W杯出場を逃したイタリア、古豪のサッカー人気は最近下火ってホント?

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※本記事は特集『海外のサッカー事情』、イタリアからお送りします。

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W杯そろそろ開幕!……ところで出場を逃したイタリアの様子は?

2018年はワールドカップの年。この記事を書いているのは4月ですが、インターネット上では本番のシミュレーションを兼ねた親善試合の結果がニュースになったり、気の早い記者が優勝国を予想する記事を書いたりと大きな話題になっています。

特に日本では、グループリーグで対戦することになるコロンビアやポーランドの様子がこと細かに報道されていますね。普段はサッカーを見ないけれど、このときばかりは日本代表を応援するという人も多いのではないでしょうか。

さて、世界中で話題になっているワールドカップ。サッカーに興味がある人ならご存知かと思いますが、イタリアは予選で敗退してしまったため出場することができません


上記はワールドカップ出場を逃した瞬間のツイート。イタリアの敗退は、ある意味で今大会最大のサプライズかも。

ヨーロッパのワールドカップ予選は参加国数が多いうえに強豪ぞろいということもあり、もともとかなり厳しい戦いではあるのですが、それでも1958年のスウェーデン大会以来60年ぶりに出場を逃したとあって、イタリア国内だけでなく世界中で大きなニュースになりました

これだけの連続出場記録を持っているのは、イタリア以外にはブラジル(84年連続)とドイツ(68年連続)だけ。さらに、イタリアは過去に4回も優勝を経験している国であることを考えると、その波乱ぶりがよく分かるのでは。

最近はダークホースと言われることの多いイタリア。この青いユニフォームが見られないのはやっぱり寂しい。

そんなわけで、イタリア人のワールドカップに対する熱はかなりトーンダウン。他の国を応援するということもないため、ニュースにも日常会話にものぼりません。自分の国が出ないから興味もなし、このあたりのサバサバとした感覚はイタリアらしいといえるのかも。

ワールドカップの話題がないため、最近のイタリア国内のサッカーはセリエAの話題が中心。こちらは試合の解説番組です。

 

イタリア人にとってサッカーは社会思想と同じ!?

さて、ワールドカップはそれほど盛り上がっていないものの、サッカーがイタリアで人気の高いスポーツであることは変わりません。法律で決められているわけではありませんが、サッカーは国技のひとつだったりします。国民に深く親しまれている、事実上の国技というやつですね。

フットボール(サッカー)という競技が生まれた地域はイングランドとするのが定説のようですが、実はイタリアでも16世紀頃と比較的早い段階に「カルチョ・フィオレンティノ」と呼ばれる競技が行われていたという記録があります。当時は手と足の両方を使っていたようなので現代のルールとは大きく異なりますが、近隣の国のサッカー(に似た競技)と混じり合い、現代のサッカーが生み出されていったのかもしれません。

ちなみに、この「カルチョ」という言葉はイタリアではサッカーを意味する言葉として現代も使われています

カルチョ・フィオレンティノの様子

イタリアの社会調査機関であるdemosの調査によると、イタリアのサッカーファンの割合は全国民の38%にも上るのだとか。日本でもJリーグがかなり盛り上がっている気がしますが、そのファン人口はおよそ1,089万人(三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルによる共同調査による)。計算してみるとその割合は全人口の8.5%となり、大きな差があることが分かります。

この差はどこから生まれているのでしょうか。

 

リーグのレベルが単純に高い

もちろん、そもそもリーグ全体のレベルがぜんぜん違うという理由があります。レベルが高いからお金も回るし、スター選手も多い。したがってファンの数も多い。わかりやすいですね。

セリアAの設立年は1898年、ワールドカップ開始は1930年なので歴史は古い。

イタリア国内のプロリーグであるセリエAは、かつては世界最高レベルのリーグと言われていて、ディエゴ・マラドーナやジネディーヌ・ジダンなど、サッカーファンじゃなくても知っていそうな「超」がつくほどの有名選手が大勢いました。

日本人でも三浦知良や中田英寿、また最近では長友佑都や本田圭佑など代表クラスの選手がプレーしていたので、そこからセリエAの試合に注目するようになった人もいるかもしれません。

ただ、サッカーに熱狂するイタリア人を見ていると、こうした「スター選手が多い、だから好き」という単純な構図以外に、もう少し深いレベルでサッカーに愛情を持っているのではと感じる場面もあります。

 

ファン自身の社会思想をあらわしている

例えば、ミラノにはACミランとインテルという2つのサッカーチームがありますが、いずれもセリエAを代表する強豪チームで、人気も強さも同じようなレベル。さらに同じ街にあるチームということもあり、強いライバル関係にあります。

ミラノ市内のサッカーショップ。こんなところでも敵対心をあおる構図。

どちらも似たチームですが、ACミランはどちらかというとイタリア人選手が重用される傾向にあり保守的。さらにファン層もカジュアルな服装の人が多く、かつては労働者階級が多い傾向がありました

それに対してインテルは「インテルナツィオナーレ(Internazionale:国際的)」という名前が示す通り、外国籍の選手も多くリベラル志向。ファンもブルジョワ階級が多い傾向があります

かつてACミランがインテルを相手にゴールを決めた際の映像。両チームの対戦前にはこうした動画を投稿して、敵対心を煽るのがお決まりだったりします。

最近はこの隔たりも少しずつ薄れてきていて、ACミランのファンだからといって、必ずしも保守的だったり労働者階級だったりするわけではありません。ただ、イタリア人にひいきのチームを聞いてみると、その人とチームのイメージが合致することもしばしば。自分の思想をチームに重ね合わせているように感じることもよくあります。

 

イタリアのサッカー人気、最近はちょっと下火に

イタリア人にとってサッカーはなくてはならないものですが、その一方で、最近はその人気が少し下火になってきているという現実もあります。

イタリアのサッカーファンの割合が38%というのは先にも書きましたが、これは2016年の数字。実は2010年の同じ調査では52%だったことを考えると、サッカー離れは急速に進んでいると考えていいでしょう

「オレ、サッカー嫌いなんだよね」

というのは以前ローマに住んでいた時にルームシェアをしていた同居人の言葉。その頃はまだイタリアに住み始めたばかりで、イタリア人はみんなサッカーが好きなものだと思いこんでいたのでとても驚きました。

 

鈴木

どうしてサッカー嫌いなの?

友人

だってうるさいじゃん、点が入る度に大声出したりしてさ

鈴木

へ、へえぇ

友人

広場で酔っ払って大騒ぎしてるやつもいるし、迷惑だよね

 

それがサッカーの楽しみ方なのでは……とも思いましたが、その時はそんな人もいるんだな、イタリア人はマイペースなんだなと妙に納得した記憶があります。

彼の例は少し極端かもしれませんが、数字から見る限りイタリアのサッカーファンが減っているのはどうやら事実のよう。

2006年の栄光を再び取り戻せる日は来るのか……。(©Alexander Johmann)

その理由はいくつか考えられますが、やはり大きいのはスペインやイングランドなど他国のリーグに比べると競争力が落ちていることがあげられるかもしれません。セリエAの黄金期と言われていた20年ほど前と比べるとスター選手の数もかなり少なくなっているのが現状。

浮き沈みのあることではありますが、近年のセリエAの状況や、イタリア代表がワールドカップを逃していることなどを考えると、イタリアサッカーがかつてのような黄金期を取り戻すのはまだまだ先になると言われています。

2012年のユーロのときは、こんなテンション高めの人が街中に大勢いました。ちなみにこの時、イタリア代表は決勝まで勝ち残っています。

ただ、最近は国際大会で活躍するクラブチームも増えてきて、少しずつですが復調の兆しが見えてきているような気も。こうした出来事がきっかけとなって、次回の2022年のカタール大会ではイタリアの活躍する姿が見られるといいなと思います。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

鈴木 圭

鈴木 圭

イタリア・ミラノ在住、フリーライター。広告ディレクターや海外情報誌の編集者などを経て2012年にイタリアに移住。イタリア関連情報や海外旅行、ライフスタイルなどの分野を中心に活動中。旅行先の市場でヘンな食べ物を探すのが好き。「とりあえず食べてみよう」をモットーに生きてます。HPTwitterInstagram

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