日本で人気のガパオライス、タイでは無難?タイ人が選ぶ国民食とは

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※本記事は特集『海外の国民食』、タイからお送りします。

クリックorタップでタイ説明

 

タイの国民食はタイ料理

当たり前の話、タイ人の国民食はタイ料理にあり、さらに多民族・多宗教のタイでも全土的に食べられている料理が、思い浮かべてみればいくつかある。そんなタイを代表する料理をここでは見ていきたい。

その前に、タイ料理とはそもそもなんだろうか。

タイ料理とタイ式海鮮料理が入り交じった家庭料理。

バンコクにいると東北地方からの出稼ぎ労働者を多く見かける。今では定住した人も多く、バンコク生まれ・育ちの2世3世もいるが、彼らは家庭では東北地方の料理であるイサーン料理を食べることがほとんどだ。そのため、タイ料理店ではタイ料理とイサーン料理がごちゃ混ぜに置いてある。

そもそも、タイ国内で「タイ料理」というと狭義では中央部の料理を指す。しかし、タイ料理店では狭義のタイ料理とイサーン料理が分けられることなくメニューに掲載されていて、ふとタイ料理とはなにかと混乱するのだ。

「パッタイ」=タイ炒めはタイを代表する国民食の麺料理だが、外国人に人気がある。

イサーン料理は名前の通り、タイ東北地方(イサーン地方)で食べられる料理だ。内陸地なので、淡水魚や豚肉、鶏肉、生野菜を多用している。魚介もあるにはあるが、「プラーラー」と呼ばれる小魚を発酵させた調味料などを使う。食べ慣れていない人には臭いと感じるが、東北出身者には家庭の味に感じるらしい。主食は白米だけでなく、もち米もよく食べられる。

一般的にタイでは、イサーン料理は隣国のラオス料理とほぼ同義と考えられている。東北地方はラオス領土だった歴史もあり、今でもイサーン語(タイ東北部の方言)はラオス語にかなり近い。そして実際に、ラオス料理とイサーン料理には共通するメニューも少なくない。

しかし、ラオスではこれらふたつの料理は別だと考えられているようだ。本場ラオスからすれば「いまさらなに寝ぼけたことを」というところかもしれないが、国が違うことでメニューの名前こそ同じではあるものの「進化のルートが違う」ということをラオス人は言っていた。

おもしろいのは、ラオス人のほとんどが「ラオス料理よりもイサーン料理の方がおいしい」と絶賛するところだ。本場から進化した日本でのラーメンや焼肉のように、中華や韓国料理でもなく、かといって日本料理と言い切れるのかどうかといったところに似た立ち位置がイサーン料理だ。要するにラオス料理とタイ料理の中間がイサーン料理と見た方がよさそうなのである。

特殊なイサーン料理に「ゴイ・ヌア」がある。生肉と血を混ぜたサラダだ。

タイ料理もイサーン料理も使用する調味料はほぼ同じで味つけもほぼ一緒だ。両者がどう違うかというと、タイ人でさえ感覚的に区別しているところがある。あるいは、料理専門家からすれば明確な定義があるのかもしれないが、一般的には料理名で区別されている。たとえば、後述する青パパイヤのサラダ「ソムタム」や、タイ式ヤキトリの「ガイヤーン」はイサーン料理の代表だ。

お気づきだと思うが、このふたつは日本のタイ料理レストランでも見かけるものだ。事実、イサーン料理はすべてのタイ人にとって国民食になっているといえるだろう。

 

国民食が時間帯で変わる?

タイの朝の国民食は中華由来

タイの国民食をひとつに絞ることは難しい。日本の国民食もひとつに絞れないことと同じだ。

先のようにタイ料理店では中央部の料理と東北部の料理が一緒に並ぶ。バンコクに出稼ぎや移住してくる人の出身地の割合比からか、バンコクでは少数派である南部料理と北部料理はどちらかというと専門店化しているので、もしタイ人にタイの国民食を聞いたのならば、中央部か東北部の料理から選ばれることは間違いないだろう

空心菜炒めも昼夜問わず人気のタイ料理だ。

タイ人の食事内容の傾向は時間帯で変わる。さすがに朝から重いものを食べる人は少ない。だから、タイの国民食は時間帯に分けるとみつけやすそうだ。

そう考えると、タイ人の朝食で一般的なものは「クイッティアオ」と「パートンコー」ではないだろうか。実際に早朝から麺屋台は多いし、パートンコーはむしろ朝以外ではあまり見かけることがない。

定番的な、イカのすり身を載せたクイッティアオ。

クイッティアオは米粉麺のことで、センヤイ(太麺)、センレック(細麺)と選択肢があり、また店によってスープにもさまざまな種類がある。鶏ガラだけでとったスープ、紅腐乳(沖縄の豆腐ように近いもの)を入れたイェンタフォー、八角など五香粉を使った中国的なスープなど、その数は無数。食べやすく、早く提供されるので朝にぴったりだ。

双子型のパートンコー。なにもつけないでこのままでもおいしい。

パートンコーはいわゆる揚げパンだ。ちょっと甘い生地を油で揚げ、練乳や「サンカヤー」というパンダンリーフで色と香りづけされたクリーム、それから豆乳をつけて食べる。ときにおかゆと一緒に食べることもある。細長いパンが双子にくっついた形や丸形のものを選べるが、いずれも安いし、さっと買えるので人気がある。

パートンコーを揚げる様子は朝の風物詩でもある。

これらは広義でのタイ料理(宗教や人種、地方性に関係なく全土で親しまれるタイ料理)に含まれるが、ルーツは中国だ。クイッティアオは中国広東省潮州県が発祥とされ、彼の地では「粿条」と書き「クエティオウ」と読む。クイッティアオとはまさにその訛りである。

パートンコー屋台で一緒に売られている豆乳。

パートンコーは中国の揚げパン「油条」が原型だ。ただ、名称は「白糖粿(読み:パイタングオ)」が語源なのだとか。こう見ると、タイの朝の国民食は中国由来が中心となりそうだ

 

昼はどっち? ガパオライスvsソムタム

昼の定番はなんだろうか。ここではやはり、日本人にも人気の「カーウ・ガパオ」を挙げたい。鶏肉や豚ひき肉などをバジルで炒めて白飯に添える「ガパオライス」のことだ。

汁気の多い、イカや貝のバジル炒め(パット・ガパオ)。

なぜガパオライスを挙げたのか。

それは、タイ人がガパオライスを表現するときに、よく「なにを食べたいか思いつかないとき選ぶ料理」と言うからだ。近年、日本で非常にもてはやされているようだが、タイにおいては最も無難なタイ料理なのである。それほど定番中の定番で、まさに国民食にふさわしい。

エビなどが入っている一般的なソムタム・タイ。

もうひとつ、昼時にタイ人が食べたがるのは「ソムタム」だ。酢・砂糖・唐辛子などの調味料と具材を臼で潰して和えたパパイヤサラダで、女性にはヘルシーだし、イサーン料理らしく一緒に食べるのがもち米なので男性もそこそこにカロリーが摂取できる。自宅でも簡単に作れるし、どこにでもソムタムを売る店がある。ソムタムは辛さや甘さ、塩っぱさなどを好みに指定可能で、客のこだわりに店が忠実なところも魅力かもしれない。

生のワタリガニを和えているソムタム・プー・マー。

また、多くの日本人がソムタムというと「ソムタム・タイ」を指すが、タイでは多種多様なソムタムがある。たとえば発酵したサワガニを入れる「ソムタム・プー」があるし、海辺なら生のワタリガニを入れる「ソムタム・プー・マー」もある。こういったバリエーションの豊富さもまた人気の理由だ。

 

夜は多種多様になっているタイの食生活

夜の食生活において国民食を選出するのは、今のタイでは困難かもしれない。なぜなら、和食を始め、イタリアン、フレンチ、ステーキなどさまざまなものを食べるようになったからだ。だから、これといったものを挙げることが難しい。

かつてなら「トムヤム」を挙げたかもしれない。トムヤムクンに代表される、タイのハーブを使ったスープだ。以前はこのトムヤムスープの効能で、タイではガンが抑制されていたとか。

ガパオライスを混ぜたチャーハン「ガパオ・クルックカーオ」。ナンプラーも使っている。

タイの広義的な国民食「タイ料理」の味の基本は「ナンプラー」だ。タイ料理では塩分を足す際には塩ではなくナンプラーを使う傾向にある。それほど味の決め手になる。

そんなナンプラーはカタクチイワシなどを原材料にした魚醤だ。つまり、小魚を漬け込んだ発酵調味料になる。日本人がタイ料理、特にイサーン料理をおいしいと感じるのは、日本人も食べ慣れた発酵食品の風味が感じられるからだろう。タイ人もナンプラーによって発酵食品に慣れているということもあり、タイの一部では日本の納豆によく似た発酵食品もあるほどだ。

国民食ではなく「タイの国民的調味料」を選ぶとしたら、間違いなくナンプラーになるだろう。

タイ料理はナンプラーに始まり終わる! しかし「食べるラー油」に「天然塩」も絶品だ

 

若い子だって普通に食べる昆虫食は国民食か?

日本ではテレビなどで罰ゲームのように扱われる昆虫食。隣国のカンボジアなどと比較すると種類は少ないものの、バンコクでも若い女の子が虫屋台を前におやつ代わりに昆虫のから揚げを注文していく。この昆虫もまた国民食のひとつに数えられるのではないか。

昆虫屋台。タイで食べられる虫の種類はだいたいこれくらい。

タイでは北部などでシカやイノシシなどのジビエ料理がある。ただ、これらは猟師の間で食べられるもので、法的には本物のジビエ肉は流通させられない。案外、タイは食品衛生法などが厳しいのだ。とはいえ、ジビエ肉と同じ食材そのものがないわけではなく、養殖のイノシシやシカならバンコクでも食べられる。

鹿肉のコショウ炒め。スワナプーム空港から東に20kmくらいの場所にあった料理店にて。

一方、昆虫はどこでも見かける。あれだけの量なので、おそらくこれも養殖などであるはずだが、シカやイノシシを扱った料理店よりも安易にみつけることができるほど、昆虫食は一般的だ。

「インセクツ・イン・ザ・バックヤード」の外観。

タイの昆虫食は基本的には揚げてあり、竹虫やハチノコなどの幼虫的な外観をした虫が好まれる。近年は食糧難の対策などで昆虫が世界的に注目されてきており、それをコンセプトに取り入れたレストランもタイにできている。

「インセクツ・イン・ザ・バックヤード」の店内はおしゃれ。

「インセクツ・イン・ザ・バックヤード」という昆虫食レストランがバンコクの西方の郊外にある。

竹虫の載ったパスタ。味はソース焼きそばのようだった。

ここはイタリアンが中心で、昆虫をおしゃれに料理に載せているので、がっつりと本来の昆虫食を楽しむにはちょっとおしゃれすぎる。もし昆虫を食べたければ市街地の市場や祭りなどに足を運べばみつけることができるだろう。

 

タイを代表する食用魚は明仁上皇が関係

タイ人は日本人と同じように魚もよく食べる。淡水魚もよく食べ、ナマズや雷魚などがあるが、中でもティラピアのから揚げなどは国民食といっていいほど人気がある。

そんなティラピアはタイでは「プラー・ニン」と呼ばれる。意味は「仁の魚」だ。

釣ったばかりのプラー・ニン。塩焼きか油でから揚げにして食べる。

この「ニン」は平成の天皇であった明仁上皇の「仁」を指している。なぜなら、1960年代の明仁上皇が皇太子のころ、タイのプーミポンアドゥンヤデート前国王に救荒食として研究を勧め、50匹ほど贈ったことに始まっているからだ。

高速下のどぶ川でプラー・ニンを狙う釣り人。

このティラピアは環境耐性が強く、どこでも繁殖するので実際に救荒食には向いていた。ただ、その耐性は生活排水にまみれたどぶ川などでも生きていけるほどで、タイ人の中にはそういった汚水の川や池でティラピアを釣って食べている人もいる。

2~3時間でこれくらい釣れてしまう。

「どぶ川でも釣れる」という例はちょっとひどいかもしれないが、タイ人では救荒食を超えてしまい、今では誰にも好まれる国民食的淡水魚になった。タイの国民食のひとつに実は日本が関わっていたというエピソードである。

 

タイ人は結局のところタイ料理に回帰する

タイ人の国民食はなにかと考えたとき、ひとつの料理に絞ることは難しい。だが、いずれにしてもタイではタイ料理になることは間違いない。タイ人も、一番好きな料理は結局のところタイ料理を挙げるだろう。

コーンを茹でマーガリンで和えるデザートは子どもたちの定番。これはタイ料理と呼ぶのかどうか微妙なライン。

食生活が豊かになり、子どもたちもピザやケーキといった欧米料理を好む。そして、それらがタイ料理に取り込まれつつある。しかし、それらは国民食とは呼べない。

カレーライスやラーメンを「これぞ日本の国民食」と言っても異論は少ないだろう。しかし、ハンバーガーはどうだろうか。どこでも食べられ、多くの人に好まれるが、歴史的にまだ浅く、日本料理のひとつとは数えられない。

タイも同じだ。クイッティアオは中国から来たが、今やタイの国民食でもある。ということは、ルーツはなんであれ、その国の料理として認定されているメニューこそが国民食になりうる。だから、タイ人にとっての国民食はタイ料理になるのだ。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

高田 胤臣

高田 胤臣

1977年、東京生まれ。1998年に初訪タイ、2002年からタイ在住。タイの救急救命慈善団体「華僑報徳善堂」唯一の日本人ボランティア隊員。現地採用社員としてバンコクで日系企業数社にて就業し、2011年からライターになる。単行本数冊、AmazonKindleにて電子書籍を多数発行。執筆のジャンルは子育てネタからビジネス関連まで多岐に渡る。最近は「バンコク心霊ライター」の肩書きがほしく、心霊スポットを求めタイを彷徨う。

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