“昔のお菓子”も”洋菓子”も、時代に合わせて進化するタイ・スイーツ
タイ × 世界カルチャーサミット 食べ物
※本記事は特集『海外のおやつ』、タイからお送りします。
伝統と進化が織り成すタイ菓子の世界
タイの菓子はどこか和菓子に似ているような気がする。もち米を使い、種類によっては餡子も用いられていて、雰囲気がまるで和菓子のようなのだ。
もちろん相違点もたくさんある。まずタイの菓子は南国ならではの食材、ココナッツが多用されることだ。それから、餡子もタイでは赤い豆と呼ばれる「トゥア・デーン」を使用する。これは「キドニービーンズ(赤インゲン豆)」で、日本の一般的な餡子とはだいぶ違う。
しかし、そんな昔ながらのものがある一方で、最近のタイでは伝統菓子の要素を持ちつつも現代や外国の味を取り入れて進化したものまであったり、実に多種多様なのである。
「昔の菓子」と呼ばれるタイの「和菓子」枠
昔からあるタイ独自の菓子は、タイ語では「カノム・ボーラーン」などと呼ばれる。「ボーラーン」というのは「昔」という意味合いで、要約すればタイ菓子はすなわち「伝統菓子」ということになる。
そんなタイの伝統菓子にはココナッツが多用される。ココナッツの実、ミルク、砂糖などだ。近年はココナッツ・オイルが世界的に「健康と美容に良い」と世界的に注目されているので、昔ながらの製法のタイ菓子だってもっと注目されてもいいのではないかと思う。
日本において本物の和菓子は専門店に行かないと食べられないが、タイの伝統菓子は屋台でも売っている。この気軽さも魅力だ。1個あたり10~20バーツ(約35~70円)もしない値段設定、あるいは量り売りもあるので、「20バーツ分ちょうだい」と頼むこともできる。
ボクが個人的に推したいのは「カノム・トム」。これは和のテイストも感じるタイならではの伝統菓子である。
「カノム・トム」はココナッツの砂糖と実に少し塩を加えて茶色くなるまで炒めたものを、モチで包み(正確にはもち米の粉をタイ・ハーブを混ぜてこねたモチ)、外側にココナッツの実の千切りをまぶした団子だ。噛むと、ハーブの香り、モチの柔らかさ、そして中の餡の香ばしさが、甘さと共にジュワッと口の中に広がる。
屋台で買えるところも魅力と書いたが、タイの伝統菓子はなにも屋台でしか買えない訳ではない。レストランに行けば、レストランだからこそ食べられるものもある
レストランに多いタイの汁物スイーツ
ハーブを効かせた汁物スイーツ
日本ならお汁粉に相当するだろうか。昔ながらのものなので、今もなお冷蔵庫で冷やしたりはせず、あえて氷を入れたものをよく見る。寒天やイモに、タイ・ハーブと混ぜたフニュフニュとしたゼリー状のものなどが入っている。
それら汁物のスイーツはあまり濃い味ではなく、ハーブの効いた爽やかな味わいのものばかり。ハーブ文化はタイには欠かせず、マッサージなどでもよく活躍する。また、これら汁物は持ち帰りに向かないからか、専門店やレストランなどでよく見かけることが多い。
具材には銀杏が入っていることもある。タイにはイチョウの木はないはずなので、中国からの輸入なのか。タイ料理は近隣諸国の食文化の影響が強く、とくに「中華料理そのもの」というメニューも少なくない。そんな特徴がスイーツの中にもあらわれている。
タイ人にとってスイーツの基準とは
たとえば、中華街や、中華料理の色合いが濃いタイ料理店などで見かけるスイーツは、ココナッツを使わず、豆乳やショウガを煮出した汁を使うこともある。
タイ東北地方のナコンラチャシマー県で、現地の人に大人向けスイーツと紹介されたのはショウガ汁と豆腐のスイーツだ。ショウガが強すぎて強烈に辛い逸品だった。ショウガの汁に甘くない豆腐で、最早スイーツではない気がするが、タイ人はこれをデザートと呼んでいた。甘くはないけれども、食後に胃を休めるために食べるから、主食でも間食でもない。それで「デザート」と呼んでいるのだろう。
外国がルーツのタイの伝統菓子
伝統菓子の中には、日本でいうところのカステラに相当する、かつて外国から入ってきた菓子をタイ式に昇華させたようなものも散見される。たとえばそのひとつが、「ローティー・サーイマイ」だ。
「ローティー・サーイマイ」は、「ローティー」と呼ばれる半生程度に焼いたクレープ生地で、「サーイマイ」という砂糖菓子を包んだ菓子。「サーイマイ」は線状で綿菓子のようにふわふわはしていないが、柔らかい生地と、砂糖菓子のゴリゴリした食感が絶妙だ。
これは、国際貿易都市だったアユタヤ王朝(1351~1767年)にインドから伝わったとされ、現代もアユタヤの代表的な菓子になっている。流通が発達してバンコクでなんでも見かけるようになった今でも、「ローティー・サーイマイ」はあまり見かけない。
おそらく、この「サーイマイ」を作ること自体が大変なこと、そして生地が半生なので長持ちしないためだろう。
また、ローティーは一般的にはイスラム料理のひとつと認識され、単体ではフライパンで揚げるように焼いたクレープにバナナやチョコレートなどを挟んで食べる。一方でタイ南部では、スイーツというよりも、タイ・カレーを包んだりインド料理のナンのようにプレーンに焼いたものをカレーと合わせて主食とすることもある。
「ローティー・サーイマイ」はインドからとされるが、ポルトガルから日本へ伝わった鶏卵素麺と同じものがタイにもあり、それは「フォイ・トーン(金の糸)」と呼ばれる。これがタイではジャスミンなどで香りづけされ、甘さと食感だけでなく、香りも楽しめる。
このようにタイにも外国から伝わった菓子や、各地にその土地だけの菓子がたくさんある。
タイの伝統菓子は時代に合わせて進化する
生クリームの広まりで起こった洋菓子革命
日本でも若い人は和菓子を好まない傾向にあると思う。タイも同じで、近年はアイスクリームや生クリームなどの洋菓子が好まれる。とくにケーキに使われるクリームが、10年前まではバタークリームが主流だったが、日本のケーキ店が進出するなどで生クリームが広まった。そのため、全体的においしい店が増えたという事情もある。
シャーベットにココナッツ・ミルクで現代風に
とはいえ、洋菓子の中にタイの菓子がこっそり潜り込んでいることはよくある。日本のラーメン店がバンコク支店限定でグリーンカレーやトムヤムクンのラーメンを出すように、スイーツにも何気にタイ式が入っているのだ。
その代表が「アイティーム・ガティ」。最近はアイスクリームをタイ式に「アイティーム」と呼ぶ人自体が減っているが、要するにココナッツ・アイスである。昔ながらの製法だと、実際的にはシャーベットになるが、最近の製法でガティ(ココナッツ・ミルクのこと)を投入すれば、実になめらかでおいしい食感になる。この手のものなら若いタイ人にも好まれる。
揚げ物なら若者にも受け入れられる
また、揚げもの系の菓子なら若い人の食習慣的からも食べやすいようで、よく売れているところを見かける。バナナの揚げものなど、東南アジアではよく見かけるもののほかに、ボクが個人的に推したい「カイ・タオ」も人気がある。直訳するとカメの卵というなんとも食欲が低下しかねない名称だが、それはあくまでも形から入っているに過ぎない。
「カイ・タオ」はサツマイモを蒸すか茹でたものにココナッツ・ミルクとデンプン(タイでは主にタピオカの粉)を混ぜながら潰し、ピンポン球より少し小さいくらいに丸めて揚げたものだ。外はカリッカリ、中はモチモチしていて、止まらなくなるおいしさなのだ。値段も1個1バーツ程度なので、20バーツで頼んでもそこそこにたくさん買える。
タイ化していく外国の菓子
タイ人は日本人と同じように、他国の食文化を自国のものに取り入れるのがうまい。伝統菓子が若い人には好まれなくなっているとはいうものの、新しく入ってきた菓子が、そのうちタイ式になることもあるだろう。
日本のたい焼きが原点といわれる菓子に、「カノム・トーキョー」というものがある。「東京菓子」という意味になるが、これは30年ほど前にバンコクにあった大丸という日系デパートで売られ始めた菓子で、今ではタイ全土で見かけるものになった。小麦粉の生地を薄めに焼き、そこにソーセージやカスタードクリームを載せ、くるりと巻いただけの菓子だ。当初はこれは日本人が考案したとされるが、今やタイでしか見ない菓子である。
タイ菓子の進化は食の歴史だ
食は時代に合わせて進化する。10年後20年後にはタイ料理のレパートリーに我々が想像もしなかったメニューが伝統料理として追加されているかもしれない。タイの菓子も同じで、淘汰され、新たなものが誕生するだろう。タイの食巡りは、歴史の瞬間を垣間見る楽しみでもあるのだ。
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編集:ネルソン水嶋
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この記事を書いた人
高田 胤臣
1977年、東京生まれ。1998年に初訪タイ、2002年からタイ在住。タイの救急救命慈善団体「華僑報徳善堂」唯一の日本人ボランティア隊員。現地採用社員としてバンコクで日系企業数社にて就業し、2011年からライターになる。単行本数冊、AmazonKindleにて電子書籍を多数発行。執筆のジャンルは子育てネタからビジネス関連まで多岐に渡る。最近は「バンコク心霊ライター」の肩書きがほしく、心霊スポットを求めタイを彷徨う。