中国の正月が「IT」と「富裕化」で超進化? 爆竹アプリや出前シェフなどの新商品も

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※本記事は特集『海外の年越し』、中国・上海からお送りします。

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新暦1月1日は中国でふつうの日、正月の本番は1月下旬~2月中旬

中国のお正月「春節」は旧暦の1月1日。2017年は1月28日で、2018年は2月16日と、1月下旬から2月中旬までの間でまちまちです。私たちが普段使っている新暦は太陽の周りを回る周期を基準にしていることに対し、旧暦は月の満ち欠けを基準にしているためにズレが生じ、さらにその年によって異なります。

春節についてはこのあとで紹介するとして、新暦の12月31日から1月1日(つまり日本でいうお正月)にかけてはどのように過ごしているのか少々気になり、周りの中国人にアンケートを取ってみることに。質問は、「去年の12月31日から1月1日をどのように過ごしましたか?」。

なんと、12人中11人が特別なことをしていなかった。内訳は、9人が「いつもと同じ」との回答。そして2人は「忘れた」、カウントダウンイベント的なことをした人数は大学生の1名のみ。しかも「なんでそんなことを聞くのか?」というきょとん顔率高し。それぞれの知人にも聞いてもらっても結果はほぼ変わらず。12月後半にさしかかる時期からそわそわ、バタバタと忙しくなる自分からすると、驚くとともにちょっとうらやましい気もします。

 

旧暦のお正月・春節がメイン! 派手に

結局のところ、中国のお正月は春節がメインで、大いに盛り上がる日は旧暦の1月1日なのです。

その前日、大晦日の夜は親戚一同が集まって、視聴率80%を超えたこともあるというお化けテレビ番組の「春節聯歓晩会」を見ながら、それぞれのおうちで数日間かけて作ったご馳走をいただきます。「春節聯歓晩会」とは大晦日の夜8時に始まり年が明けるまで、歌や踊り、京劇、コントなどが5時間以上にわたって繰り広げられる、言うなれば中国版紅白歌合戦です。

「春節聯歓晩会」の一幕。人でつくった「福」の文字がすごい。どういう仕組みなんだろう。これをやろうと思ったきっかけも不思議ですが、実際にそれをやってしまう実行力、類まれなる身体能力と筋力は、さすが雑技の中国。

そして日付が変わるころには、街のそこらじゅうで花火が上がり、至るところで爆竹が鳴り響きます。爆竹は大晦日から夜中まで春節当日の朝方まで断続的に続き、鳴りやむことがなく、その後も1週間くらいは所々で鳴らされています。下手にそのあたりをうろうろしていると飛んだ破片が当たってケガをすることもざらにあります。

爆竹は、漢の時代より、春節には山魈(シャンシャオ、(猿の)マンドリルという意味もある)と呼ばれる怪物が山から下りてくるという言い伝えがあり、それを追い払う目的で鳴らされていました。しかし、明清のころから神を迎えるという目的も含み、春節のみならず祝日や結婚式、誕生日などでも鳴らされるようになりました。

元旦は、街はめでたいとされる赤色を中心に装飾され、獅子舞が踊り、さらに爆竹が鳴り響く。中国の春節はとにかく派手に盛り上がるのです。赤色は、火、血、太陽など人間にとって大事なものの象徴であったり、高貴な色だったりと由来は諸説ありありますが、中国人は本当に赤が好き。お年玉も「紅包(ホンバオ)」といい、紅い袋に入れられます。余談ですが、あのユニクロのショッピングバッグ(通常は白)もこの期間は真っ赤なものに変わるんですよ。

しかし、そんな伝統的なお正月は昔話!? 近年はお正月の過ごし方もかなり変わってきているようです。

 

上海は今が過渡期? 裕福化と合理化が進む新・正月スタイル

かつては1週間も前から準備をしていたというお正月料理。正月料理を作り始めると通常の食事まで手が回らず、春節前は随分と淋しい食卓だったなんて話も。しかし、経済的に成熟してきたここ数年では、シェフを自宅に呼んで多くの料理を手早く作ってもらったり、ホテルのレストランで個室を借りて親戚が集まったりと、その様子も変わってきています。

通販サイト国内最大手の「タオバオ」なら、好みのシェフをスマホで簡単に検索して予約することまで出来てしまいます。検索から予約、支払いまで5分もあれば完了。

シェフが身体ひとつで来てくれるタイプ、材料などすべて持ってきてくれるタイプなどいろいろ選べます。予算、品数、希望日を選んで申し込めば、指定の日に来て作ってくれますが、もちろん春節前は混み合うため、早めに手配しないといけません。価格はまちまちですが、シェフのレンタルのみで1時間70元(約1150円)や、料理代も込みで1200元(約20000円)などの内容を見つけることができました。

 

爆竹もデジタル化! ニーズに応えて生まれた「電子爆竹」「爆竹アプリ」

爆竹は中国の都市部ではどんどん禁止になっています。上海は2年前から外環線内(市中心部)で禁止になり、北京では中心部に加えて来年から郊外でも禁止になるそうです。これは春節だけでなく、お祝い事などの際もすべて。花火や爆竹の使用はもちろん、販売や貯蔵もダメ。火災と大気汚染の防止が主たる理由であることからも分かるように、禁止前は毎年春節には火災が発生し、大気汚染物質のPM2.5の数値も大幅に上昇していました。

終わった後はゴミがいっぱい。

外環線外(市郊外)では禁止されていないので、どうしてもやりたいという人は1時間以上かけてわざわざ郊外へ出かけることもあるようです。しかし、郊外であっても、その年のPM2.5の数値によっては急遽禁止されることも。このような条例が出来たことにより、爆竹が鳴り響く従来の伝統的な年越し風景を見ることができなくなりました。そこで登場したものが「電子爆竹」。

こちらもタオバオでさくっと購入可能。お値段は32.5元~45元(約540円~740円)。この商品はイルミネーションの有無と長さによって価格が変わるようです。見た目は本物の爆竹とそっくりで、スイッチを入れると、LEDライトがキラキラと光りながら爆竹の電子音が鳴ります。これが爆竹の代わりになれば環境問題、火災や破片によるケガの危険が解消しつつ、盛り上がりも維持できる……はず。

届いた。

鳴らしてみたが、何かが違う。爆竹に慣れ親しんでいない日本人の私でも、何かが違う感は否めない。妙に冷めた気持ちになる理由は部屋で一人で鳴らしたからだろうか。実際、間近で鳴っている爆竹を見たことはないのですが、きっとこれじゃない。やっぱり煙も大事なのではないだろうか、というのは完全に個人の感想であります……。案の定、あまり流行っていないようで、上海に住んでいながら「聞いたことない」「本物とは違って盛り上がらない」とのこと。せっかく発明されたのに……。

と、春節では人気がない電子爆竹ではありますが、最近結婚式に参加した友人に聞いたところ、「新郎新婦入場の際に使われていた」とのこと。慶事ではやっぱり爆竹の音がほしいという方もいるようで、それなりに需要はあるのかも。よかった。

そして、なんと最近は爆竹アプリなるものもあると聞き、さっそく検索。

おぉ、ずらりと出てきた。ダウンロード数が一番多いもので2万。あまりピンとこないものの、中国の人口は13億人なので、単純計算すると日本でいえば10分の1にして2000くらい。少ない気がする。だがしかし、2万人が使っている(かどうかはわからないが)事実はあるので、私もダウンロードしてみました。中国のアプリは基本的に無料なので、気軽にダウンロードできるのがうれしい。

まず一番人気のアプリ。なんと絵柄から選べるようになっており、爆竹のみならず花火や鐘の音もあります。

こちらはアプリを起動するとただちに音が鳴り、数秒間アプリを止めることも落とすこともできないため、うっかり電車の中などで起動してしまうとあわあわすることになります。同時にいくつもの音色を発することができるため、スピーカーをつなげばなんとか使えそう。いや、たぶん使わないけど。ただ、こんな形の爆竹はこんな音がするという思わぬ勉強になったのでした。

せっかくなので別の爆竹アプリもダウンロード。中国でのダウンロード数370人ということは日本で言えば37人! そんな人気のないアプリでしたが、やってみるとなかなか悪くない。先ほどのものとは違い再生ボタンがあるため、自由自在に音が出せます。さらに保存ができるため長い時間に編集する際は便利そう。たぶん編集しないけど。

 

伝統・文化そして発展の狭間で中国は今模索中?

現在発展著しく、数年どころか数ヶ月単位で景色ががらりと変わっていることもめずらしくない中国。そんなスピード感もまた魅力です。電子爆竹や爆竹アプリに関しても、使い勝手や実際に使う人がいるかはさておき、とりあえず作ってしまう。細かいことは後から調整すればいいじゃないか、ダメならやり直せばいいじゃないか。そんな「とりあえずやってみる精神」は中国を発展させた理由のひとつではないでしょうか。

時代の移り変わりの中で、「春節聯歓晩会」も、かつては視聴率80%ともいわれたお化け番組として名を馳せたものの昨年の視聴率は33%。周りの友人に話を聞いたところ、親世代や祖父母の世代は好んで見ているが「自分は(春節聯歓晩会を)見てるなんて恥ずかしくて友達には言えない」「漫才コーナーの時だけ見る」など、若い世代にはあまり人気がないようでした。

一方で、やはり伝統的なお正月を過ごしたいという層は一定数おり、上海郊外まで出かけて爆竹を鳴らしたり、正月料理を自分で作る人も。「爆竹はうるさくて嫌いだけど、伝統的なお正月の風景がなくなってしまうのはそれはそれで寂しい」と言う若い人の意見もありました。

どんどん消え行く昔ながらの風景。

中国は、発展を喜びつつも、伝統はやはり失いたくない。その狭間で戸惑っているようにも思えます。爆竹はかつて一度禁止になってまた復活したという経緯があり、今後もそうなる可能性は否めませんが、環境問題に力を入れている現在、発破時にPM2.5を排出する爆竹が近年中に復活することはなさそう。今は人気がない爆竹アプリや電子爆竹が大流行することだってありえるかもしれません。1年後の予想もつかない中国のお正月、個人的には伝統が失われるのは寂しいとは感じますが、外部のものがとやかく言うのもおかしいでしょう。

ただ、今も昔も共通する点は「たくさんの人が集まる」ということ。中国人はビジネスでもプライベートでも、人とのつながりを大切にします。見る番組が変わっても、食事を作る人が変わっても、たくさんの親戚や友人が集まってわいわいと食事をすることには変わりありません。長く続いた一人っ子政策の影響もあって家族の人数は減ってしまっていますが、その分いとこを兄弟姉妹のように慕っているという話も何人かの友人から聞きました。

大勢で楽しむという要の部分は残しつつも、変化する伝統行事の中に中国の勢いを見て、違った角度から「中国のお正月=春節」を楽むのもいいのではないかと思うのです。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

海辺 暁子

海辺 暁子

2016年より上海在住。日本にいるときから典型的なO型と言われ続けてきましたが、こちらにきてさらにO型っぷりに磨きがかかりました。色々なことが自由なので体重も順調に増してます。中国の家庭料理「宮保鶏丁」が好きすぎて、大量に作って冷蔵庫にストックするのが幸せ。

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