会場は男女別、雨は中止どころか縁起物! カタールの結婚式事情

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※本記事は特集『海外の結婚式』、カタールからお送りします。

クリックorタップでカタール説明

 

結婚式には手ぶらで行こう

結婚式。人生において重要なイベントの一つですが、式場から衣装まで選択すべきことは数多く、また招待客のリストアップなど頭の痛い作業もあります。招待される側も、クローゼットの中から、前回はいつ着たのか思い出せない礼服を取り出し、お祝い金をいくら包むのかで悩んだり。

しかし、カタールならそんな心配は無用。なにひとつ準備するものは要りません。

手ぶらで参加できるカタールの結婚式とはこれいかに?

 

昔ながらのテント会場で男女は別々

先ず断っておかなくてはいけないことは、カタールでは新郎新婦すなわち男女が同席しての誓いの場というものはないということ。この記事における「結婚式」とは、日本で一般的には「披露宴」と呼ばれているものに該当します。

昔ながらのテントはベドウィン(砂漠の遊牧民)スタイル

昔から一般的な結婚披露宴は、空き地にテントを建てて行われていました。場所は新婦の実家前もしくはその近所など。家の前の道路を封鎖してテントを張ったりすることも。このようなことが出来るのは、年間を通して雨が殆ど降らない土地柄によるもの。とはいえ天候の悪いタイミングに当ってしまう人もいるでしょうが、偶に降る雨は恵みの証なので、濡れて上等、大歓迎なのです

むしろ問題は雨が全く期待できない夏の季節。冬はテントだけでも問題ありませんが、灼熱の夏場は日陰に座っているだけでも汗だくになります。かつては夏場を避けて行うことが多かったようですが、現代では密閉式かつエアコン付きのテントを使うため、季節を問わず見かけるようになりました。

披露宴は新郎新婦もふくめて男女別々に行われます。これはカタールを含めた湾岸アラブ諸国ならではの光景です。女性は人目に触れないように、専用ホールやホテルのイベント会場などを借り切って開催するのが通例。

 

試される、新郎の父親の人脈。

式は平日の通常午後4時前に始まります。週末は家族で出掛けたり、親族で集まることの多いカタール人。平日の方がむしろ都合が良いのです。そんな早い時間でもそこそこ訪問客がいます。特に王族や大臣といった身分の高い人ほど、人混みを避けるため日が暮れる前に来る場合がほとんど。

ナイター設備も完備

そんな人たちが結婚式に来るの? と驚かれるかもしれませんが、たとえ面識がなくともダメ元で招待状を出すくらいは普通。ここで父親の、普段からの人間関係と人脈が威力を発揮します。

たまに「友達の友達」の結婚式の招待状が回ってきたりします。

職場の同僚や親族など気心の知れた間柄の相手には、メッセージアプリで直接招待状を送るのが最近のやり方。それだけでなく、インスタグラムなどにアップロードして全世界公開なんて当たり前で、つまりは誰でもウェルカムなのがカタールの結婚式なのです

手前から、新郎、父親。

お客はまず会場に入ると、正面中央にいる新郎とその父親、そして叔父など新郎に近しい人たちと挨拶を交わします。

記念撮影がメインイベントと言っても過言ではありません

そして新郎と一緒に記念撮影。どの式でも専門の業者が動画も含めて撮影を行いますが、新聞社にカメラマンを要請することも。私も個人的に頼まれて撮影をしたことがあります。

12年前、友達の結婚式で撮影した写真

写真は記念としての記録はもちろんですが、各新聞紙にある「結婚式コーナー」へ掲載するのも目的。大きな部族になると全面2ページぶち抜きで。

 

良いことはみんなで分け合う精神

挨拶を済ませた後は、ずらりと並べられた椅子に座り、アラビックコーヒーや紅茶を頂きながら、他の参加者と談笑。10分程経ったら再度新郎や親族に挨拶をして退席します。

談笑する招待客(左)と新郎の父(右)

祝儀なんてものは不要。皆さんいつものアラブ装束に手ぶらです。とにかく顔を合わせて直接お祝いの言葉を告げることが大切なんですね。

出席することに意義があるのです。お互いの鼻をチョンと合わせるのはベドウィン独特の挨拶の仕方

余談ですが、カタールでは何か良いことがあったら、本人が周りにそれをお裾分けするという考えがあります。例えば、子供が生まれたばかりの父親がチョコレートを大量に買って職場で配って回る光景をよく見かけるものです。

だから招待客は手ぶら。ついでに言うと、式場には誰でも入ることが出来ます。招待状はあくまでも忙しい王族や政府関係者へのリマインドが目的で、当日は会場で受付などもなく、外国人でもカジュアルすぎる服装でなければ入っても止められることはありません

花いちもんめのように左右に別れて、部族を称える詩を歌います。

式が行われている間、テントの前では昔ながらの伝統的舞踏が披露され、その輪の中に客も入って場を盛り上げます。

食事は、本当に終盤も終盤、21時過ぎにならないと出てきません。大抵は羊の丸焼きがご飯の上に載った大皿が何席分も。これをみんなで一緒に食べます。そのため、専用式場に比べてオープンな状態のテント式会場には、食事を狙って全く無関係な出稼ぎ労働者たちが会場そばでスタンバイしている、なんてことも。食事が済んだら親族以外はほとんどが退出。

親族らと剣舞をする新郎(中央)

最後の締めに新郎を中心とした剣舞が披露され、兄弟や親族に見送られ、新婦の待つ女性会場へと向かうのです。

 

晩婚化対策に無料で使える国立結婚式場が登場

参加者にとっては気楽な式も、当事者にとっては大仕事。実際にこのテントのレンタルや食事の用意などで数百万円が飛んでいくそうで、式の予算を確保できずに、貯金が貯まるまで婚期を遅らせる人が増えているのが昨今の結婚事情

そこで国は数年前から各区画毎に結婚式場を建設。建物内に4つのホールを持ち、同日に4組の式が挙げられるように。女性用ホールも併設されているため、招待客としても身内の女性をわざわざ離れた会場まで送り迎えする必要がありません。

ホールは全部で4〜5ヶ所あり、同日に複数の結婚式が行われています

やはり余興は剣舞

この式場、カタール人同士のカップルなら無料で利用可能。その分予約を取るのが大変で、相当前から申し込むようです。ただし、無料になるのはホール貸出のみで、式で使用するテーブルや椅子、食事などは自腹になるそうな。それでも、以前のテントなら設置代だけでも100万円近くしていたことを考えれば、随分と安く出来るようになったと言えるでしょう。

それに式場なら招待客に場所を説明するのも簡単。住宅地の中でやる場合は、最寄りの大きな道路から案内表示を立てるなど対策が必要でした。

 

女性会場は独特の世界……らしい

ところで女性の参加者はどうしているのでしょうか。

男性側がテント式で行うことがある一方、女性の会場はホテルや式典ホールを借ります。また国立式場の場合は同じ建物内に女性専用のホールが備わっています。

残念ながら会場は男子禁制。私はこの目で中の様子を見たことがないのですが、以前友達の結婚式に妻も招待されたことがあり、その際に聞いた話をまとめてみると……

  •  女性会場入り口には女性の警備員がいて、厳重な持ち物検査などが行われている。
  •  スマホやカメラは持ち込み禁止。入口前で係員に預ける。
  •  会場内には大音響で現代アラブ音楽が流れ、中央にお立ち台のような場所がある。
  •  会場内ではアバヤ(イスラーム教徒の女性が着る、ワンピース状のゆったりとしたロングドレス。カタールでは黒を基調にしたデザインが多い)を脱ぐ。その下はまさしくパーティドレスで豪華絢爛。
  •  お立ち台の上を豪華な衣装の参加者が練り歩く。まるでファッションショーのような状態。
  •  新婦が登場するのは終盤。

部族ぐるみで付き合いのある私と違い、タイ人である妻は新郎側の母親くらいしか知り合いがおらず、おまけにカタール人ばかりの会場にアジア人は自分たちだけ。慌てて買ったドレスも際どいのを選んだつもりが会場では地味すぎて、同行してもらった友達と二人で居心地の悪い思いをした上に、最後まで誰が新婦か分からないまま会場を出たそうな

ちょっとした体験としては面白かったと思うのですが、もう二度と参加したくないと言っています。

いかがでしたか、カタールの結婚式。

もし、カタール人から結婚式に誘われたら、是非とも足を運んでみてください。もちろん、その時は手ぶらで!

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

福嶋 タケシ

福嶋 タケシ

1970年生まれ、大阪出身。1999年にUAE大学留学。2002年よりカタール在住。現地政府所属の公務員として、写真撮影およびメディアリサーチ等を担当。ラクダをこよなく愛し、鷹匠に憧れる日系ベドウィン。Instagram / 『遊牧民的人生

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