食事タイムは3+2?「食べたい時が買い時」なメキシコおやつ事情

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※本記事は特集『海外のおやつ』、メキシコからお送りします。

クリックorタップでメキシコ説明

 

ランチは2時から。 間食なしでは耐えられないメキシコの食事タイムとは?

カナダ生まれのサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」狂で、シルクを見るために世界中を飛び回っている友人曰く「シルクの会場で買えるスナックの種類はメキシコが随一! さすが間食大好き・メキシコ人だよなって感心する」とのこと。

確かに、メキシコ人は老若男女問わず、いつもちょこちょこ何かを食べています。そして彼らの欲求を満たすために、あらゆるところでお菓子を売っています。

人通りの多い通りの角には必ずこのような駄菓子売りの売り子さんがいます。

世界ワースト1位を誇る渋滞の中でもお腹が空きます。そんなニーズにこたえるために、車の間を縫ってお菓子を売り歩き。

なぜメキシコ人にはこれほどまでに買い食い欲求があるのでしょうか。それには、彼らの食事時間が関係しているのだと考えます。彼らのランチ時間は午後2時から4時と遅め。これはどうやら他のラテンアメリカから見ても遅い時間帯のようです(出典)。

その理由は、もともとメキシコに食事の時間帯が下記のような5種類存在することにあるのではないか、と筆者は思っています。

  • 朝ごはん:午前7時~8時
  • アルムエルソと呼ばれるブランチタイム:正午前後 ※他のラテンアメリカ諸国ではアルムエルソ=昼食、という概念を持つ国もあるようです
  • 昼ごはん:午後2時~4時
  • メリエンダと呼ばれる軽食タイム:午後6時前後
  • 夕ご飯:午後8時以降

ただし、日に5回食べる、ということはなく、学校や職場のタイムスケジュールからいっても朝・昼・夕の3回食べるのが一般的。

となると、正午前後にはお腹が空いてきてしまい間食が必要になるのです。また、昼ごはんを一番しっかりとるため、夜は8時以降に軽くパンやシリアルなどで済ませることも多いため、やはりここでもちょっとした間食をとるようになってしまうわけです。アルムエルソやメリエンダほどしっかり食べないまでも、なにか口に入れなくては空腹に耐えられない、ということなのでしょう。

ちなみにメキシコ人たちは間食で食べるスナックやお菓子をTentempie(テンテンピエ)と呼ぶのですが、この語源はDetente en pieもしくはTenerte de Pie=足でしっかり立つ、空腹で倒れないために食べるもの、にあるといわれています。

 

意外な健康志向? メキシコの伝統的な菓子

さて、海外で売られているお菓子というと、超ド級の甘さと人工着色料をふんだんに使ったカラフルなもの、というイメージもあるでしょう。もちろんメキシコ菓子も、その期待を裏切らないどぎつい色のものもいっぱいあります。

キャンディーひとつ舐めただけで……。

ですが、伝統的なお菓子関しては必ずしもそういった「それ、口に入れて大丈夫!?」という気持ちになるものではありません。

例えばこちらの「アレグリア」。

Alegrías./©AlejandroLinaresGarcia

スーパーフードでもあり、宇宙食にも選ばれているというアマランサスという雑穀を雷おこしのように固めたもの。腹持ちもよくさらに10ペソ程度(およそ60円)とお財布にも優しい、庶民派ナンバーワンの定番菓子です。

また、「コカダ」はココナッツの実を細かく削ったものを、ミルクで固めてオーブンで焼いたお菓子。予想を裏切るやさしい甘さです。

Cocadas/©Cristina Zapata Pérez

「アテ」はフルーツでできた羊羹のようなお菓子。フレッシュチーズとともにいただいたりもします。甘いとしょっぱいの絶妙なハーモニーは万国共通。

このようにメキシコには自然派の伝統菓子があるのです。それなのに、なぜ不健康そうなお菓子が巷にあふれているのか。おそらく、ファストフードの流入によってメキシコ人の食生活が変わってきたのと同様に、お菓子の種類も国境を接する大国・アメリカ合衆国からの影響で変化しているのでしょう。

 

6000年のチリ文化はお菓子にも影響

当サイト掲載の記事「チリ文化は”6000年”! メキシコ人が愛してやまないサルサの世界」でもご紹介した通り、チリ(唐辛子)が食生活に密着しているメキシコでは、問答無用でお菓子にもチリをイン。

https://traveloco.jp/kaigaizine/sauce-mexico

ポテトチップスにも、

マンゴー味のキャンディにもチリを加えます。

筆者も日本在住時には、メキシコ旅行から帰ってくるたびに「いやげもの」としてたびたびこういったチリ入りのお菓子を同僚に買って行っては、みんなでネタにしていた過去がありました。

つまりあくまでもシャレのようなものと捉えており、「なにがうれしくてこんなものを食べなきゃならないのか」と思っていた訳です。が、在住歴が長くなるにつれて「ほぼ罰ゲーム」と思っていたタマリンド+チレペーストの駄菓子をよろこんで食べるようになったあたり、人間の味覚の不思議を感じます。

チリが入っているだけでもギョッとするのに更にこのフォーム。中に入っているペーストを下から押し出しながら食べるのですが、いつも伊藤潤二の「グリセリド」という恐怖漫画のワンシーンを思い出します。

 

ピニャータからお菓子の雨が降る

さて、メキシコとお菓子のかかわりとして忘れてならないのが「ピニャータ」。

7つの大罪を表す突起をもつ星形の張り子・ピニャータをたたき割ることで悪を追い払うという、もともとはキリスト教の布教に用いられた風習。教えに基づいて悪魔を追い払った者だけが神の恵み、つまりピニャータの中身を受け取ることができる、という宗教的な意味合いがあったそうです。

こちらオリジナルの星型

現在はそのような意義はほとんどなくなり、パーティーを盛り上げるゲームの一つとなっています。

イマドキのピニャータはキャラクターものが人気。微妙なデザインですが「著作権に引っかからないために似て非なるものにしてるらしい」という都市伝説(?)も。

中身に関してもかつての果物にとってかわり現在はお菓子が主流。とにかく子どものお誕生日会といえばピニャータなしには語れないため、誕生日会が重なると家の中にはお菓子があふれることになってしまいます。これは母親としてはなかなか悩ましい。

ピニャータの中にお菓子を詰め、歌に合わせて順番に叩き割っていきます。

ピニャータから降ってきたお菓子をとりまくります。

奥に見えるのはお菓子でパンパンになったお母さんのバッグ。そんなに持って帰ってどうしようというのか。

家に持ち帰った山のようなお菓子をどうするか。これはどうやら子をもつ親の共通の悩みのようで、同じく小さい子どもをもつ同僚のアイディアでオフィスにお菓子ボックスを設置することにしました。給湯室前の廊下においておけば、1日ですっかり消費されます。家で子どもにお菓子を食べさせたくないお母さんも、会社でちょこちょこお菓子を食べたい同僚たちも、どちらも満足のいいアイディアとなったのでした。

 

お菓子と肥満のはざまで揺れるメキシコ

メキシコは2013年の国連食糧農業機関(FAO)調査で、長年1位の座を占めていたアメリカを抜いてワースト1位の肥満大国となりました。その翌年5月には、子どもたちを肥満から守るべく Mi Escuela Saludable(健康的な学校生活)プロジェクトを実施。「学校の購買やカフェテリアで菓子類や人工甘味料を使用したジュース類の販売禁止」、「間食向けにはカットフルーツや野菜などの販売」、を義務化しました。

ですが、それもすでに形骸化。2019年2月に発表された最新レポート(出典)によると、調査対象となった学校の98%がお菓子やジュースを日常的に販売。別の新聞記事によると、そもそも2016年時点で9割以上の学校がお菓子を販売していたようです。2年経つか経たないかでほとんど誰も守っていない……いや、よしんば学校が守っていたとしても、街のそこここでお菓子を買うことができるのですから、もともとあまり意味はなかったのかもしれません。

週末の公園にはこんなお店がずらりと並びます。

娘の離乳食が終わるか終わらないか、という時期、かかりつけの小児科医が「いい子にできましたね~はいキャンディーよ」と棒付きキャンディーを渡していたことに対して不快感をあらわにした筆者ですが、お医者さんですら幼児にお菓子をあげることを”悪いこと”とは思わないメキシコ。昼食前、そして夕飯前の空腹を乗り切る前の間食やお菓子が当然のものとして存在するメキシコ。

健やかな成長のために、と通わせているテコンドークラスで娘がもらって帰ってきたお菓子。これじゃあ、なんのために通わせているんだか……と思うのは日本人だから?

郷に入っては郷に従え。さすればこそ、なるべく体に良さそうなものを……と思いつつも、筆者のオフィスの引き出しには同僚からもらったスナック菓子が忍んでいるのでありました。そりゃ体重だって10kgも増えるわ、という話です。

 

 

編集:ネルソン水嶋

  • ※当サイトのコンテンツ(テキスト、画像、その他のデータ)の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイトなどへの引用も厳禁です。
  • ※記事は現地事情に精通したライターが制作しておりますが、その国・地域の、すべての文化の紹介を保証するものではありません。

この記事を書いた人

Mariposa Torres

Mariposa Torres

2010年のメキシコシティ移住と同時にライター活動を開始。メキシコ現地日本語フリーペーパーの編集長を経て、現在は会社員とライターの二足のわらじ生活を送っています。サボテンやテキーラ、はたまた麻薬抗争……といったメキシコのステレオタイプなイメージをぶち壊すために草の根運動中。メキシコ生活を楽しむための情報ブログもやってます。めひこぐらしの手帖@mexicogurashi

  • このエントリーをはてなブックマークに追加