断食月なのになぜ太る? イスラム国家・スーダンで見るラマダンの謎

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ムスリムが行う「断食」、実は太るって知ってた?

世界三大宗教のひとつであるイスラム教。そのイスラム教を信仰する人たちのことをムスリムと呼びます。彼らが国民の大多数を占めるインドネシアを中心に、近年日本にも多くのムスリムがやってきており、私たちの生活の中でも「ハラルフード(ムスリムが食べられる食材のみを使って作られた食事)」などのイスラム教由来の言葉を目にする機会も増えてきたのではないでしょうか。

スーダンでのお祈りの様子。モスクに人が入りきらず、外まで溢れることも。

ムスリムは、『五行』とよばれる5つの行いをすることになっており、それぞれ以下のようになっています。

ムスリムが守るべき『五行』

  • 信仰告白:アッラーの他に神はなく、ムハンマドは預言者であると誓うこと
  • 礼拝(サラート):1日5回、メッカに向かって神にお祈りをすること
  • 喜捨(ザカート):貧しい人たちに施しを与えること
  • 断食(サウム):ラマダン月の日中、飲食や喫煙、性行為をしないこと
  • 巡礼(ハッジ):一生に一度はサウジアラビアのメッカにあるカーバ神殿へ行き、お祈りをすること

ちなみに「信仰告白」については、この類の言葉を何回かモスクで言わされているのですが、僕はムスリムになったということなのだろうか……。

一般的なムスリムの女性は肌と髪を露出しません。

また、女性は髪や肌を露出することを禁じられているので、ヒジャブと呼ばれる布を巻いて髪を隠します。イスラム教徒の多い国は暑い国も多いのですが、そこへさらに暑そうな、全身が隠れるような服を着て生活しています。

しかし、UAE(アラブ首長国連邦)最大の都市ドバイなどでは、近代化の影響を受け、ヒジャブを被らず髪を露出している女性もいたり、ムスリムの禁止事項とされているお酒を飲む人たちもいます。ムスリムといえども、人それぞれで信仰の度合いも違っているようです。

ドバイの象徴的なタワービル、ブルジュ・ハリファの展望台からの眺め(窓越し)。

さて、前述の五行の中でも、有名なものが「断食」ではないでしょうか。そもそもの理由には諸説ありますが、ラマダン月の約1ヶ月間に渡って日中は食べず飲まずの生活をすることで、「貧しい人たちの気持ちを理解し、日々施しを与えましょう」という、ムスリムの五行である喜捨(寺社や貧しい人に施し物を喜んですること)の精神を養うことが目的のひとつとされています

「何も飲まず食わずで生きていけないじゃん!」と思われますが、断食をするのは日中のみなので、日が沈んでからはいつも以上にとんでもない量のご飯を食べます。ラマダン期間に太ってしまうムスリムの方もたくさんいます(僕が知る限りほとんどそうです)。

 

信仰も気候も「アツい」国、スーダン

町から離れたスーダンの村の様子。

そんなイスラム教の中でも、とりわけ信仰に厚い国があります。それがスーダンです。

とんでもなく暑い国で、夏の日中は気温が50℃を超えることも多々あり、日本の35℃なんてもはや涼しく感じてしまうほどです。ちなみによく似た名前で南スーダンという国がありますが、こちらは独立した別々の国(2011年まではひとつの国だった)。

車中の気温計で50℃を記録するほどの暑さ

砂嵐に包み込まれると、昼間でもあたり一面が真っ暗になります。

国土の大半は砂漠。砂嵐が吹き荒れることもしょっちゅうあり、朝起きると隙間から入り込み家中が砂まみれ、なんてことも日常茶飯事です。

そんなスーダンは、イスラム教が70%以上とムスリムが大半を占める宗教構成。私はUAEやモロッコなどの他のイスラム圏の国も行ったことがありますが、スーダンは特にイスラム教の信仰に厚いという印象があります。

現地のムスリムの人たちは日頃から、例えば路上で物乞いの人にお金を与えるなど、困窮者に対しての施しを自然に実践。断食中には、いつも以上に喜捨の精神をもって生活しているようです。

 

断食月(ラマダン)の実態に迫る!

そんな、イスラム教圏の中でもとくに敬虔なムスリムの多いスーダンですが、ラマダン中はどのような生活を送っているのでしょうか。

ラマダン、「断食月」がいつから始まるかは、太陰暦(月の満ち欠け)を基準に判断します。それがどのようにスタートが告げられるかといいますと、サウジアラビアで月の満ち欠けを偉い人たちが目視で判断し、それが告げられるというシステムのようです

経典などを根拠として決めているとのことですが、今日からラマダン突入! だったはずが、やっぱり明日から……なんてこともあったりします。ちなみに今年(2018年)は、5月16日から6月14日まででした。

普段、大勢で一緒に食べるときの食事。

スーダンでは、断食月に突入すると一気に街の活気がなくなります。客も激減するので日中はレストランもスーパーマーケットも閉まり、仕事の時間もいつもより1時間(か、それ以上)短縮され、交通量も減少。僕たち日本人はムスリムではないため断食はしませんが、お店が一切開いていない状態になるので飲食にありつくことができず、意図せず一緒に断食をすることになるのもしばしばです

そんなラマダン中に見られる、おもしろい「あるある」をふたつご紹介します。

“Because of Ramadan”(全部ラマダンのせいだ)

断食月に予定していた仕事が終わらなかったりすると、スーダン人はみんな「Because of Ramadan(ラマダンだからね)」と全部ラマダンのせいにします。次の会議の予定を決めるときも、「ラマダンの後にしよう」 となることもしばしば。ラマダン中は仕事が一切進まないと考えた方が得策です。

頭脳派? 昼夜逆転生活でやり過ごす

断食は、日の出から日没までの間のみ行えばよいので、裏を返すと日が沈んでから昇るまではどれだけ食べて飲んでも構わないのです。実際、日が沈むとみんな毎日お祭り騒ぎ。日沈後最初の食事を「イフタール」と呼ぶのですが、男性は家の前に食事を並べ、街を歩く見知らぬ人たちも巻き込みながら、みんなで食事をします。一方で女性は、イフタールの準備を日没前からはじめ、食事は家の中で食べるのが基本です。。

そこで頭の良い人たちの中には断食月の間は生活リズムを逆転させ、日中はずっと寝て、日没後から日の出まで起きていることで、「断食しなくていいんだぜ!」なんて誇らしげに言ってくる人も……。あれ、断食は貧しい人の気持ちを理解するためなのに、それをしなかったらなんも意味ないじゃん! と思ってしまうのは僕が外国人だからなのか……。とはいえ、こうした宗教行事を楽しむ姿勢からは、学ぶことが多いなと感じます。

 

ラマダンの後はイード(祝祭)で大いに賑わう

さて、ラマダンが終わると、その翌日に「イード」を迎え、そこを起点に約1週間ほど休暇に突入します。このときラマダンの日没後以上にお祭り状態で、朝から晩まで家族や友達と食事をしながら過ごします。タマリンドのジュースやカルカデ(ハイビスカスジュース)など、ラマダンやイードの期間のみ食べたり飲んだりする食事や飲み物が並ぶのも特徴的です。

田舎ではラクダを移動手段にするとともに、ミルクにも食肉にもなる貴重な食料でもあります。

また、結婚式などのお祝いごともこのイードに合わせて開催されることが多く、いたるところでお祝いムードとなっている様子が見られます。スーダンは日本のように祝日がほとんどないので、イードの長期休暇は1年の中でも貴重な期間であり、この休みを活用して実家に帰るスーダン人もたくさんいます

 

ムスリムにとって断食は楽しいライフイベント

ラマダン中の断食は基本的にすべてのムスリムが行うものなのですが、妊娠中の女性や小さい子どもは行わなくても良いとされていたり、最近だとスポーツ選手は大事な大会の期間には断食をしなくても良いなど、時代に合わせた新しい解釈もなされているようです。

UAEなど特に若い世代が中心的な、日頃からお酒を飲んだり、ヒジャブを被らない女性もいる国では、彼らが歳を重ねた頃、ひょっとしたらムスリムが遵守すべきルールにもなにかしらの変化が見えるかもしれません。

最後に、ラマダンについてどう思っているか、実際にスーダン人の友達に聞いてみました。

田才

ちょうど今ラマダンだと思うけど、調子はどう?(質問時はラマダン真っ最中)


友人

断食の最初の1週間くらいは辛かったけど、だんだん慣れてきたよ。なにより、日没後はいつも以上に家族や親戚、友人とご飯を一緒にしたりして過ごすので、ムスリムにとっては楽しみな1ヶ月間でもあるんだ


田才

ラマダンという習慣についてはどう思っているの?


友人

ムスリムの私たちにとって、とても大切な儀式だよ。毎年この時期がやってくると、コーラン(イスラム教の聖典)を改めて読み直し、自分の行いを見直すんだ

「ラマダン=断食」というイメージが強く、ややもすると「苦行」かのように捉えられがちですが、断食はラマダン中の行いのひとつであり、ムスリムにとってラマダンはポジティブなものであるということがわかりました。こうした宗教や伝統的ライフイベントを楽しむ姿勢からは、私たち日本人も学ぶものが多いと感じます。

断食に対するイメージ、少しは変わりましたでしょうか? ぜひ機会があれば、実際のラマダン月に中東やインドネシアなどムスリムの多い国に訪れてみてください!

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

田才 諒哉

田才 諒哉

1992年生まれ。新潟県出身。イギリスで開発学修士をとるために大学院生やってます。これまで青年海外協力隊としてザンビア、国際協力NGOでパラグアイやスーダンに駐在。またニュージーランドに留学し、バリスタの国家資格も持つ。訪れた国は約40ヶ国。世界の魅力を発信し続けます!ブログ「世界への扉」TwitterInstagram

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