タイの「白象」は王家行き! 野良犬を死ぬまで保護する動物愛護も
タイ × 世界カルチャーサミット 生き物
※本記事は特集『海外の動物』、タイからお送りします。
タイの象徴は象、理由は「国土が象の横顔」……だけじゃない!
タイの国土を見てみてください。タイ人は彼らの国土を「象の横顔」と言っているのですが、確かにそう見えます。
そして、実際にタイは「象の国」として有名。国内には象のショーを売りにした施設が数多くありますし、乗ったり触ることができる場所も各地にあります。毎年3月13日は「タイ・象の日」としても制定されているほどです。
ただ、国土が象の横顔だから象の国というわけではありません。国土が象の横顔になったのは近代に入ってからであり、そのずっと前から、特に野生象の多い北部において、タイの人々は象とともに暮らしてきました。
タイの象は「アジア象」と呼ばれる種類で、体長は6m、体高3m、体重は4t程度のサイズになり、寿命は平均で50年くらいだそうです。かつては10万頭は野生象が生息していたようですが、今は半分以下にまで減っているとのこと。食料が確保できず、また密猟者による狩りなどで多くがいなくなってしまいました。
そのため、今は野生の象を国立自然公園で保護下に置いたり、象保護センターという象専用の飼育施設に収容しています。チェンマイの象センターは観光スポットにもなっていて、サッカーのショーをしたり、中には絵を描く象までいます。そのチケット料金や絵の収益によって、象たちは莫大な飼育費用を自ら稼いでいるのです。
2000年代初めのバンコクの街中に象がいた!
タイには象の法律があり、中でも珍しいのが「白象」に関する内容です。アルビノ(メラニン色素が欠乏する遺伝子疾患)なのか、どういった基準かはわかりませんが、タイでは身体の一定範囲が白くなっている象が「白象」だと認定されれば、すぐさま国王陛下の所有物となります。
これはタイ仏教が強く影響を受けているヒンズー教のガネーシャ(象の神の化身)の色が白に由来するようです。実際の白象は本当にホワイトというよりはピンクのような色合いで、実際にタイ国内のガネーシャ像もピンクが多いので、日本人にとってのピンクがタイ人には白に見えるのかもしれませんね。
そんな象ですが、かつてはバンコクでも見かけることができました。主に夜ですが、繁華街に飼い主と共に現れ、バナナなどを20バーツで売るという商売があり、そこで彼らはえさ代と利益を得ていたのです。これは、もともと象は田舎で畑仕事や森の仕事に使われていましたが、飼育代が賄いきれなくなって、飼い主は都会に連れていって見世物にするしかないという現実的な問題があったため。
バンコクの象には、ボク自身も何度も遭遇しました。夜にタクシーに乗っていて急に窓が暗くなったと思っていたら、横を象が歩いている。またあるときは、繁華街のバーで飲んだあと、店を出たら子象が歌に合わせて踊っていました。
しかし、いつの間にかバンコク都がそれを禁止し、もう都会で象を見ることはまずなくなりました。なぜなら、昼間は空き地を不法占拠するし、交通事故もたびたび起こるし、苛立った象が屋台を襲撃してめちゃくちゃにする事件もあったからです。しかし、まだまだバンコクでも象に触れる機会はたくさんあります。
バンコク近郊の動物園は昭和感満載で、自由度が高い?
バンコクから北におよそ80kmの古都・アユタヤでは、古い遺跡群に混じって象をショーの中心にした施設があります。ここでは象に乗ることもでき、気軽に触れられる。客の8割くらいが日本人で、日本語もバッチリ通じます。
アユタヤも近郊ですが、それよりも最もバンコクに近いと思われる象の場所と言えば、サムットプラカン県の「サムットプラカン・クロコダイル・ズー」です。2018年か2019年には高架電車のBTSがかなり近くまで開通するので、より行きやすくなる動物園になります。
施設名に象が一切入っていませんが、施設の奥には象の広場があり、大音量のディスコミュージックというまったく似合わない音楽に合わせて象が踊ったり、サッカーをするところを眺めることができます。乗ることはできませんが、触ったりはさせてもらえます。
そんな「サムットプラカン・クロコダイル・ズー」はぜひ一度は行ってもらいたい動物園。昭和を強く感じさせる雰囲気を持った、ノスタルジックかつワイルドに楽しめるところだからです。
入口から数十メートルは土産物店が並びますが、動物園とは関係ない飛行機や車といったプラスチック玩具、お面、おもちゃの鉄砲などが売られています。小さいころに家族で行った温泉街あるいは観光地にあったような、節操なく子どもに買わせようというあくどさがボクには非常に昭和チックに見えてしまうのです。管理が悪くて施設もぼろぼろなのもまた昔の雰囲気とでもいいますか。
そのくせ、ふれあいコーナーは日本なら草食動物ばかりのところ、ここはトラやチンパンジーとアグレッシブに攻めてきます。しかも、どういうわけか園内には射撃場があり、本物の拳銃で実弾発射を体験することも可能です。こんなワイルドな動物園は世界的にも珍しいでしょう。
この動物園の目玉は、タイ人のおじさんたちによるワニ・レスリングショーでしょう。頭をワニの口に突っ込んだりといった、わかりやすくヒヤヒヤさせられるショーです。ただ、場末の動物園ですからおじさんたちも適当にショーをしているだけに、ときどきワニの口が閉じてしまい、大けがするシーンが見られるようです。ボクは10回は行っていますが、まだそんな大事件に遭遇していません。
ほかにもサルや爬虫類、さらにはカバ、クマに至近距離からエサをあげることも可能。トラもいますが、さすがに至近距離とはいきませんね。5mくらいの塀の上から池の中で待ち構えるトラに鶏ガラを投げてあげます。飛びついてキャッチするので迫力は満点です。
ワニの場合は今にも崩れそうな木製の橋から魚や鶏ガラを投げ込みます。普段ワニは全然動きませんが、このときばかりは素早くてすごい。なにせこの動物園は自称「世界一のワニ園」で、数万匹というワニがいますから、落ちたら一巻の終わり。実際、何年かに一度はここで自ら身を投げる人もいます。
殺処分はせず最後まで世話を見る! 野良犬にとってタイは天国
このようにタイは動物にとって過ごしやすい国です。共存しているというか、タイ人の動物に対する優しさを垣間見られる気もします。これは仏教の教えが根底にあるのでしょう。
例えば、野良犬をよく見かけるというバンコクの風景もそのひとつ。保健所がわりと積極的に保護をしているので、寺院や民家で誰かが世話をしていることが確認できない犬は施設に送られます。日本なら一定期間置かれて、薬殺処分などが行われてしまいますよね。タイも一定期間預かり、その間に健康状態を改善し、引き取り手が現れなければ、県外にある別の施設に送られます。そこで行われるのは、なんと、死亡するまで飼育されるということです。
実際にどこまでしっかりと管理されているかはボク自身の目で見ていないのでわかりませんが、とにかく殺処分はしないことが前提になっているのがタイの野良犬保護です。
こういった野良犬の保護に関しては民間のNGO団体も動いていて、「ソイ・ドッグ」というプーケットに本拠を置く欧米系の団体は、引き取った野良犬や捨て犬を専属の獣医に管理させ、里親を待っています。これはタイ国内に限らず海外在住の人にも正規の輸出入手続きでその犬を送り届けることができるようになっているので、もし里親に興味があればネットで検索してみてください。
タイに野良犬が多い背景は、タイ人が動物をかわいがる一方で責任を負うことがなかったからだったと思っています。犬を飼っても面倒になったら捨てる、あるいは虐待もありましたが、それを罰する法がなかったのです。今は、2014年末に動物愛護法が施行され、動物への接し方も変わってきてはいます。
タイは猫にも犬にもタイのオリジナル種がいて、例えばバンゲーオという種に関しては、日本人ブリーダーにより世界的なドッグショーでも受賞歴があるほどです。猫で言えばシャム猫もタイ独特の種になりますが、毛並みが美しい猫ですよね。これまで見向きもされなかったのですが、今、タイ人もタイ・ルーツを見直し始めていて、注目されてきています。
タイ人はこのように動物と近い距離にいます。近いからこそ、責任を持たないというのもあったのかもしれません。だからなのか、ときには飲食店やコンビニのエアコンで涼む野良犬もいますし、それを追い出すこともしないタイ人が大半です。タイは、旅行者にとっても動物にとっても過ごしやすい、天国のような場所なのかもしれません。
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編集:ネルソン水嶋
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この記事を書いた人
高田 胤臣
1977年、東京生まれ。1998年に初訪タイ、2002年からタイ在住。タイの救急救命慈善団体「華僑報徳善堂」唯一の日本人ボランティア隊員。現地採用社員としてバンコクで日系企業数社にて就業し、2011年からライターになる。単行本数冊、AmazonKindleにて電子書籍を多数発行。執筆のジャンルは子育てネタからビジネス関連まで多岐に渡る。最近は「バンコク心霊ライター」の肩書きがほしく、心霊スポットを求めタイを彷徨う。