日本人のセンスには刺激的!?ハリボーを生んだ国・ドイツが織りなすグミの世界
※本記事は特集『海外のおやつ』、ドイツからお送りします。
ドイツにおやつタイムはなく、しょっちゅう小腹を満たしている?
「ドイツのおやつ」。じつは、う〜んと唸って考え込んでしまいました。お菓子はいろいろあるんです。でも「おやつ」らしいものって、なんだろう?
だって、食べているものを見ていると、チョコレートやケーキだけでなく、ドイツパンにチーズやハムを挟んだサンドイッチやら、リンゴ1個まるごとかぶりつき、ニンジン1本ポリポリ丸かじり……なんてこともあるんです。
私の中では「おやつ」というと3時に食べる甘いもの、といったイメージがありますが、どうもドイツでは「食事時間の合間に小腹がすいたら何かを食べる。しかも、わりとしょっちゅう食べている」というほうがぴったりくるように思います。
私が見る限りでは、ドイツでは朝も夜もパンが中心の簡素な食事で、1日のうちでメインと言われる昼食もパスタなどの簡単なもの。私よりも一回りも大きいドイツ人なのに、食べる量は体の小さい私よりも少ないのではないかと思っています。だから小腹を満たすためのちょい食べで、補っているのかもしれません。
ドイツのお菓子のザ・定番、ハリボー
おなじみのクマ型「グミ」を生み出したのはドイツのハリボー
そんなわけで「おやつ」と言っても、お菓子を食べるとは限りません。しかし、もちろんお菓子自体はあります。
ドイツのお菓子を代表するものとして、グミがあるでしょう。日本でもすっかりおなじみとなったグミで真っ先に名が上がるのがドイツのハリボーという会社。ハンス・リーゲルさんによって、ドイツの街・ボンで1920年に創業されました。Hans(ハンス)・Riegel(リーゲル)さんが、Bonn(ボン)で……だから「ハリボー」という社名なんです。本当ですよ。
1922年には、クマをかたどったグミがこの世に誕生しました。現在も愛されるこの製品、当時は色も形も違いましたが、ハリボー社のクマ型グミは、グミ菓子の代名詞的存在に。子どもたちから「グミ熊ちゃん」と呼ばれています。
この棚はすべてハリボー商品。
どぎつい青に…ボウフラ? 攻めた色形のハリボー社のグミ
クマのグミがあまりにも有名になったハリボー社ですが、クマ以外にもいろいろなグミ商品があり、ラインナップを見ていると、これがけっこう攻めています。もしかしたら私があまりグミファンではないので、そう見えるのかもしれませんが……。
ハリボー社の商品は大きく分けてグミ、黒いラクリッツ、マシュマロ、チューイングキャンディ。中でもグミはラインナップが豊富です。そのせいか、私が理解に苦しむ商品もちらほらと見かけます。
ミミズ型(?)のグミ。なかなか微妙です。(ハリボー社HPより©HARIBO)
たとえばミミズがモチーフらしい”WUMMIS”(ヴミス)。釣り餌じゃないんだし、何もわざわざモチーフにミミズを選ばなくても、と思ってしまいます。ボウフラにも見えなくはない……気がします。
こちらもなかなか。食べ物というよりおもちゃに見えてきます。
こちらはカエル。個人的にはこの形であまり食欲はわかないのですが、ドイツの子どもたちはそうでもないようです。緑色なのに桃とパッションフルーツの味というのもまた謎です。
勝手に「シールド」と呼んでいます。(ハリボー社HPより©HARIBO)
それからBALLA STIXXX(バラ・スティックス)という棒状のグミシリーズ。青い色はブラックベリーで、中身のピンクはラズベリーです。このどぎつい色がなんとも言えません。私にはエレキギターやエレキベースをアンプにつなぐシールドケーブルのようにしか見えないので、勝手に「シールド」と呼んでいます。ちなみに、この商品にはどぎつい赤のストロベリー、微妙な茶色のコーラなどもあります。
こうした色や形に食欲がわくものなのでしょうか。ドイツ人に聞いたところ、答えは「色や形は関係ないのでは?」とのこと。確かに、もともとそういう商品を見ていれば、それが当たり前になるのかもしれません。考えてみれば、日本のお菓子もコアラモチーフなどがありますが、別にコアラを食べている気分にはなりませんからね。
どぎついと思われる色は、すべて果物などから抽出された天然の着色料が用いられているそうです。それならばもっと控えめな色にしそうですが、カラフルな色ほど受けがいいというコメントを新聞で読みました。美意識の違いなのでしょうか。
口に入れても消しゴムとしか思えないラクリッツ
そして何より私が「ムリ!」と叫ぶのは、ラクリッツシリーズです。ラクリッツとはスペインカンゾウという植物の根を使ったお菓子で、見た目は真っ黒。北欧のサルミアッキにも同じ植物が使われています。ハリボー社のラクリッツシリーズの中では、”Schnecken”(シュネッケン)という、真っ黒い渦巻き状の商品が有名です。ちなみにシュネッケとはかたつむりのこと。このセンスも、ヘビやカエルに通じるものがあります。
いちばん左がシュネッケン。かたつむりの意味ですが、パッケージのイラストはなぜか自転車のタイヤ部分がシュネッケン。タイヤの味と食感に近いという暗示なのでしょうか。
ラクリッツは、日本人にはかなり手強い存在です。これを好きだという人は、おそらく日本では少数派でしょう。とにかく味と匂いが食べ物とは思えません。
私がこのお菓子と出合ったのは、ドイツに住んでいた小学校6年生のとき。現地校の友だちが、ある日私にくれたのです。初めて見る真っ黒い渦巻きは、最初はなんなのか見当がつかず「……もしかして消しゴムかな?」と思いました。
どうやらお菓子だとわかり恐る恐るなめたときの、なんとも言えないあの味。漢方薬っぽい甘苦さが口の中にむわ〜ん。見た目だけが消しゴムかと思ったら、噛んでも消しゴムのような食感。どうにも困って、結局ちょっとだけ口をつけた黒い塊は捨てるしかありませんでした。
ラクリッツ人気は北高南低。「ラクリッツ赤道」とは
食べ物の好みというのは、つくづく生まれ育った環境に左右されると思います。定番のクマのグミはまだいいのですが、消しゴムのようなラクリッツはきっとこれからも私には食べられそうにありません。でも好んで食べるドイツ人は普通に見かけます。ドイツだけでなく、北欧でも人気とか。物心つく前から口にしていたら、誰でも食べられるものなのでしょうか。
ただし、ドイツ人がみんなラクリッツを好むわけではありません。ドイツにはマイン川という東西に流れる川があり、そこを境にして南部はラクリッツ嫌い、北部はラクリッツ好きに分かれる傾向があるそうなのです。ラクリッツ人気を二分するこの線は「ラクリッツ赤道」と呼ばれています。
ドイツのWELTという新聞によれば、カッチェス(後述)というメーカーでは、ラクリッツの売上の約80%をマイン川より北部に位置するノルトライン=ヴェストファーレン州とニーダーザクセン州の2州が占めているそうです。ハリボーのラクリッツ商品も、やはり南部のバイエルン州では人気がないとか。
でもなぜそのような傾向があるのかは、メーカー担当者もわからないと答えています。そういえば、私が通っていたドイツの小学校は、ノルトライン=ヴェストファーレン州にありました。
カチェス社のグミはラブリーさで勝負?
ところでグミを製造しているのはハリボー社だけではありません。カッチェス、トローリという会社もあります。
かわいいイメージ戦略?のカッチェス社。
ユニークな商品も交じるハリボー社に比べて、カッチェス社のものはメルヘンチック。色はピンクなどのパステルカラーが中心で、パッケージのイラストも愛らしい猫や馬など。なんだかホッとします。ちなみにベルリンにはカッチェスカフェもあり、普通にケーキやお茶がいただけて、もちろんグミも売っています。
ベルリンにあるカッチェスのカフェ。ここもかわいい内装。
一人当たりのチョコレート消費量第1位のドイツ
グミが人気のドイツですが、それ以上に好きなのではと感じるのがチョコレート。板チョコ、一粒チョコ、チョコがけクッキー、チョコレートケーキなど、お菓子コーナーはチョコレートだらけです。
2015年の国際菓子協会/欧州製菓協会の資料によると、ドイツは一人当たりの年間チョコレート消費量が世界第1位で、その量は11.7kg。ちなみに日本は2.01kgとのことなので、単純計算でドイツは日本の軽く5倍は消費していることになります。そりゃあこれだけチョコレート菓子があるわけです。
ドイツのチョコといえばリッターシュポルト
チョコレートにおいても、ハリボー社と同様に幅広い商品ラインナップが売り物のメーカーがあります。それはリッターシュポルト(リッタースポーツ)。30種類以上の品揃えがあり、スーパーやお店には常にセレクトされた10数種類が並んでいます。リッターシュポルトはスーパーや街の小売店、駅の売店などには必ず売られている定番中の定番チョコレート。日本でも一部のフレーバーが売られているので、ご存じの方もいらっしゃることでしょう。
ベルリンにはフラッグシップストアがあります。全種類がそろうほか、オリジナルチョコレートが作れたり、カフェや展示コーナーもあるため、連日旅行者が押し寄せる観光スポット的存在です。
リッターシュポルト社以外でよくあるのは、チョコレートにヘーゼルナッツ、ウエハースなどが組み合わされている商品。これも子どもたちには大人気で、必ずスーパーで売られています。
現代は時間に追われておやつどころではない?
こう見てくると、パンや果物をよく食べているだけでなく、やっぱりお菓子も大好きなんだなと実感します。当然ながら、お菓子を食べるのは子どもだけではありません。大人もしょっちゅう食べています。
オフィスによってはコーヒータイムを設けていたり、家庭でケーキと共にコーヒーを楽しむ習慣もあります。しかし現代では男女ともに働くようになり、時間に追われて平日におやつの時間をきちんと取ることは少なくなりました。ドイツのオフィスでは多くがフレックスタイム制を採用しているので、みんな少しでも早く帰宅できるようにランチも30分程度で済ませます。おやつ休憩をするくらいなら、その分早く帰りたいと思うでしょう。特に小さな子どもがいる家庭では、なるべく早く子どものお迎えに行きたいものです。
子どもたちは夕方までは保育園や学童で過ごし、そこでは自由に食べたり飲んだりできる場合が多いそうです。周りの親たちを見ていると、家にいるときは子どもがお腹を空かせたら果物やパンなどを与えていて、食べる時間に対してフレキシブルだと感じます。小腹が空いたら食べる。その時間が昼と夜の間なら、それがおやつに相当するのかもしれません。
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編集:ネルソン水嶋
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