チリ文化は”6000年”! メキシコ人が愛してやまないサルサの世界

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※本記事は特集『海外のソウルソース』、メキシコからお送りします。

クリックorタップでメキシコ説明

 

メキシコ=タコスは大間違い、想像以上に奥深いメキシコ料理

ハードシェルのタコスにブリトー。ナチョス、それからチリコンカン。日本でも知られている「メキシコ料理」と呼ばれるものは、実はアメリカ合衆国生まれ、というものが意外に多いのです。

もっともメジャーなメニュー「タコス」を例に挙げると、「タコス」自体はメキシコ料理にあるもののタコベルなどでおなじみの、このようなハードシェルタコスはアメリカで生まれたテックスメックス料理。まずメキシコでお目にかかることはありません。

由緒正しいメキシコ料理は、スペイン征服以前から食べられていた3つの基本食材-トウモロコシ・チレ(トウガラシ)・インゲンマメ-に、ヨーロッパ人が持ち込んだ肉類や野菜が融合し、さらに、植民地時代にメキシコにやってきた修道女たちが凝らした工夫も加わり……と長い年月をかけた食文化の一大フュージョンの結果として生まれた料理と言えるものです。

例えば、独立記念日前後に食べるこちらの「チレ・エン・ノガダ」は皇帝アグスティン1世を歓待するためにプエブラ州の修道女が作った料理がはじまり、と言われています。

 

メキシコ料理の命・チレ(トウガラシ)

さて、そのメキシコ料理3大基本食材の一つ、チレが本日のお話の主役。「メキシコ料理って辛いんでしょ?」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、そのイメージの基となっているチレはメキシコ(実は地理上ではアメリカ合衆国と同じ北米)から中南米にかけてが原産地と言われています。およそ6000年前からメキシコ人はチレを栽培しているようです。

一目でチレだとわかるディスプレイ。ちなみに周りの黒いものもチレです。

それから時代はずっと下って15世紀。コロンブスが新大陸を発見したのが、ヨーロッパ人とチレ、初めての出合いです。まさに「未知との遭遇」だったのではないでしょうか? コロンブスによってポルトガルやスペインに紹介されたチレは、それから宣教師の手によって日本、韓国、そして中国へと伝わったとされます。

つまり! 日本でもなじみ深い韓国のキムチも、四川料理の代表格・麻婆豆腐やエビチリも、チレがメキシコからヨーロッパを経てアジアに伝わらなかったら生まれていなかった料理なんです。メキシコのチレ料理とアジアのトウガラシ料理は地続き。なんだか心理的な距離感がぐっと縮まりませんか?

 

ノーサルサ・ノーライフ

チレ文化の元祖として、実に64種類ものチレが存在するというメキシコですが、ひと口に「チレ」と言っても、その辛さや用法はバラエティに富んでいます。もっともオーソドックスな使用法は「サルサ(ソース)」にすること。こちらでは、とにかくレストランでもフードコートでも屋台でもサルサを置いていない場所はない、と断言できるほど常にその存在を目の当たりにすることができます。

大衆食堂にも、各テーブルにはサルサ(手前の緑色のソース)を常備。塩と並んで必須の調味料。

「メキシコのサルサ」と聞くと、まず思い浮かぶのがこのような赤いトマトや緑のトマトをベースにしたフレッシュサルサでしょう。赤いサルサは意外にも、比較的辛さ控えめが多く、逆に薄黄色のサルサは要注意。日本でもおなじみの激辛「ハバネロ」ベースのサルサです。

こちらの茶色いサルサは「モレ」。かつて日本の某バラエティ番組で「2017年に流行る、日本ほぼ未上陸の各国料理」の第3位に選ばれていた、という話も聞きましたが、2018年現在流行っているそぶりを見せていないのが残念。

チレと同じくメキシコを原産地とするカカオを使っているのが特徴。他には、ゴマやクローブ、クミンにシナモンといった香辛料を加えて作っており、原材料だけ聞くと、どこかインドカレーにも通じる味……かと思いきや、カレーとも全く違い、なんと表現したらいいのかわからない難しい味のサルサです。なじみ深いカレーとは「似て非なる」部分が日本人の間で好き嫌いがはっきりわかれるメキシコ料理の一つとなってしまうゆえんでしょうか。

ちなみにチレベースのソースとしてメジャーな「タバスコ」。名前の由来こそ、メキシコ・タバスコ州ですがこちらはれっきとしたアメリカ合衆国産。メキシコでも売っていることは売っていますが……メキシコ人が使っているのを見たことはありません

 

ジャンクソースと笑うべからず。メキシコ人、心のソースとは

以上が、いわゆる「メキシコ料理」で使われている正統派のサルサ。でもメキシコにはもっとジャンク、だけれども、一家にひと瓶は必ずあるといっても過言ではない。そんな、まさに「ソウルソース」と呼べる瓶詰めサルサがあります。

それがこちらの「バレンティーナ」。

今から半世紀以上前にメキシコはハリスコ州の片田舎のさらに普通の家庭で作られていたレシピがオリジナルだそうですが、今や、メキシコ随一のソウルソースにまで登りつめたソース。辛味だけでなく、酸味も強いソースです。

そのハリスコ州のイラストがラベルに載っていることで、ある小学校では地理の時間にメキシコ合衆国の地図を見せながら「この州は何州でしょう?」との質問したところ、子どもたちが「バレンティーナ州!」と答えたという、「いやそれはちょっと盛りすぎでしょ」と突っ込みたくなるようなエピソードもあるとか。

でも、その万能性を知ると、そのエピソードもまことしやかに聞こえてくるはずです。バレンティーナといえば、ポテトチップスやポップコーンのようなスナック菓子にかけて食べるという使い方が最もポピュラーではあります。が、スティック野菜やフルーツにかけてよし。インスタントラーメンやスープにいれてよし。魚介類のサラダに入れてもよし。

サラダバーのドレッシングコーナーにも、バレンティーナ。

何に使っても「バレンティーナ味」になるほどのパンチのきいた味ですが、それゆえに、ある種麻薬的な魅力があるのかもしれません。とくにメキシコ人は、ポテトチップスにこのバレンティーナをたっぷりかけるのがお好み。

もはや、オリジナルがなんだったのかわからないくらい、バシャバシャにバレンティーナをかけられてしまったポテトチップス。

せっかくのパリっとした歯ごたえを、あえてしっとりさせるその感覚も、一度味わうと病みつきになるのでしょう。

美味しいわよ! ちょっと味見してみる? と笑顔のオバサマ。

一体これのなににかけるというのか、というラインナップの駄菓子屋さんにもバレンティーナの瓶が。

さすがに、グミやチョコレートにはなあ……という、あくまでも日本人の味覚を持つ筆者は、無難に(?)バナナチップスへ投入。

日本ではAmazonなどの通販サイトからも購入可能ですので、気になる方はぜひ1度お試しください

 

コーラと一緒に常備すれば、洗剤いらず?

さて、このバレンティーナソース、さらに意外な利用法があるとのこと。それがズバリ「金属のサビ・黒ずみとり」。2013年、チワワ州シウダーフアレスでは、街の100体におよぶ銅像をバレンティーナソースで磨いたそうです

「さすがにそこまでの数なら普通に洗剤で綺麗にすればいいじゃないか……」というご指摘はさておき、ご家庭でも黒ずんでしまったブレスレットやネックレスといったアクセサリー類やお鍋にシンク、それから古いコインなどにバレンティーナソースを塗ってしばらく置いておくと、綺麗に復活するそうです。

というわけで、実際に試してみました。

日本のお財布に眠っていた、黒ずんだ10円玉で試してみます。

このようにバレンティーナソースをたっぷりかけて、

5分ほど置いておいたところ……確かに、綺麗になりました!

余談ですが、バレンティーナソースのかかったコインを真顔で撮影している母親に、うしろから4歳の娘が「……ママ?」とおそるおそる声をかけてきたのが印象的でした。

この効果はソースの原材料に食用酢や酢酸などが含まれているからと考えられますが、これは「コーラでトイレがぴかぴかになる!」という裏技にも通じる何かを感じます。

そう、コーラといえば、メキシコはコーラの消費量が世界一(そして肥満率も世界一レベル)。バレンティーナソースと並んでメキシコ人家庭の必需品であるコーラですので「せっかく掃除をしようと思ったのに洗剤をきらしてるわ」という時でも大丈夫。常備品であるバレンティーナソース&コーラで、いつでも思い立った時に掃除ができる……かもしれません。

 

メキシコのサルサ、お好みに合わせてお使いください!

筆者がうら若きころ、職場の先輩から聞いた「メキシコの食べ物はなんでも辛いからなー。1年滞在したら完全に痔になったよ」というエピソードのインパクトはとても強く、初めてメキシコに遊びに来る前には「ボラ〇ノール買っておいた方がいいかな」と思ったほどです。

が、実はフレッシュサルサもバレンティーナソースも、調理自体に使うことはなく、あくまでも「個人の好み」で量や辛さの調節ができるソース。「メキシコは行ってみたいけれど、辛いのが苦手」という方でも大丈夫! ぜひぜひ一度、お越しくださいね。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

Mariposa Torres

Mariposa Torres

2010年のメキシコシティ移住と同時にライター活動を開始。メキシコ現地日本語フリーペーパーの編集長を経て、現在は会社員とライターの二足のわらじ生活を送っています。サボテンやテキーラ、はたまた麻薬抗争……といったメキシコのステレオタイプなイメージをぶち壊すために草の根運動中。メキシコ生活を楽しむための情報ブログもやってます。めひこぐらしの手帖@mexicogurashi

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