『オルシュティンでおにぎりを』:私、ポーランドで日本食堂はじめました。

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ショパンとラードの国・ポーランドから、チェシチ!

読者のみなさま、はじめまして。ポーランド北部のオルシュティンに住んでいる小林なつみと申します。みなさまは、オルシュティンという町の名前を聞いたことがありますか? ポーランドがどこにあるかわかりますか? 住みはじめる3年前まで、私も答えはNOでした。

ポーランドはヨーロッパの真ん中に位置し、ヨーロッパの心臓とも言われています。人口約3800万人、公用語はポーランド語で、国民の95パーセントがカトリック教徒です。学校の授業で学ぶため、一般的にはナチスの強制収容所・アウシュヴィッツがある国として認識している方も多いのではないでしょうか? しかし、なにも暗い歴史だけがポーランドではないのです

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所がある一方、

首都・ワルシャワにはカラフルな建物がかわいらしい旧市街があります。この街は第二次世界大戦によって完全に破壊されたものの、市民の手によって壁のヒビに至るまで完璧に復元され、1980年には世界遺産に登録されるほどまでになりました。この国が誇る観光地であり、12月になるとクリスマスマーケットが開かれて、眩いイルミネーションで飾られます。

ワルシャワ王宮とクリスマスツリー/©Ministry of Foreign Affairs of the Republic of Poland

また、ポーランドと言えば、ショパンを思い浮かべる人も多いはず。国民にとっても彼は誇りで、デノミが実施される以前の紙幣にはその肖像が印刷され、国内最大の空港に彼の名前が入っているほどです。偉人ではほかに、コペルニクスやキュリー夫人などが日本でも有名ですね。

ちなみによく食べられているものが、ラード。なんと、ポーランドでは豚のラード『スマレッツ』をパンに乗せて食べます。一方、私は禁断のスマレッツご飯。しかし、国民食ならばやはり、ピエロギでしょう。これはのちほど説明します。

禁断のスマレッツご飯、キュートな豚の悪魔に食欲を叩き起こされます。

私が住むオルシュティンという街はポーランドの北部、ワルシャワから列車で3時間ほどの距離にあります。湖と森に囲まれたリゾート地(ヨーロッパ内陸部では海水浴ではなく湖水浴がメジャー)で、夏は国内外から観光客がわんさかやってきますが、あいにく日本人にはほとんど知られていません。そもそもこの街には、17万人ほどの人口に対し、日本人は片手で数えるほどしか住んでいないのです

私が住むオルシュティンの旧市街

キリスト教以前にあった土着信仰・ババ。今では街のマスコット的存在。

オルシュティンのウキエル湖、夏は観光客で賑やかに。

そんな場所に3年前、私は日本語教師としてやって来ました。

 

仕事は世界を回る日本語教師……だったけど、もう辞めちゃった。

日本の大学を卒業後、海外をフラフラと旅行していた時に『日本語教師』という仕事を知って、帰国後に資格を取得して、再び海外へ。初めは「海外に住むための手段」と考えていましたが、教えれば教えるほど面白くなって、日本語教師という仕事がだんだんと大好きになっていきました。

オーストラリアでの学期末パーティー(私がいます)

ベトナムでの授業風景(私がいます)

ポーランドでの授業風景(私がいます)

日本語であいさつもできなかった学生が、学んでいくうちに、日本語で冗談を言って、私を笑わせてくる。小さなことかもしれませんが、それがたまらなくうれしかったのです。そこにやりがいを覚え、「一生の仕事だ」とすら思えた日本語教師。しかし、なんと、ここオルシュティンで「ある活動」をはじめるために辞めてしまいました……。

 

日本食は寿司だけではない! なぜか日本食堂をはじめることに

この度、オルシティンで日本食堂「ちらり」をオープンしました。いや、まさか、自分が食堂をやることになるなんて夢にも思いませんでした。きっかけは、日本語教師の仕事とは別に知人と定期的に開催していた日本文化を紹介するワークショップ。地道に続けていたところ、気がつけばたくさんの人が参加してくれるようになり、とくに日本食ワークショップはいつも満員御礼の大盛況。

そこで今のボスから「日本食レストランやらない?」というスカウトが。突然のことに戸惑いはしたものの、引き受けることに。というのも私自身、日本食を取り巻く状況に思うところがあったからです。以前、ポーランド人の友人から、「日本人って毎日スシを食べてるの?」と本気で聞かれて驚いたことがありました。そのとき私は、「寿司以外の日本食を知らないからこういった疑問が浮かぶんだ」と思ったのです。(麺系が中心ですが、最近はワルシャワなどの大都市ではラーメンやうどんも人気)

ポーランドには、ピエロギと呼ばれる餃子に似た国民食があります。厚くモチモチとした皮に包まれていて、中の餡は、肉やポテト、チーズ、はたまたイチゴやラズベリーなどのデザート系までバラエティ豊かです。

しかし、それをポーランド人が毎日食べるかといえば、答えはやっぱりNOです。当然ながらポーランド料理には豊富な種類があり、それはまた日本料理も同じこと。寿司以外にも美味しい日本食がたくさんあるのだと、ここオルシュティンの人たちにも知って欲しい。そんな思いを込めて、高級店ではなくより庶民的な日本食堂を開こうと決意しました

ちなみに、私は「肉ピエロギ」一択!

 

問題山積みの中……予定から10ヶ月遅れてオープン!

が、現実は厳しい! 終わらない工事、入れ替わりの激しいスタッフ、それらもふくめた文化の違い。ヨーロッパというと洗練された印象を持つ日本人もいますが、それぞれで国民性はまるで違います(とくに東西の違いは顕著)。そこで、ただでさえ日本人率0.01%に満たないこの街で、日本人が日本食堂をはじめるということは簡単にはいかないようです……。

いや、本当、いろんな問題がありました。あらかじめ決められていた物件は街の重要文化財に登録されていたため工事許可が難航したり、施工業者は期日を全く守らず、採用したスタッフがごっそり辞めるどころかマネージャーまで抜けてしまったり……

しかし! すでに書いたように、「一生の仕事」のはずだった日本語教師まで辞めて選択したこの道。「外国人だから難しい」なんて弱音は吐いていられない。粘りに粘って、着実にことを進め、7月19日にオープン!(本当に最近なんです)。入口の両側に『ちらり』と書かれた日除け幕が掛けられたときは、胸に熱く込み上げるものがありました……。

予定から10ヶ月遅れ。ボスのスカウトから数えるとちょうど1年後のことでした。

ここからが始まり。あらためまして、これからどうぞよろしくお願いいたします。

この『オルシュティンでおにぎりを』では、そんな『ちらり』での奮闘(?)の日々を中心に、ポーランドとこの街の文化や歴史についてもお伝えしていければと思います!

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

小林 なつみ

小林 なつみ

1987年生まれ、東京出身。日本語教師生活5カ国目のポーランドにて、なりゆきで日本食レストランの立ち上げを任されることに。絵を描くことが好き。仕事で日本語教材のイラストや漫画を描く。海外生活を漫画で綴ったInstagramはこちら

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