スナック菓子こそがイスラエル料理では?超定番おやつ「バンバ」と「ビスリ」
※本記事は特集『海外のおやつ』、イスラエルからお送りします。
おやつのセンスはヨーロッパ寄り?
イスラエルは中東地域の国なので日本人にとってはエキゾチックなイメージがあるかもしれません。確かにそれは間違いではないです。しかし歴史的にはヨーロッパ出身のユダヤ人達によって建国された国なので、テルアビブなどの都市はヨーロッパに近い雰囲気です。
そんなイスラエルのコンビニやスーパーでよく売っているおやつは、意外というか当然というか、スナック菓子です。ポテトチップス、トルティーヤチップス、チョコレートなど、アメリカやドイツなどの一般的なスーパーとあまり変わりません。
カール? 圧倒的人気のコーシャスナック「バンバ」
数あるスナックの中でも、イスラエルのおやつとしてまず最初に名前が挙がるのが「バンバ/Bamba」です。トウモロコシを原料にしたスナック菓子で、日本の「カール」や「キャラメルコーン」に食感が似ています。しかし風味は違い、甘じょっぱいピーナッツバターのような味がします。
バンバはイスラエルを代表する食品会社「オセム/Osem(※)」を代表する商品で、会社のHPによると「イスラエルの家庭の9割が定期的に購入している」という調査もあるほど人気。一説には、イスラエルのスナック市場の1/4はバンバが占めているという計算もあるほど。※オセムは現在、ネスレの子会社となっています。
バンバはコーシャ食品の認定を受けており、パッケージには「コーシャ」というヘブライ語の認定マークの帯がついています。コーシャはユダヤ教の食のルールで、イスラム教のハラールのようなものです。国民の約6割がユダヤ教徒とされるイスラエルでは、コーシャフード※であることが売り上げに直結します。
※コーシャは複雑なのであえて一言で説明しますが、「禁止食材以外をコーシャルールで処理した食べ物」となります。調理器具、処理方法、外見や習性による生物の指定(コーシャ動物)など、様々な規定があります。あと、魚&肉、肉&乳製品の組み合わせもNGです。
バンバのパッケージの裏の成分表はヘブライ語とアラビア語。英語やロシア語も記載される標識などとは違い、外国人を意識している様子がありません。これぞローカルな食べ物という感じ! ちなみにバンバは100グラムで534キロカロリーと、一般的なチーズよりも高い数値。
実際に食べてみると、一粒一粒はとても軽く、ごくわずかにサクサク感が増した麩菓子のような食感。頑張って咀嚼しなくても口の中で溶けるような軽さです。そして辛すぎず甘すぎずという塩梅なので、ついつい次が欲しくなる味。やめられないとまらない! 余談ですが、エビはコーシャで食べることが禁じられています。
バンバは観光客に媚びる気がない表記でしたが、観光地の売店でもしっかり販売されています。おやつに興味のある人が国内の売店を渡り歩けば、「どこにでもあるアレは何?」と気づけるほど。それほどバンバはそこら中に売っています。
バンバと張り合える唯一のスナック。揚げパスタの「ビスリ」
バンバの次に人気なのが、パスタを原料に作られたスナックの「ビスリ/Bissli」です。ビスリもバンバと同じオセムの商品ですが、ビスリには様々なフレーバーがあり、フレーバーごとに形に異なるのが特徴です。
常時販売されているビスリのフレーバーは6種類で、グリル、バーベキュー、オニオン、ピザ、ファラフェル(後述)、メキシカンがあり、それぞれで形も違います。どこの国にもありそうなフレーバーですが、唯一「ファラフェル」はイスラエルらしいフレーバーと言えます。
ファラフェル味のビスリは、スパゲティを細かく切って揚げた形状です。見た目はファラフェルではないですが、 風味は完全にそれです。食べてみると、何となく日本のベビースターラーメンを思い出します。
ピザ味もファラフェル味も食感はザクザクしていますが、硬すぎたり口に残ったりする不快な食感ではありません。家でパスタを揚げてもこうはできないと思うので、この食感を産んだオセムの企業努力のようなものが感じられます。
ビスリもバンバと同じぐらいよく売られています。個人経営のコンビニのおやつの店で見かけることが多く、バンバが売ってない代わりにビスリが置かれているといった傾向のようなものも感じます。つまりバンバかビスリなら、イスラエルのどこでも手に入ります。
イスラエルの老舗食品会社・オセムの歴史は国よりも長い
ここで簡単に、バンバとビスリを産んだオセムの歴史をまとめておきます。
オセムの創業は1942年。当時スパゲティやマカロニを製造していた、複数のパスタ製麺会社が合併して誕生したのがオセムです。イスラエルの建国が1948年なので、国よりも6年分と歴史が長い会社です。
イスラエル独立直後の中東戦争(独立戦争)の際に食料供給をしたり、緊縮時に食と雇用を提供したり、会社の発展が国の経済発展に直接関係していることから、名実ともにナショナルブランドといった様子。
初代大統領のダヴィド・ベングリオンに頼まれてオセムが生み出した米状のパスタは「プティティム/Ptitim」と呼ばれ、イスラエルの定番料理の一つとしても認知されています。
軽食やデザートには伝統料理のプレゼンス
おやつの王道はスナックでしたが、軽食やデザートに関しては中東系の料理が人気のようです。代表的な「ファラフェル」と「ハルヴァ」について紹介します。
おやつにもおかずにもなるソウルフード「ファラフェル」
先ほどのビスリのフレーバーにもあったファラフェルですが、ファラフェルは豆と香辛料を混ぜたコロッケで、中東地域でよく食べられます。アラブ系人口が20%のイスラエルではソウルフードとして認知されており、老若男女問わずとても人気です。
ファラフェルはピタパンに挟んでサンドイッチとして提供するのが一般的なので、ストリートフードとしての印象がとても強いです。そう言うと若者の食べ物ような雰囲気ですが、イスラエルでは、本当に老若男女が食べています。日本のおにぎりにも似た立ち位置でしょうか。
レストランやストリートフード以外にも、ショッピングモールの子供向けの飲食ブースのメニューにファラフェルが採用されていることも。イスラエルでは子供にも好んで食べられるメニューとしても認知されていることが伺えます。
イケアの売店にもファラフェルサンド
おやつにもおかずにもなれるファラフェル。イスラエルでは、イケアの軽食ブースでさえも当然の様にファラフェルサンドが売られており、国民食としてのプレゼンスの強さを感じます。
イスラエルの食費は高く、一般的な飲食店のフライドポテトSサイズで15シェケル/450円ほどします(参考までに日本でマックフライポテトSサイズは150円)。つまりフライドポテトSサイズ1つでファラフェルサンドが3つ買えます。この圧倒的安さもソウルフードとしての人気の理由と言えるでしょう。
ビスリのフレーバーに採用される理由もなんとなくわかります。
日本の和菓子的スイーツ「ハルヴァ」。しかし人気は……
ハルヴァはゴマのペーストのタヒーニを使って作られたお菓子です。ファラフェル同様に中東地域で広く食べられ、イスラエルを代表する料理としてもよく名前が挙がります。「おやつよりはスイーツ」といった立ち位置で、ホテルのビュッフェのデザートコーナーによくあります。
上品さすら漂う「ハルヴァ」ですが、スーパーではアイスクリームのようなボックスで売られています。持ち歩いたりするものではなく、お皿に盛ってお行儀よく食べるものといった印象。(確か日本の業務スーパーにも売っていたような……)
ハルヴァはイスラエルでは誰もが知っているスイーツですが、いつでもどこでも子供も食べているというわけではないので、食べる頻度で言えば安いファストフードや現代的なスナックに負けてしまうというのが現状のように見えます。立ち位置が日本の和菓子に似ている気がします。
中東? ヨーロッパ? 都会ならではの均一感
食の好みというのは、根本的なところでは人間みんな同じなんじゃないかな? という思いを胸に、どの国でも同じような体験ができるスーパーや映画館で売られているものに注目してみましょう。
映画館といえばやっぱりアレ
例えば映画館の場合。少なくともテルアビブの映画館ではどこでもポップコーンが売られていて、実際に人気です。味は普通の塩です。あえて特徴があるとすれば、キャラメルポップコーンがないところでしょうか。イスラエルにおいても「映画館=ポップコーン」という図式は成り立つのです。
売店にはポップコーンだけでなくコーラや他のスナックも売られています。 こちらの映画館では、イスラエルのポッキーとも言える「キフカフ」が売られていました。バンバほどではありませんが、こちらもイスラエルでよく見るおやつの一つです。
スーパーの「レジ横」に国境はない
イスラエルの最大手スーパーの一つ「ティブタム」の大型店は、週末に買い込みにくる客で賑わいます。レジ横には、電池、髭剃り、スニッカーズ、メントス、ガムなど、どこの国にもありそうな商品が並びます。
ファストフードとしての寿司もしっかり人気
人気というか、テルアビブで寿司は超人気です。ynetニュースの記事によると、「テルアビブの寿司屋の数は日本とニューヨークに次いで世界3位(人口一人当たりに換算した場合)。2008年の段階でテルアビブの寿司屋は100件を超え、内62件は専門店」とあります。
イスラエルでは「日本食の寿司」という認知はもちろんあります。しかしそれよりも「米を使ったファストフード」という側面の方が強い印象です。堅苦しい食べ物ではないので、ルーフトップパーティーのケータリングに寿司が登場することも。
イスラエルに寿司屋や日本食レストランは意外と多く、たとえばマクドナルドより断然多く、テルアビブでは明らかに目立っています。テルアビブきっての名所であるロスチャイルド通りのど真ん中にあるのも「ヤパニカ/Japanika」という寿司チェーンです。
イスラエルの最重要イベントの一つ「建国記念日」の夜には、国旗を携えて愛国心をあらわにしたイスラエル人がカジュアルに寿司をつまむ姿も見受けられます。日本で日の丸を掲げる国家行事の席で、おそらくタコスやハンバーガーは出ないでしょう。欧米的な先進国だなという印象です。
寿司屋はショッピングモールのような商業施設にもほぼ必ずあり、それは「寿司=いまどきのファーストフード揃えてます」のサインのようにも見えます。
映画館ではポップコーン、ひと通りスシも浸透、もはや欧米の先進国とあまり変わらないといった印象です。ショッピングモールにそれっぽい寿司屋があると「ヨーロッパらしい」と思うのは私だけ……?
イスラエル人の味覚の国籍は?
イスラエルの食はそのまま政治問題に直結する根深いテーマです。「イスラエル料理は存在しない」などとも言われるのですが、なぜならイスラエルは移民の国なので、イスラエル料理として紹介される料理のほとんどが移民の母国料理である場合が多いからです。
しかしそれは裏を返せば、かなり柔軟な味覚を持っているとも言えます。テルアビブにしか住んだことがない私が現段階で独断と偏見でイスラエル人の味覚を定義すると、「地中海料理や中東料理に趣がある都会のアメリカ人」となります。
スナック菓子こそイスラエル料理では?
スナックが料理と呼べるかどうかはひとまず置いておいて、「その国で誕生して普及した食べ物は母国料理と呼べる」と私は思います。そう考えると、バンバやビスリは完全にイスラエル料理です。ヨーロッパ仕込みのノウハウが中東の土地で花開いた、国をそのまま体現したような食べ物なわけですから。
上の三枚の写真は、2019年の建国記念日の祝日に同じエリアで撮影したものですが、バンバとビスリを持参しているグループは明らかに多かったです(あえて付け足すならばポテトチップスも等しく人気)。ことバンバに関しては、「国内の家庭の9割がリピーター」というのにも頷ける光景でした。
これだけ人気なら、もうイスラエルの国民食と言っていいと思うのですが、イスラエル料理として注目されるのはいつもフムスやファラフェルなどの中東料理。イスラエル産として売られるパレスチナの食材を見て「きつい」と感じるパレスチナ人も存在します。
しかしバンバをイスラエル産と言って悲観するパレスチナ人はいないと思いますし、イスラエル人も誇らしいでしょうし、何より美味しいです。誰もが楽しめるハッピーな”イスラエル料理”ではないでしょうか。
そんなバンバはすでにアメリカでは売られています。海外進出に関して言えば、2020年3月より、イスラエル(ベングリオン)〜日本(成田)間の定期直行便が運行開始します。イスラエル発のコーシャスナックが日本に上陸する日も遠くないかもしれません。
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編集:ネルソン水嶋
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