アルゼンチンスイーツの9割以上に使われる!?ミルクジャム”ドゥルセ・デ・レチェ”の魅惑と郷愁

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※本記事は特集『海外のおやつ』、アルゼンチンからお送りします。

クリックorタップでアルゼンチン説明

 

中南米No.1のスイーツ大国アルゼンチン

アルゼンチンは美食家をうならせる国。有名なのが、世界一の牛肉(主観とアルゼンチン人の自負)を使ったBBQアサードとアンデス山脈麓で作られる情熱的な色の赤ワイン。

でも、広く知られてはいませんが、アルゼンチンはスイーツ大国でもあるんです。例えば、こんな感じ。

熱々のワッフルに!

クッキーのケーキ!

極めつけの、ゴージャスなアイスケーキ!

マテ茶を飲む時のお供や、日曜日の家族が集合するランチのデザート等、アルゼンチン生活で甘いものは欠かせません。スイーツの種類は数多くありますが、現地の人々が愛してやまないものが2つあるのです。それが、国民的ミルクジャム「ドゥルセ・デ・レチェ」とクッキーのサンドイッチ「アルファ・ホーレス」。

なお、マテ茶について詳しく知りたい方は朝食の記事をご覧ください。

https://traveloco.jp/kaigaizine/breakfast-argentina

 

粘り気のあるキャラメルソースはアルゼンチン文化のシンボル

アルゼンチン人が愛するスイーツは、ずばりドゥルセ・デ・レチェです! 毎日食べると言ってもよく、先ほど紹介した3つのスイーツにも、ドゥルセ・デ・レチェが使われています。

ドゥルセ・デ・レチェを直訳すると「甘いミルク」。その名の通り、牛乳と砂糖を一緒にぐつぐつ煮込むことで完成するミルクジャムです。スイーツとはいえ、一品メニューというより材料という印象を持つ方もいるかもしれませんが、「舐められるキャラメル」だと思ってもらえばよいかもしれません。

ただ、ジャムほど固まっていなければ、ソースというには粘り気が強すぎる、言葉だけだと説明が難しい食品でもあります。

どこまでも切れずに伸びていく粘り気が特徴。

気になる味は、超濃厚なミルクキャラメル! 簡単に表現するなら、生キャラメルをクリーム状にしたもの。

ドゥルセ・デ・レチェは万能ソースであり、パンに塗るのはもちろん、様々なスイーツと合わせられます。「国内にある90%以上のスイーツに使われている」と言っても過言ではありません。

スーパーのドゥルセ・デ・レチェ専門コーナー。上から下までびっしり並ぶ。

ドゥルセ・デ・レチェは何にでも合うから、きっと個々人好きな食べ方があるはず。そこで、友人や家族におすすめの食べ方を尋ねてみました。

 

みんな大好き! ドゥルセ・デ・レチェの豊富な食べ方

塩味と合わせて甘じょっぱく!

リセ

私は、カリカリに焼いたトーストに、バターとドゥルセ・デ・レチェを塗るのが好きだわ。甘じょっぱくて癖になるの。マテ茶を飲む時に欠かせないわね

フランコ

僕も似てて、塩気のあるトルタ・フリータ(揚げパン)に塗るのが一番かな

奥川

甘じょっぱい味が好きなのは、日本人とも似てるね。実は、僕もバターとドゥルセ・デ・レチェの組み合せが一番好きなんだよね

クリームに混ぜてクッキーとでチョコトルタ

嫁

私はチョコトルタ。牛乳に浸したチョコクッキーを並べて、ドゥルセ・デ・レチェを混ぜたクリームを塗る。これを3回くらい繰り返し重ねるだけで完成よ。焼かなくていいし、美味しいから、怠け者が多いこの国にぴったりのデザート

アイスクリームにたっぷりかける

バニラのソフトクリームにたっぷりのドゥルセ・デ・レチェがかかったマックのアイス。

シンティア

私はアイスクリームが好き。特にマックのドゥルセ・デ・レチェがたっぷりかかったソフトクリームがお気に入り。温かいドゥルセ・デ・レチェのソースと冷たいアイスが混ざって最高なの

奥川

ショッピングモールには、マックやバーガーキングのアイスショップがあって、どこもドゥルセ・デ・レチェのソフトクリーム売っているよね。アルゼンチンのアイスクリームはジェラートみたいに濃厚で美味しくて、濃い甘さと相性もいい

 

アルゼンチン人ならだれでも一度は隠れて食べる?

このようにみんなそれぞれで好みの食べ方があるドゥルセ・デ・レチェですが、エピソードを聞いていると、一番おいしい食べ方は隠れ食いなのではないかと思いました

義母

娘たちは、夜中にこっそりと冷蔵庫を開けて、ドゥルセ・デ・レチェを舐めてたわ

奥川

ダニ(義理の妹)も、隠れて食べてたの?

義母

ダニなんて、パンに塗って堂々と食べてるわ。それで後片付けしないから、困ったもんよ

奥川

でも、分かるなあ。夜中だからこそ格別の味になるんだよね

ダニエラ

その通りよ、シュン。たまには、深夜のドゥルセ・デ・レチェで心の栄養補給もしなきゃ。でも後片付けは忘れちゃダメよ

皆が寝静まった深夜、冷蔵庫をこっそりと開けて、スプーンでドゥルセ・デ・レチェをすくって食べる。まさに背徳感たっぷりの快楽の味。深夜の隠れ食いは、今回話を聞いたアルゼンチン人全員がやったことがあるそうです

そんな目に見えない消費を裏付けるように、ドゥルセ・デ・レチェの年間平均消費量は、一世帯当たり約3.1㎏だそうです。僕が持っているサイズのが400グラムなので、これを年間約7~~8個消費しているということ。

ドゥルセ・デ・レチェのアイスをチョコでコーティング。2つのフレーバーで、75アルゼンチンペソ(約182円)。

また、アルゼンチン全土に展開するアイスクリーム店GRIDOは、その美味しい味と手頃な価格で現地の人々の心を掴んでいます。この国の人々はジェラートが大好きで、ある調査によると年間消費量は1人当たり6.9キロにもなるそうです出典)。

一押しのフレーバーは、やっぱり超濃厚なドゥルセ・デ・レチェ! なんとGRIDOでは、アイスに年間500万キロのドゥルセ・デ・レチェを使用しています。アイスクリーム1玉に約41%のドゥルセ・デ・レチェが含まれているというから、その濃厚さにも納得。

 

失敗が生んだ!? ドゥルセ・デ・レチェ誕生秘話

ドゥルセ・デ・レチェ誕生諸説は様々ですが、アルゼンチンでは次のエピソードが有名です。

ロサスの肖像画。1829年から1852年まではロサス時代と呼ばれる

1829年、ブエノスアイレス郊外。政治家フアン・マヌエル・デ・ロサスは、従弟であり政敵でもあるフアン・ラバージェ将軍を自宅で会う約束をしていた。二人の会合の目的は、内戦を終結させるための平和協定を結ぶこと。

ラバージェは一足早くロサスの自宅へ到着。旅で疲れ果てたラバージェは、ロサスのベッドで眠った。丁度その時、ロサスのメイドはマテ茶用に、砂糖を加えた牛乳を煮詰めていた。しかし、主人の寝室に行くとそこには政敵であるロサスが眠っているではないか。

メイドは牛乳のことも忘れて守衛に知らせに場を離れた。少し遅れてロサスが到着すると、彼は従弟が寝ていることなど気にも留めずにメイドへマテ茶を持ってくるように頼んだが、すでに手遅れ。甘いミルクは、粘り気のある茶色い物体になっていた。

ロサスは試しに指にとって少しだけ舐めてみたら、なんとも優しい甘みがするではないか。よし、これをこのまま出してみよう。そうしてロサスとラバージェは、マテ茶をお供にドゥルセ・デ・レチェを舐めつつ、協定のポイントについて話し合ったそうだ。

この条約の後、ロサスはブエノスアイレスの州都知事になり、内戦は次第に収束。もし優しい甘さのドゥルセ・デ・レチェがなければ、協定は結ばれなかったかもしれません。

しかし、これはあくまでもエピソードであり、史実ではありません。

ドゥルセ・デ・レチェは中南米諸国にあり、それぞれが起源は自国にあると主張しているのです。特にアルゼンチンとウルグアイは、アサードとマテ茶など文化的に被っている部分が多いので、ライバル関係にあります。

過去にはアルゼンチンがドゥルセ・デ・レチェを文化遺産と宣言した時、ウルグアイは両国の間に流れるラプラタ川の伝承料理とし、アルゼンチンだけではなく自国のものでもあるとみなすようにユネスコに求めたこともあったほど。

 

くどい甘さが癖になる! ドゥルセ・デ・レチェをクッキーで挟んだアルファホーレス

ドゥルセ・デ・レチェがそのまま舐められるスイーツだと言っても、やはりソースであり、スイーツの材料として使われることもあるので、人によってはおやつと言えないかもしれません。そう考えると、自然と、アルゼンチンの国民的おやつはアルファホーレスだと言えるでしょう

アルファホーレスとは、ドゥルセ・デ・レチェやフルーツジャムなどをクッキーで挟んだお菓子。クッキーの周りは、チョコレートでコーティングしたり、ココナッツパウダーをふり
かけたりと、様々なスタイルがあります。

しかし、アルファホーレスを発明したのはアルゼンチンではありません。歴史上、初めてアルファホーレスのレシピが確認されたのは8世紀初頭のスペイン南部のアンダルシア地方。当時、そこを侵略したアラブ人が、アルファホーレスを作ったとのこと。そのため、名前の由来もアラビア語で「詰め物」を意味するAl-hasúがAlfajoresに変化したものだといわれています。

それから15~17世紀にかけてスペイン人がアメリカ大陸を征服した時に、アルファホーレスが持ち込まれたのでしょう。そして今ではアルゼンチンが一日に約600万個を製造する世界最大のアルファホーレス大国に。

アラブ発スペイン経由のアルファホーレスは、今では国民的お菓子として、地元の人々の思い出を作るものとなっているのです。

 

アルファホーレスはアルゼンチンの思い出の味

嫁は買い物帰り、よくこんな話をしてくれました。

嫁

子どもだった頃、よくお使いに行ってたの。スーパーに行く時、おばあちゃんの家の前を通るんだけど、私を見たら30ペソくれるの。そのお小遣いでアルファホーレスを買って、帰り道に一人で食べていたわけ。大人になった今でも、こうして帰宅中にアルファホーレスを食べると当時のことを思い出すのよ

マティアスとダニエラはカップル。

また、友人のマティアスは「アルファホーレスは恋の味」と表現します。というのも、ダニ(義妹)と公園でデートする時、いつもクッキーとドゥルセ・デ・レチェを持っていき、芝生の上で手作りアルファホーレスを食べるのが習慣だから。アルファホーレスを見るとダニを思い出して幸せな気持ちになるそうです。

息子もアルファホーレスに関する思い出を持つのかな。

義母は毎年、孫(僕の息子)の誕生日パーティー用に、ドゥルセ・デ・レチェから手作りしたアルファホーレスを作ってくれます。ぐつぐつとする大きな鍋からは甘い匂いが漂い、待ちきれない孫たちはスプーンでドゥルセ・デ・レチェを味見。

そして、嫁や義姉は1個ずつ丁寧にアルファホーレスを仕上げるのです。その光景は、その場にいる人々の脳裏に焼き付き、彼が大人になっても思い出として残るのかもしれません。

観光客向けのお土産としても売られていますが、アルゼンチン人が日常的に食べるものは、甘ったるくて、食べたときにボロボロとクッキーがこぼれる安い、あるいは手作りのアルファホーレス。

左手前が、典型的な手作りアルファホーレス。

食事は思い出を作ります。そして、子供時代によく食べたおやつは、大人になっても思い出と残るもの。それがアルゼンチン人にとっては、とても甘いドゥルセ・デ・レチェとアルファホーレスがノスタルジックな気持ちを思い起こさせると言えるでしょう。

ちなみにこのドゥルセ・デ・レチェ、すでに日本の一部地域に向けて輸出されているそうで、これから本格化される可能性もあるようです(参考)。もしスーパーなどで見かける機会があれば、アルゼンチン人の思い出の味を楽しんでみてください。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

奥川 駿平

奥川 駿平

1992年生まれ、福岡県古賀市育ち。アルゼンチン在住歴3年。美人アルゼンチン人嫁と結婚するために、新卒という大きすぎるブランドを捨ててアルゼンチンに移住。毎日マテ茶を飲むほどのマテ茶好きで、同世代で最もマテ茶を消費していると自称。今さらながら、Twitterにドはまりしています。

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