雨が降ったら揚げパン食べるし、「シエスタ最高」とベッドに飛び込むアルゼンチン人

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※本記事は特集『海外の雨季』、アルゼンチンからお送りします。

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アルゼンチンでは雨が降ったら揚げパンを食べる

こんにちは、奥川です。隣で揚げパンを嬉しそうに持っている美人は、そう僕の嫁です。今回のテーマは「雨の日」ですが、アルゼンチン人が雨の日に何をするのかなんて見当もつきません。というわけで、いつも通り嫁に助けを求めました。

奥川

アルゼンチン人って雨の日に何するの?

嫁

私たちの住むネウケン州は雨降らないし、別に降っても特別なことしないわよ。質問がざっくりしすぎてよく分からないわ。日本人は何か特別なことするの?

奥川

う~ん、言われてみれば思いつかないなあ。あっ、雨が止むようにテルテル坊主っていう人形を窓から吊るすよ! おまじないみたいなもん。画像見せてあげる、ほらっ

©Nesnad

嫁

こわいこわいこわいこわい。何それ、こわっ。首つってるように見えるんだけど。アルゼンチンでは特にないわね。う~ん、トルタ・フリータを食べるけど、それじゃあ面白味ないでしょ

奥川

何それ、面白いじゃん!!

トルタ・フリータとは揚げパンのこと。そう、アルゼンチンでは雨が降ったら揚げパンを食べるのです。2ちゃんねる発の「台風が来たらコロッケを食べる」という習慣と少し似てますよね。思い返してみると、車の修理工場で働いていたときも、雨が降ったら皆でマテ茶を飲みながらトルタ・フリータを食べたものです。

トルタ・フリータそのものの由来はハッキリとは判明していませんが、ドイツからきた説が有力。アルゼンチンは移民国家で、とりわけスペインとイタリアをルーツに持つひとが多いですが、ドイツからの移民もいます。嫁の曽祖父がそうでした。

ドイツにはカーニバルでよく食べられる「クレッペル」という揚げドーナツがあり、それがトルタ・フリータとして食べられるようになったそう。アルゼンチン国内のメルセデス市では、1999年から毎年「トルタ・フリータ祭り」が開催されているようです。

ドイツの定番的なクレッペル。中はジャム入り、粉砂糖がまぶされている。

トルタ・フリータを作る義母。こねくり回して、形を整えます。

トルタ・フリータは小麦粉、塩、そして水があれば作れます。僕は作ったことないんですが、小麦粉に塩を混ぜて、水を少しずつ加えながらこねくり回し、油の中に入れれば完成。簡単でしょ? ぜひ作ってみてください。

雨の日にトルタ・フリータが食べられるようになった理由は、ガウチョ(アルゼンチン版カウボーイ)を始めとする昔の人々が、雨水でトルタ・フリータを作っていたからだそう。また、昔の人々の多くは外で働いており、雨が降ったら仕事にならないので、家の中でマテ茶とトルタ・フリータを食べていたのかもしれませんね。

高温の油でカラッと揚げれば完成です。

もともとは雨水を使用することから、トルタ・フリータは「雨の匂いを感じるパン」と表現されることもあったそうです。現在は普通の水で作られるので、残念ながら雨の匂いを感じることはできません。

スーパーやパン屋でも販売されていますが、基本的にはお母さんたちの手作りというイメージ。シンプルなレシピですが、作り手によって微妙に味が変わります。「ママのトルタ・フリータが一番」という人が多いことから、アルゼンチン人にとってトルタ・フリータは「おふくろの味」なのかもしれません

黄金のトルタ・フリータの完成。作り手によって味や形が微妙に変わります。

少し塩気のあるサクサクとしたパンは、老若男女大好きな味。そのまま食べても美味しいですが、オススメは国民的おやつドゥルセ・デ・レチェ(液体キャラメル)を塗って食べること。

トルタ・フリータ+ドゥルセ・デ・レチェ+マテ茶=雨の日の定番セット。アルゼンチン人は本当にドゥルセ・デ・レチェが大好き! お土産にもピッタリです。

程よく甘じょっぱくなり、いくらでも食べられます。マテ茶を飲みながらトルタ・フリータを食べる、これがアルゼンチン人の伝統的な雨の日の過ごし方です。

 

雨が降らないゆえに対策不十分、アルゼンチンの発展を支えたダムとは?

アルゼンチンの国土面積は約280万㎢(日本の約7.5倍)。その広大な国の中には様々な気候を持つ地域が存在しています。北東部はよく雨が降り、中央のブエノスアイレスは暖かく比較的湿度が高い、アンデス山脈付近のパタゴニア地方は乾燥地帯なのです。

僕の住むネウケン州はパタゴニアの一帯で、ほとんど雨が降りません。2017年ネウケン州の年間降雨量は186.3㎜、最も降水量の多かった月が3月の26.7㎜。2017年東京の年間降雨量が1430㎜なのでその1/7以下と考えると、どれだけ乾燥地帯なのか分かりますよね。

雨の日の風景。奥に一人だけ傘をさしている人が見えます。

雨がほとんど降らないので、傘を持つ人はほとんどいません。代わりに、雨の日はフード付きのパーカーやジャケットを着て外出する人が多いです。特に防水性と保温性を兼ね備えた、コロンビアやパタゴニアなどのアウトドアメーカーのジャケットが人気。

数年前に大雨が降ったときの風景。数日間、道路に大量の水が残るという事態に。

また、雨が降らないがために、ふだんからの対策も不十分。雨が降った後、数日間は道路に水たまりが残ります。ある日、一晩中雨が降り続けたことがあり、雨漏りは当然のこと、庭から雨が流れ込んで家中が水浸しになったのです。原因は、庭に排水口がなかったため。大家に聞くと、「こんなに雨が降るとは思わなかった」となんともアルゼンチンらしい回答が返ってきました。

現地の人々が休日に訪れるチョコン・ダム。お目当ては国内最大級の人工湖。

雨がほとんど降らない地域ですが、チョコン・ダムのおかげで水不足で困ることはありません。アルゼンチンで2番目に大きな水力発電所で、各州に水と電気を供給しています。そのエネルギー量は100万世帯以上の家庭に供給できると言われるほど。

ネウケンに住む人々が、チョコン・ダムのすごさを表現するときに言うセリフがこちらです。

「チョコン・ダムが決壊したら、ネウケン州に住む多くの人々は死ぬだろうな。15分後には、80㎞先にあるダムから大量の水が押し寄せてくるぞ」

具体的な数値は分からなかったのですが、とにかく信じられない量の水があるようです。

海ではありません。チョコン・ダムにある巨大な人工湖です。

パタゴニア一帯に住む人々にとって、チョコン・ダムはある種の誇りなのかもしれません。義父はこんな話をしてくれました。

義父

チョコン・ダムはパタゴニア、いやアルゼンチンの発展を支えたんだよ。ネウケン州では昔から石油が採掘されているんだ。採掘の仕事は給料も良いから、多くの人がネウケンに来ようとしたが、一つ問題があった

奥川

問題??

義父

リマイ川とネウケン川の水位が増していたんだ。つまり、雨が降ると洪水の可能性があったのさ。実際に大洪水も起きてるんだよ

奥川

だからダムを作ったんだ! 確かにダムの役割は水資源の確保と発電だけじゃないもんね。なるほど~、もともとは川の水量調整目的で建設されたんだ

義父

そうさ。これで洪水の心配はなくなった。さらにダムのおかげで、水と電気も安定して得られるってわけだ。こうなれば、多くの人々がネウケン州に移住するのは当然だろ。すると家を建てなくちゃいけないから、建設業が盛んになる、人口が増えたから店も増えた。エネルギーも順調に採掘できて、国の発展を手助けた。もとをたどればぜんぶチョコン・ダムのおかげだ

人々がチョコンを誇りに思っている理由は、ダムだけではなく、世界最大級の肉食恐竜の化石も発見されているから。小さな町ですが、歴史的にも文化的にも重要な町なのです。発見者はチョコン・ダムで働いていたんですよ。下記の記事で詳しく書いているので、ぜひ読んでみてください。

https://traveloco.jp/kaigaizine/animal-argentina

 

真っ青な空に雨雲が現れれば、「昼寝日和だ」と叫ぶアルゼンチン人

カサ・ブランカ(スペイン語で白の家)と夏空。秋になると、空の青みがさらに濃くなります。

僕が初めてネウケンの地を踏んだとき、真っ先に思ったのが空が驚くほど青いということ。移住生活3年目となる今でも、その美しい青空には魅了されます。調べてみると、どうやら空の青さは湿度と関係しているようです。

日本でも秋空は青く美しいですよね。それは秋の空気は乾燥しているから。同じく理屈で、雨が降らないネウケンの空気は年中乾燥しており青いのです。日本でも有数の乾燥地帯・東京の2017年平均湿度は約68%、対してネウケンの平均湿度は約52%なのです。

そんな青空が雨雲に覆われ、雨が降ったとき、ネウケンの人々は喜びます。さすがに土砂降りの日は外出しませんが、小雨程度なら雨を楽しむために散歩する方は多いです

中南米らしい綺麗なグリーンの家。ピンクやブルーの家もあるので、中南米旅行中は建築物にも注目してみてください。

僕が園芸店で働いていた時は、雨が降ると同僚たちは喜んでいました。理由は、雨が降ると花々が綺麗になるから。年中強い風が吹くため、パタゴニアの植物は土ぼこりをかぶっており、それが雨で綺麗に流れ落ちるということですね。同僚は「ブエノスアイレスの花々は本当に美しい」とよく言っていたので、訪れた際には自然にも注目してみてください。

また、建設業を営む義父は、雨の日は完全休日にするそう。足元が滑って危ないというのが建前で、雨の日は仕事する気にならないのが本音らしいです。他の建設会社で働く友人も雨の日は働きません。僕が車工場で働いていたとき、隣で家を建てていたのですが、そこのボスがよく「アルゼンチンには4つの休みがある。土日、祝日、バケーション、そして雨の日だ」と言っていたのを思い出しました。もちろん室内の仕事は休みになりませんよ。

嫁が大喜びする典型的な空の風景。

そして、雨が降ると大喜びするのが僕の嫁。移住したての頃は、嫁とこんな会話をしました。

嫁

雨の匂いがするわ……見て、あの雨雲! 今日雨が降るわ!

奥川

なんでそんなに興奮しているんだよ。雨降ってもいいことないじゃん

嫁

ああ、何も分かってない! 雨音を聴きながらのシエスタは最高なのよ。ザーザーと降る雨、潤って少し冷たくなる空気、いつもより暗い室内、ふわふわのベッド。これ以上の贅沢ってある? ないわよ!

雨の日のシエスタが最高だというのは、彼女だけではありません。友人も雨の日はたっぷり昼寝すると言うのです。初めは彼女の言っている意味が分かりませんでしたが、3年も住むと分かります。雨の日のシエスタは最高だと。

https://traveloco.jp/kaigaizine/siesta-argentina

アルゼンチン人のシエスタの重要性について書いた記事はこちら。

 

おや、どうやら雲行きがいい感じになってきました。嫁が嬉しそうに「昼寝するぞー!」と言っているので、シエスタって来ます。雨音は最高の子守歌なのかもしれません。もちろん昼寝の後は、みんなでトルタ・フリータを食べます。トルタ・フリータはお店でも販売されているので、アルゼンチンに訪れた際はぜひ食べてみてください。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

奥川 駿平

奥川 駿平

1992年生まれ、福岡県古賀市育ち。アルゼンチン在住歴3年。美人アルゼンチン人嫁と結婚するために、新卒という大きすぎるブランドを捨ててアルゼンチンに移住。毎日マテ茶を飲むほどのマテ茶好きで、同世代で最もマテ茶を消費していると自称。今さらながら、Twitterにドはまりしています。

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