醤油? 民間療法? オリーブオイルをドバドバ使うイタリア人、意外な用途とその信頼。
※本記事は特集『海外のソウルソース』、イタリアからお送りします。
イタリア料理ならなんでもイケる! 醤油的ポジションのオリーブオイル
ーーイタリア人のソウルソースについて書いてください。そんなお題を編集長からもらった時「そんなものあったかな?」と首をかしげてしまいました。チーズやトマトはよく使われるけどどちらかといえば食材だし、日本の醤油のように「いろんなものにかけて美味しい」というポジションとは違う気がする……。
そんなことを考えながらキッチンの戸棚をのぞいてみたら、1本のビンが目に止まりました。それは、オリーブオイル。
「いやいや、それソースじゃないし」と思わず口にした皆様。お気持ちはよくわかります。私もイタリアに住む前までは、オイルは揚げものと炒めものに使うという認識でした。でもここであえて断言してしまいますが、イタリア人にとって「オリーブオイル」は「ソース」なんです!
事実、イタリアではありとあらゆる料理にオリーブオイルをかけます。パスタやリゾットなどの定番料理はもちろん、肉や魚などのメイン料理やスープ、ピザなど本当になんでも。使う頻度も高いので、食卓の上には塩や胡椒に加え、必ずと言っていいほどオリーブオイルが用意されています。
できあがった料理にオイルをかけることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、実際にやってみるとオリーブの風味が加わってとても豊かな味になるので、ぜひお試しあれ。パニーノ(サンドイッチ)が少しパサパサしている時に加えて、ジューシーさを出すなんてのもよくやる使い方です。
また、お腹が空いてなにもないときはオリーブオイルに少し塩を入れてパンにつけるという食べ方もあります。いいオイルでやると本当に止まらなくなるくらい美味しいのですが、イタリア人にとっては少し貧乏くさく映る食べ方のようで、レストランなどではあまり見かけません。そういう意味では、日本における「醤油ごはん」みたいなものなのかもしれませんね。
オリーブオイルは産地によって味が変わる?
イタリア人の食卓には欠かせないオリーブオイルですが、実は、産地によって味に傾向があることをご存知でしょうか? イタリアのオリーブオイルの産地はシチリアやプーリアなど南部、トスカーナやウンブリアなど中部、リグーリアのある北部の3つに分けられます。
それぞれの場所と味の傾向をざっくりとまとめると以下のような感じです。
- 南部のオイル(プーリア州、カラブリア州、シチリア州など)
オリーブのフルーティな香りが強く、口に含むとピリッとした辛さを感じる。風味が強いオイルが多いので、肉料理や煮込み料理など味のはっきりした料理に合わせると美味しい。
- 北部のオイル(リグーリア州など)
香りのクセは少なく、苦味や辛味も少ない。荒々しさがなくマイルドな風味のオイルが多いので、魚料理やサラダなどに合わせると美味しい。
- 中部のオイル(トスカーナ州やウンブリア州など)
フルーティな香りが強いが、苦味や辛味は南部に比べると少ない傾向にある。北部と南部の中間の味といった印象。
オリーブオイルに辛味? と疑問に思った人もいるかもしれませんが、南イタリアのオイルには本当にあるんです。なめた瞬間に舌をピリッと指す、唐辛子のような辛味。もちろんこれは品質に問題があるわけではなく、抗酸化成分であるオレオカンタールによるもの。イタリアではこの辛味が強いほど健康にいいオイルとされています。
ここで紹介したオイルの風味は一般的な傾向であって、必ずしもこの産地だからこの味になるというわけではありません。ただ、購入する前にオリーブオイルのビンに表記されている産地を確認すれば、どんな味かをなんとなく想像できます。
どうして地域によって、こんなに味が変わるのでしょうか?
その理由については情報が少ないため確たることが言えないのですが、おそらくはオリーブの品種と生育環境によるところが大きいと個人的には考えています。オリーブオイルとは、オリーブの実を砕いて絞ったもの。原則、それ以外の加工は加えません。そのため、オイルの風味はオリーブの品種や質、搾油方法に大きく左右されます。
例えば一口にオレンジジュースと言っても、一般的なバレンシアオレンジを絞ったものと、マンダリンオレンジ(みかんのことです)を絞ったものとでは味が違うと考えると想像しやすいでしょう。オリーブオイルもそれと同じで、絞るオリーブの品種や実自体の質・熟度によって味が異なるのです。
イタリアには500を超える品種のオリーブがあると言われており、おそらく気候や土壌によって主流となっているオリーブの品種は異なってくる。そのため、生産される地域によって風味に傾向が表れるのだと思います。
田舎では自家製オリーブオイルも。搾りたては格別の美味しさ
イタリアでは田舎に行くと自宅の敷地内でオリーブを育てている人も多く、収穫時期である11月頃になると地域のフラントイオ(搾油所)に持っていき、自家製オリーブオイルを絞っているなんて光景に出くわすこともあります。
自宅でオリーブオイルを収穫して絞ると最初に聞いた時はとてもびっくりしましたが、よくよく考えると庭で家庭菜園をしているような感覚なのかもしれません。私も一度、友人の実家で絞ったオリーブオイルをいただいたことがありますが、青臭さと花のような華やかさが混じったような独特のクセがとても芳しく、市販のオイルよりもはるかに美味しかった記憶があります。
二日酔いやいびき予防、喉の調子が悪い時……イタリアのソウルソースは万能薬!?
以前、友人とこんな会話をしたことがありました。
ケイはお酒飲むの?
うーん、飲むのは好きなんだけどね。そんなに強くないから2杯も飲んだら酔っ払うよ
そうなの、だったらオリーブオイル飲んでおきなよ
イタリア語を聞き間違えたかなと思わず心配になりましたが、どうもそうではないらしい。よく話を聞いてみると、飲む前に大さじ1杯程度のオイルを飲むことで胃の中に膜ができ、二日酔いを防止する効果があるんだとか。自分はお酒に弱すぎてその効果を実感できませんでしたが、イタリアではわりと知られた二日酔い防止方法なのだそうです。
また、喉の調子が悪い時にスプーン1杯飲むというのもよく知られた民間療法のひとつ。喉の奥で転がすように飲むことで保湿の効果があるんだとか。これは実際にやってみると喉のイガイガした感じが軽くなるのでおすすめ。のどが痛い時にハチミツを舐めるようなものと考えると抵抗なくいけると思います(ハチミツは殺菌作用で喉をケアするので、厳密には効果が異なりますが)。
このほか、寝る前にスプーン1杯飲むといびきを防止できるとか、やけどをした時に患部に塗るといいとか、真偽は不明ですがオリーブオイルには民間療法が数多くあり聞くたびに驚かされます。
料理に使うだけでなく、こんなふうに民間薬としてもたびたび登場するのは、それだけイタリア人の生活の中に浸透しているからなのかも。調味料としても薬としても万能のオリーブオイル、ふだんと違う使い方にチャレンジしてみはいかがでしょう?
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編集:ネルソン水嶋
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