イタリアはわりとなんでも”パスタ”呼び、自由すぎる用途と解釈。
※本記事は特集『海外の国民食』、イタリアからお送りします。
イタリアの国民食は……もちろんパスタです!
「イタリアの国民食ってなに?」
という質問をされて、答えに迷う人はまずいないんじゃないでしょうか。イタリア人でなくても、頭に思い浮かんでいる食べ物はきっとひとつのはず。
答えはもちろん、パスタ。イタリア料理にはピッツァやリゾットなど、国民食といえる食べ物はたくさんあります。ティラミスやパンナコッタ、ジェラートなどのドルチェ(スイーツ)も人気の高い食べ物と言っていいでしょう。でも、歴史の長さやバリエーションの多さなどを考えていくと、パスタに勝るものはやっぱりないような気がします。
パスタなんて日本でもよく食べているから意外性がない、なんて思っていますか? そんな人こそ、よければもう少し話を聞いてみてください。歴史が古いだけに、日本では知られていないような、意外な話がいろいろとあるんです。
ところで、パスタってなんですか?
話を始める前に、まずはこちらの写真をご覧ください。これなんだと思いますか?
「PASTA PER PIZZA」と書かれたラベル。イタリア語でも何となく分かると思いますが、直訳すれば「ピッツァ用のパスタ」という意味です。え、ピッツァなの? パスタなの? って思いますよね。
実はこれ、ピッツァ生地なんです。中に入っている生地を伸ばして広げて、トマトソースや具材を乗せてオーブンで焼けば自宅で簡単にピッツァができるというもの。イタリアのスーパーではごく一般的な商品で、だいたいどこでも見かけます。
ただ、どうしてこの生地に「パスタ」という名前がついているんでしょうか。
実はイタリアでは、小麦粉を水で練ったものを「パスタ」と呼ぶことがあります。茹でてソースを絡めて主食として食べなくても、とにかく小麦粉を水で練っていればパスタです。だからこのピッツァ生地も立派な「パスタ」というわけ。
例えば子供のおもちゃによく使われるプレイドゥ(小麦粉粘土)は「Pasta di sale(塩のパスタ、保存性をよくするために塩を少し入れるので)」で、ケーキの飾り付けに使われるマジパンは「Pasta di zucchero(砂糖のパスタ)」です。
マジパンに小麦粉は使われていませんが、粉っぽいものを練っているからパスタと呼んでいるのでしょう。
パスタと言えばスパゲティやマカロニというイメージが強いので、粉を練ったものをパスタと呼ぶのはややこしく感じるかもしれません。でも、実は英語の「paste(ペースト)」やフランス語の「pâté(パテ)」と語源が同じと考えると、少しイメージしやすいのではないでしょうか。
また、パスタは今でこそ成形されたものが一般的ですが、もともとは全く違う形をしていました。古代ローマ時代の初期にあったプルテスという食べ物は、小麦や黍(キビ)など穀物を粥のように煮たものでした。また、その後に登場したラガーナは、小麦粉を水で練って焼いたり揚げたりしたもので、どちらもパスタの起源と言われています。粉を練ったものを全般的にパスタと呼ぶのは、おそらくこうした歴史と無関係ではないでしょう。
パスタが現在のような形になった正確な時代は明らかになっていません。ただ、1244年にベルガモの医師によって書かれた診断書には「パスタ」の文字が、また1279年にジェノバの公証人によって書かれた庶民の遺産リストには「マカロニ」の文字があるようです。
イタリアでは、日本のうどんや蕎麦のことを「日本のパスタ」と呼ぶ人もいます。初めて聞いたときは自国の馴染みあるものに例えただけの言い方かと思っていましたが、「パスタ=粉を練ったもの」という本来の用法に則った言い方だったのかもしれません。
パスタはおよそ650種類ある……それ使い分けてるの?
日本でもよく見かけますが、パスタにはいろいろな形状のものがあります。
例えばロングパスタで最も一般的なのはイタリアでもやっぱりスパゲティで、その太さはだいたい1.8mmほど。それより太くなるとヴェルミチェッリやブカティーニ、また平麺になるとリングイネやタリアテッレなどと呼ばれます。その種類はとにかく多くて、マカロニなどのショートパスタや地方独特のものまで含めると650種類ほどあると言われています。
イタリア人は、この650種類もあるパスタをだいたい使い分けています。例えば冒頭でも紹介したラグー(ミートソース)には平麺のタリアテッレ、ペスカトーレなど魚介系のパスタには、同じ平麺でも中央が少し盛り上がっているリングイネが好まれます。
太さが変わると食感が変わるので、それによって相性のいいソースが変わるんですね。もちろん、常に650種類を厳密に使い分けるわけではないですが、このソースにはこのパスタを合わせたいといった定番が、ある程度あります。
一方で、ナポリにはいろいろなパスタをごちゃまぜにした「パスタ・ミスタ(ミックスパスタ)」という種類もあります。いろいろ混ぜると湯で時間がめちゃくちゃになりますが、それはそれで歯ごたえに違いが出て美味しいというわけ。
家庭でいろいろなパスタを使い分けていると、使いきれず袋の底に残っているのが出てくるので、それを全部混ぜて食べたというのが発祥なんだとか。
スープ用のパスタもよく見かける種類のひとつ。日本のような「ソースがスープっぽいパスタ」ではなく、イタリアではコンソメスープなどに具のひとつとして浮かべるのが一般的です。
そのため一粒ひと粒が0.5〜1cmほどととても小さくて、赤ちゃんでも食べやすいので離乳食に使われることもあります。これもいろいろと形状があり、星の形をしているものはステッリーネ、スパゲティを細かく刻んだ形状のものはフィリーニと呼ばれます。
イタリア人はパスタを便利に使いがち
パスタは何も食べるだけではありません。生活の中で便利に使われることもあります。例えばこんな感じ。
パイ生地を閉じるために使っているのはペンネです。乾燥した状態だと先が尖っているので差し込みやすいし、衛生面でも問題ありません。もちろん食べるときは取り除きますが、間違ってかけらを食べても竹串より安全です。
パスタはこんな感じで、子供の工作にもよく使われています。大きなものから粒のような小さいものまでいろいろな形状があるので、工作材料にはもってこい。写真のように紐を通してネックレスにしたり、色を塗って絵に貼り付けたりといろいろな使い方を見かけます。アレルギーには気をつける必要がありますが、小さな子供が舐めても安全で、しかも安いので保育園や幼稚園ではよく使われているようです。
そういえば日本でもよく、炒った米を乾燥剤として塩の中に入れたり、茶殻を掃き掃除に使ったりすることがありますよね。きっとそれは、国民に広く浸透している食べ物だからこそ生まれた技と言えるでしょう。
イタリア人にとっては食べ物としても生活の小技としても欠かせないパスタ。ピッツァもリゾットも美味しいですが、広く浸透して愛されているという意味では、やっぱりパスタに勝るものはないんだろうなと思うのです。
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編集:ネルソン水嶋
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