(登山服には罪なし、着こなしが悪いのが罪でしょ)」(朝鮮日報、2016年6月29日)

ハイキング客は、鮮やかな衣服を身にまとう(江華島・高麗山)

さて、韓国ではなぜこのような鮮やかな色を好まれるのでしょうか?

先に述べた陰陽五行説は古代中国の思想であり、日本にも影響を及ぼしてはいます。しかし、日本では「わび・さび」の文化も影響してか、比較的落ち着いた色が好まれているのに対し、韓国ではハッキリとした原色を好む傾向にあります。

これには様々な理由が考えられますが、私はこれが性格に起因しているのではないかと感じるのです。韓国人が自らの国民性をどう表現するか、といったときに、「楽天的」「情緒的」などいう言葉が挙がります。「情緒的」は日本人にも当てはまりそうですが、日本人みずからを「楽天的」と表現することはまずないでしょう。そこが大きく異なるところです。

また、「東洋のラテン系」と言われることもあるほど、楽天的であり、恋愛に対してもアプローチが積極的な人が多く、情熱的だという声も聞かれます。そうした感情的な面が鮮やかな色に影響を及ぼしているとも考えられます。関係があるかはわかりませんが、「イタリアなどヨーロッパのラテン系の国々では赤や橙といった暖色の鮮やかな色が好まれる」と聞いたことがあります。

 

最近ではパステルカラーのような淡い中間色が多い

現代では海外文化が流入する速度が加速して、ここ最近の韓国では必ずしも原色をベースとする色使いではなく、パステルカラーのような淡い色をよく見かけるようになったと感じます

それは衣服だけでなく街に描かれたウォールアートや、観光客を呼びこむために街に施された装飾も同様です。

子ども向け交通教育施設の模型はパステルカラー。インスタグラマーの間で話題になった場所(曽坪自転車公園)

インスタ映えする街については以下の記事をご覧ください。

https://traveloco.jp/kaigaizine/instagram-korea

さらに日本で「オルチャンファッション」として若い女性を中心に認識されている韓国ファッションは、派手めな色からシックなカラーまで多様なのですが、特に日本のメディアやインスタグラムを通して紹介されるアイテムを見ると、原色系のほかパステルカラー、そのなかでも明るいピンクや、ブルーといった系統が目立ちます。

以下は、K-POPアイドルも着るなどして10代を中心に人気を集めているショップのインスタグラムです。

 

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このような日本ではあまり扱われないカラーのアイテムが「オルチャンコーデ」などとして紹介され、韓国ファッションのイメージが形成されていくのでしょう。これは、日本の若者たちが考える韓国のイメージカラーにも影響にも及ぼしているはずです。

とはいえ韓国の繁華街を歩いて、若者たちが日常的に着ている服を見ると、当然ながらそれぞれの好みに応じて多様です。明るいカラーに限らず、落ち着いた色合いも含まれます。ぱっと見ただけではそれほど日本と大差ありません。

若者の街、ソウル・弘大の様子、ストリートファッションの色は多様。

とはいえ全世代やその街並みを総合的に見てみると、韓国人の伝統的な傾向として五方色を基本とする原色をベースにした色彩を好む感覚をもっており、そのなかでも明るくハッキリとした色合いを好むといえるのではないでしょうか。

 

カラフルな街並みが楽しめる韓国

現代では世界の様々な文化が入り混じっているため、韓国らしい色がわかりにくくなっていることは確かです。それでも日本と比べると、韓国はカラフルな印象が強い国。もし韓国に出かけた時には、伝統品やファッションなどあえて派手なアイテムを選んで手に入れてみるのもよいかもしれません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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