まるで兄弟ゲンカ?ニュージーランドとオーストラリアの関係は百年前から

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※本記事は特集『海外のライバル』、ニュージーランドからお送りします。

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喧嘩するほど仲が良い?NZとAUSのご近所事情

喧嘩するほど仲が良い」なんて言い回しがあります。みなさんにも1人や2人は喧嘩するほど仲の良い人がいるのではないでしょうか? 僕の住むニュージーランドという国にも、そんな喧嘩するほど仲が良い相手がいます。それが、お隣の国オーストラリアです

本題に入る前に、みなさんニュージーランドとオーストラリアの国旗の違いってわかります?

左:ニュージーランド/右:オーストラリア

とても似ている国旗。それゆえに国旗だけを見て間違えられることもしばしば。それだけでなく、どちらの国旗を見ても大きい方のオーストラリアを連想するため、ニュージーランド人をオーストラリア人? と勘違いする人が多くいます。

僕の彼女(ニュージーランド人)が数年前に北海道のとある田舎で英語の先生として赴任した際には、彼女の机においてあった国旗をみてオーストラリアと勘違いし、町内新聞にオーストラリア人として紹介されていました。さらには、「似たようなもんだからいいよね?」と一言で彼女は大激怒だったそうです……。

勘違いで済めばまだいい方で、その国旗によってとあるニュージーランド人が2016年にカザフスタンの税関で拘束されるという事件も。理由は、税関職員がニュージーランドを国として認識していなく「そのパスポートは偽物でニュージーランドはオーストラリアの州だ」と言い張ったのだとか……

そもそもなぜ国旗が似ているかというと、両国共にイギリスの植民地であったためその国旗が組み込まれているから。ニュージーランドの国旗には4個の赤い五稜星が特徴があり、南十字星を象徴しています。一方でオーストラリアは5個の白い星があり、七稜星を表しています。またイギリス国旗の下の7角の星の6つの角は、オーストラリアの6つの州を表し、7つ目の角は植民地を意味します。

左上から時計回りに、ツバル、フィジー、クック諸島、ニウエ。実はまだまだある似た国旗たち。

次に両国の位置関係を地図で見てみましょう。

地図の左上には日本の沖縄が見えていますが、日本から南に降りていくとオーストラリアがあり、その右下の方にニュージーランドがあります。両国の間には海が広がり少し距離がありますがニュージーランドとオーストラリアはお隣の国です。

さて、それでは本題。冒頭で「喧嘩するほど」と書いたように、ニュージーランド人にオーストラリアについてどう思うかと聞けば「オーストラリア人ってどこにでも湧いて出て、なんかムカつくんだ」と答えますし、逆にオーストラリア人に聞けば「あ〜ニュージーランド人ね、田舎もんだよね」とお互いの不満や文句ばかり。

しかしです、やんややんや言い合っているだけで、意外と仲良しであったりすることもあり、外国人の僕からみてみれば「喧嘩するほど仲が良い」だけなんですよ。というわけで、ここからはそんな彼らの、まるで歳の近い兄弟のような間柄が分かるエピソードを紹介します。

 

オーストラリアがケーキと俳優を盗んだ!?

ニュージーランド人の知人友人たちに「なぜオーストラリアのことが気に食わないのか?」を聞くと必ず口にする2つの話があります。それが、

  • 『パブロバ』はオーストラリアのもんじゃない!
  • 『ラッセル・クロウ』はニュージーランド人だ!

の2つです。

 

ニュージーランド生まれのレシピがオーストラリアへ

パブロバ(Pavlova)とは、メレンゲをオーブンでふんわりと焼き、生クリームとキウイなどの季節の果物をのせた伝統菓子のことです。クリスマス時期なんかになると、家庭で作ったり、いろんなスーパーで売られ、子供から大人にまで人気があります。

パブロバ/©Blake Johnson

このパブロバが生まれたきっかけは、ニュージーランドでツアーをしていたロシア人バレリーナのアンナ・パブロバ(Anna Pavlova)のために、首都ウェリントンにいたシェフが考案したということから。

しかし、そのあと彼女はオーストラリアのパースに行き、滞在先のホテルのシェフに「同じ菓子を作って欲しい」と依頼。のちにそのシェフがレシピを紹介したことにより人気が出たためオーストラリア発祥と勘違いされていますが、このようにそもそもはニュージーランド発祥なんです。

パースのScarborough Beach

 

名優は出生地も国籍もニュージーランド

ラッセル・クロウ(Russel Crowe)といえば、映画『グラディエーター』で主演男優賞を獲得し、レ・ミゼラブルなどの映画にも出演しているニュージーランドを代表する世界的に有名な俳優です。

映画本編ではないけど、グラディエーターのイメージ。

そう、彼はニュージーランド人なのですが、4歳の時に親の都合でオーストラリアに引っ越しています。そのため、オーストラリア人は彼はオーストラリアの俳優と言うわけですが、現在もニュージーランド国籍を保持(オーストラリアの市民権を取得しようとしますが2度申請を断られています)しているので、生粋のニュージーランドの俳優なのです。

お菓子にしろ俳優にしろ、こうした事実にも関わらず、「ニュージーランドの良い・有名なものを自分たちのものだ」と言い張るオーストラリア人が気に食わないと言うのです。

 

そのアクセント田舎もんじゃん?Fush & Chups(ファッシュ アンド チョップス)

では、オーストラリア人に、「ニュージーランド人のことどう思う?」と聞くと出てくるのが、

Fush and Chups(ファッシュ アンド チャップス)

とケタケタ笑いながら答えます。

フィッシュ&チップス/©Acabashi

これは、ニュージーランド特有のアクセントで’i’の音が’u’の音のようにも聞こえるため、両国ともに人気の国民食である”Fish and Chips”(フィッシュアンドチップス)がまるで”Fush and Chups”(ファッシュアンドチャップス)に聞こえるのをよくバカにするのです。他にも”Six”を”S*x”、”Deck”を”D*ck”なんて聞こえるという話もよくあります。

また、ニュージーランドはとても小さい国。その人口の少なさや、国のサイズ感からなのか、ニュージーランドにはApple、GAP、ユニクロ、Marks and Spencerなど、先進国ではよく見かけるブランドがないんです……。また、最大都市であるオークランド含め、どの都市も小さく週末以外はいまいち盛り上がりにかける都市ばかり……。そのため、オーストラリアからは度々田舎のレッテルを貼られてしまいがち。

ファッシュアンドチャップスを食べる僕

 

それがどうした?ニュージーランドにはラグビーがある!

また、10年近く前、ジョーク的ではありますがニュージーランドはオーストラリアからある「挑発」を受けたことがありました。世界中で使われているオークションサイトのeBayにおいて、とあるオーストラリア人がニュージーランドという国そのものを勝手にのせたのです。しかもその額たったの1セント(約1円)……(最終的に$3,000(約24万円)まで跳ね上がったそうな。)

このように、両国の間にある喧嘩の多くは、オーストラリアが一方的にニュージーランドを挑発するようなものが多いのですが、しかしながらニュージーランドは挑発されてもバカにされても平気なんです

なんたってニュージーランドには誇れるものがあるから。それは、絶対的強さを誇るラグビーチームの”ALL BLACKS”。試合前に相手を威嚇するHakaという踊りは日本でも有名です。

このニュージーランド代表の”ALL BLACKS”とオーストラリア代表の”Wallabies”との間で行われるブレディスローカップ(Bledisloe Cup)では、58回中ニュージーランドが46回勝利し、2003年から昨年の2018年まで16大会連続で勝利するという圧倒的な力を誇っているのです。(今年のラグビーW杯は日本で行われるのでみなさん注目!)

ラグビー以外にも、クリケット、ネットボールや陸上ホッケーなどなどいろんなスポーツでライバル同士の両国。どんなスポーツの大会においてもニュージーランド人は良い結果が出せなくとも、「ま、オーストラリアには勝ったしね」なんて言って喜びます。

https://youtu.be/HUZteWo7Dck

ここまでくるとタダの喧嘩……

 

腐れ縁は100年以上前の戦場から?

オーストラリアにあーだこーだと文句を言うニュージーランド人。ニュージーランドにやーやー言うオーストラリア人。そのどちらでもない立場から見ていると、お互いに文句を言い合いつつも、実際には仲が良いと思うんです(なかなか認めはしないけど)。

お互いの国でビザ無しで働くことができるため、ニュージーランド人とオーストラリア人の行き来も多いですし、国外に引っ越したニュージーランド人の友達の多くはオーストラリア人とフラットシェア(シェアハウス)していることが多いです。それに、旅行先でもオーストラリア人を見つけると似た者同士お話するなんてこともしばしば。

ちなみに、4月25日は両国にとって祝日です。これはANZAC(Australia and New Zealand Army Corpsの略)の日で、第一次世界大戦のガリポリの戦いで勝利した日。そう、きっとこの喧嘩するほど仲の良い関係、もはや腐れ縁とも言えそうな関係は、一緒に戦った時からずっと続いているのかもしれません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

井上 龍馬

井上 龍馬

1992年生まれ。北海道出身。NZ出身の彼女と出会って新卒捨てて追いかけてNZに移住。パン屋でマネージャー兼バリスタをしつつ、フリーで翻訳・通訳・ライターをしています。また現在は、ストリートアートを通して地域活性化や環境問題を可視化するイベントを、日本中で起こすために活動中。ブログ「1QQ2」/ Twitter

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