パリ・サク・フニ!おやつの”食感ミックス”にミャンマー料理の真髄を見た
※本記事は特集『海外のおやつ』、ミャンマーからお送りします。
6つに大別できるミャンマーのおやつ
もともと、ミャンマーでは1日2食が主流だったため、食事と食事の隙間を埋めるスナック文化が発達したといわれています。職場でも、朝食代わりに買ってきたスナックを朝からデスクで食べたり、おやつタイムに同僚たちに配ったりといった光景が繰り広げられています。
ミャンマー人がよく食べるスナックは大まかに分類して、甘味系と非甘味系のものに分けられます。便宜上、ここでは後者を塩味系と呼びます。それらはどのようなものがあるのでしょうか、6つのジャンルに分けてご紹介します。
甘味系/饅頭群
饅頭と書きましたが、固形のお菓子という意味です。
代表的なのはセモリナ粉(粗い穀物粉)を使ったサヌウィンマキンで、重量感ある食べごたえのため、朝ごはん代わりにする人も多いお菓子。後述するシュエインエーと並ぶミャンマーを代表するスイーツです。
作った時のタライに入れたまま路上で売る屋台ではひと口大に切り分け、ココナッツの果肉フレークをトッピングします。
サヌウィマキンと一緒に売っていることが多いオンノーターグーは、タピオカにココナッツクリームをのせて焼いたもの。伝統的菓子ですが、昨年あるメーカーがココナッツクリーム多めでケーキのようにして売り出し、大ヒットを飛ばしました。
色味の美しさで、チャウチョーもあげておきたいところ。結婚式や法事のデザートに出ることが多い、“よそいき”の位置づけです。
甘味系/あんみつ群
この分野ではベトナムのチェーが日本でもスイーツ好きには有名ですが、よく似たデザートがミャンマーにもあります。パームシュガーシロップやココナッツミルクの中に、上新粉で作る米粒ほどの白玉団子が入ったモンレッサウンや、タピオカが入ったインド由来のファルーダです。
そしてこちら。ミャンマーのあんみつ系スイーツ界の頂点に君臨するシュエインエー。
白玉団子もタピオカもチャウチョウも、全部少しずつ入った上にココナッツミルクがかかっています。
ユニークなのは、食パンをトッピングすること。想像ですが、もともとあったあんみつ風の菓子に、イギリス植民地時代に入ってきた食パンをのせたら「(当時の感覚としては)モダンになった」ということなのではないでしょうか。
最初はフワフワだった食パンが、食べているうちにシロップでフニフニになっていく食感の変化が独特のスイーツです。
塩味系/揚げ物群
このジャンルで代表的なのは、ヒョウタンの天ぷらです。いきなりニッチな食材を出してくるなとお思いでしょうが、ミャンマーではヒョウタンは、日本の大根並みにポピュラーな食材なのです。
ヒョウタン天ぷらは昔から食べてきたスナックなのですが、現在50~60歳くらいのミャンマー人が20代だった時代、若者たちの間でインヤー湖畔南西岸公園のヒョウタン天ぷら屋台が大流行しました。
彼らにとっては青春の思い出スナックでもあります。若者から始まった流行はいまやすっかり定着し、ヒョウタン天ぷらは、ミャンマーの定番揚げ物となりました。
揚げ物系では、サモサや揚げ春巻きも一般的です。インドと中国のはざまに位置するミャンマーらしいラインナップといえます。
練り物を中心にした串揚げ屋台も街角でよく見かけます。焼くよりも短時間で調理し終わるのが屋台スナックとして秀逸なのでしょう。
塩味系/粉モノ群
日本でもスナックの王道がこのジャンルですが、ミャンマーにも様々な粉モノがあります。
ミャンマー版、甘くないパンケーキとでもいうべきモンピャータレッ。腹持ちがいいので、食事代わりに食べる人が多い。
クレープ以外の何物でもないイェモン。何も入っていないプレーンなものも、野菜や卵が入ったものも様々。
大阪人が見たら「これ、たこ焼きやん!めっちゃたこ焼きやん!!」(でもタコは入っていない)と叫ぶモンリンマヤー、あたりでしょうか。
塩味系/おかず群
塩系スナックは他にもいろいろありますが、見た目の面白さで個人的に好きなスナックがこちら。どちらもスナックというより“おかず感”が強いので、おかず系としてくくってみました。
ぱっと見、稲荷寿司にしか見えないペーピャーアサットゥ。厚揚げを切り開き、中にキャベツをピリ辛ドレッシングであえたものが入っています。
さらにこれはヒョウタン天ぷら同様、かつて学生の流行から定番化に至ったワッタードゥートゥ。串に刺したホルモンを、客が自分で煮えたぎるスープに浸しながら食べます。
塩味系/茶葉の漬物群(ラペットゥ)
最後に、ミャンマー語で「ラペットゥ」と呼ぶ、茶葉の漬物を紹介しましょう。正確には、茶葉の漬物自体は「ラペッソー(ミャンマー語で「湿った茶葉」の意味)」、油や具材と混ぜて初めて「ラペットゥ(「あえた茶葉」)」となります。
バガン朝時代(11~14世紀)にはすでに文献に登場する由緒正しきスナックだけに、「すでに廃れつつある伝統スナックなんでしょ?」と思う方もおられるかもしれませんが、今でもミャンマーではたいていの家庭が常備しているほど、最大にして最強の普及度を誇るスナックなのです。
茶葉の漬物にはピーナッツ油などの油が絡めてあり、これに様々なトッピングを添えて、食後のデザートや客人へのお茶請けとして出します。トッピングは家庭によって異なり、一般的なのは揚げ豆、ゴマ、千切り生姜、生ニンニク、生唐辛子、干し海老あたりでしょうか。最近では、茹でトウモロコシ粒やトマトスライスなどを添えることもあります。
ポイントは、食感や風味が異なる食材が混ざること。苦味のある柔らかな茶葉の漬物にクリスピーな揚げ豆、シコシコした歯触りの干し海老にシャキシャキで香りのきつい生ニンニクを同時に口に入れて噛み締めることで、様々な食感や香り、味が口中で渾然一体となるのを楽しむわけです。
多様な食感の種類だけでなく変化も
個人的にはラペットゥが代表する、この食感のコンビネーションの妙こそがミャンマー料理の真髄ではないかと考えています。
たとえば先にあげたシュエインエーなども、その最たるものです。タピオカや白玉団子、ゼリーといったごった混ぜの食感にさらに加える食パンは、最初はフワフワですが、食べているうちにシロップを吸ってフニャフニャになります。食感のバリエーションだけでなく、変化までもが楽しめるのです。
真髄というからには、スナックだけではありません。和え物や麺類などでも、異なる食感の具材のコンビネーションや、食べているうちに変化する食感を楽しめる料理が、ミャンマーには実に多いのです。
アイスクリームで食感ミックス問題をさらに考える
少し前に、一時的に話題になったアイスクリーム屋がありました。シンガポールのチェーン店で、アイスクリームを食パンではさんで食べるスタイルの店です。
実はミャンマーでアイスクリームを食べるとき、よくトッピングするのが、ウェハースならぬスポンジケーキ。食べているうちに溶けてきたアイスクリームがスポンジに染み込み、フニフニになるのも楽しみます。
ですから食パンで挟むと聞き、シュエインエーの例もあるしミャンマー人は好きだろうと思っていましたが、さほどのヒットには至りませんでした。食べてみるとわかるのですが、この食パンは手を汚さない容器的な役割を担っているに過ぎず、食感のコンビネーションや変化はあまり楽しめないのです。
ミャンマー料理における食感ミックスおよび変化に関するこの仮説、今後もさらに突き詰めていきたいと思います。
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編集:ネルソン水嶋
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この記事を書いた人
板坂 真季
ガイドブックや雑誌、書籍、現地日本語情報誌などの制作にかかわってウン十年の編集ライター&取材コーディネーター。西アフリカ、中国、ベトナムと流れ流れて、2014年1月よりヤンゴン在住。エンゲル係数は恐ろしく高いが服は破れていても平気。主な実績:『るるぶ』(ミャンマー、ベトナム)、『最強アジア暮らし』、『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』など。Facebookはこちら。