ロンジーはデブの味方だ!普段着から一張羅までゆったり寄り添うミャンマーの民族衣装

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※本記事は特集『海外の民族衣装』、ミャンマーからお送りします。

クリックorタップでミャンマー説明

 

デブに優しい民族衣装ロンジー

わたしはぽっちゃりです。正確に言えば、元ぽっちゃりの今デブです。2006年にベトナムへ移住し、2014年にはミャンマーへ移動。その間、着々と増量に成功してきました。

思えば、ベトナム時代にあつらえたベトナムの民族衣装アオザイはからだの線に沿ったデザインで、年々サイズの変わる私は毎年新調を余儀なくされました。しかし、ミャンマーへ越してきて初年度に仕立てた民族衣装ロンジーはウェストの調節が容易で、6年たった今も私のからだに寄り添ってくれています。

そう、ミャンマーのロンジーは、デブに優しい民族衣装なのです

結婚式にて。花嫁の友人たちはお揃いのロンジーでブライドメイドを務める

 

ミャンマー人はぽっちゃり好き

ミャンマーではボリュームのあるスタイルが好まれます。もちろんこのボリュームとは、デブを指すのではありません。ぽっちゃり程度です。かつてミャンマーで人気があった日本の女優が松阪慶子だったといえばイメージがわくでしょうか。

こちらはミャンマーで人気ナンバーワンを誇る女優、イーモンシュエ。ミャンマー人が好むぽっちゃり度を示す好例です。

イーモンシュエの隣は、こちらも人気俳優のネイトー。男性もぽっちゃりがいいらしい

ぽっちゃりでも、女性の場合は胸やお尻がむっちりしているのが重要で、特に大きなお尻がきゅっと上がっていることに価値を置きます。下着店には尻パットなるものも売っており、街では時に、人体としてありえないほど尻パットで大きく突き出したお尻を、左右にフリフリしながら歩いているご婦人を見かけます。美の基準の民族による違いについて、深く思索にふけってしまう光景です。

胸パットならぬ尻パット

こうしたミャンマー人にとっての美ボディを存分に強調してくれるのが、民族衣装ロンジーです。

 

ロンジーってこんな衣装

ロンジーとひとくくりにしていますが、男女ともに民族衣装全般を指します。

細かく言えば、男女ともトップスがインジー、ボトムである腰巻は女性用がタメイン、男性用がパッソーです。男性用インジーは正装なら白、普段着としてはスタンドカラーのシャツやワイシャツなどが多く、通勤ぐらいならカラーのシャツも可。肉体労働系だとTシャツやランニングシャツになります。パッソーも柄が限られ、幾何学模様以外のものはまず見ません。

ロンジー率の多さが際立つ通勤風景。男性用は色味が地味で模様もワンパターン

それに対し女性用はバラエティ豊か。ほとんどの場合がタメインと同じ生地か、タメインの模様からチョイスした一色と同じ色の生地でインジーを仕立てます。スーパーなどでは、タメイン用の生地とインジー用の生地を1着分ずつ、セットにして売っています。

スーパーのセット売りロンジー。タメインに合う生地を探さずに済み便利。

 

腰巻がほどけるほど恥ずかしいことはない

ボトムの着方も男女で異なります。

タメイン、パッソーともに腰に巻いて余った布を男性は前で結び目を作り、女性は脇に挟みます。ちなみに「男性が前に作る結び目は自身のナニを象徴するので、みんな大きく立派に結ぼうとする」という噂がありますが、真偽のほどは定かではありません。なお、ロンジーを落とすことは非常に恥ずべきこととされ、男女ともにあちこちで結び(女性の場合は挟み)なおしている姿を頻繁に見かけます。

男性ロンジーの結び目。噂の真相を男性訊く勇気、未だなし

以前、日本のお笑い芸人がミャンマーでコントをした際、ミャンマー人に受けると思いロンジーを何度も落とすオチを披露したところ、笑いどころか場が冷え切ってしまったことがあります。さほどロンジーを落とすというのは、ミャンマー人には笑えない事態なのです。

近年になって女性用タメインは、一見ふつうのロンジーなのに実はヒモで結べるようになっていたり、ジッパーやホックを使ってスカート仕立てになっているものが増えています。これならめったなことでほどけません。男性用もそうすればいいのに、なぜか男どもはいつも人前で結びなおしています。「ロンジーを結びなおす俺、セクシー」とでも思っているのでしょうか。

左がホックのついたスカートタイプ、右は紐付き

 

ロンジーはザ・正装

冒頭、ミャンマー人は日常的にロンジーを着ていると書きましたが、街のロンジー着用率がとみに高くなるのは平日のラッシュアワーです。これは、職場や学校といった公の場へはロンジーで行くべし、という共通認識があるため。パゴダへの参拝もロンジーが基本です。

シュエダゴンパゴダでは、最新ロンジーファッションを堪能できる

とりわけ、ミャンマーにおける仏教信仰の総本山シュエダゴンパゴダを参拝する際は、みんな気合を入れて一張羅でやってきます。なのでここの境内で定期的にロンジーを定点観測すると、流行の変遷がわかるほど。逆に休日の市場などにはゆったりしたワンピースや、Tシャツ&パンツの女性が目に付きます。

正装ですから、学校の制服も基本的にロンジーです。学校は先生、生徒ともに下が緑のロンジー、上は白ならデザインは自由。小学校低学年では、上下の色だけ守っていれば、パンツ&シャツやワンピースでも許されています。

学校の下校時間。緑と白の組み合わせの生徒たちが続々と校門から吐き出される

制服といえば役所では、上が白のインジーなら、下はどんな色や模様のロンジーでもOK。そのため、役所が集中する首都ネーピードーの衣料品市場には白インジーを売る店がずらりと並び壮観です。

これほど白インジーにバリエーションがあるとは。ネーピードーの市場にて

 

民族や地方で異なる特徴

ロンジーの興味深い点は、民族や地方ごとに特有の模様やデザインがあること。たとえば、これはミャンマー北部に住むカチン族のロンジー。リズミカルに並ぶ菱形模様が女性に人気です。

こちらは西部のラカイン族ロンジー。

南部のモン族は細かいチェック柄。

ステッチのような模様が入ったこちらは、マグウェ地方にあるビルマ族の町ガンゴウのロンジー。

かつては他民族のロンジーを着ること、特にビルマ族が山岳少数民族の模様とわかるロンジーをまとうことはまずありませんでしたが、ここ10年ほどで女性たちは、デザインが気に入れば民族を気にせず着るようになったそうです。ビルマ女性のお洒落心が山岳民族に対する差別意識に勝ったとみるのは、私がうがち過ぎでしょうか。

それに呼応するように、少数民族のロンジーも伝統的な色や模様にとらわれない斬新なデザインやカラフルな色合いのものがどんどん出てきて、いまや「○○族のロンジー」という意識ではなく、「水玉模様」や「花模様」くらいの感覚で布を選んでいるように思います

ロンジーショッピングは女性の大きな楽しみのひとつ

 

進化し続けるデザイン

民族衣装には流行がないと思われている方も多いのではないでしょうか。でもロンジーは日常的に着るだけあり、流行り廃りがあります。日本人みんなが着物を着ていた江戸時代に、着物の柄やデザインに流行があったのと同じです。

たとえば、現在のロンジーは体にフィットしたデザインで、裾の長いものが主流。しかし30年ほど前はくるぶしあたりまでの丈がはやっていたため、今でも中年女性には短めで着ている人がいます。歩きやすいからと、ある日私がその着方をしたら、ミャンマー人の友人たちに「ダサイ」と笑われてしまいました。

ちなみに昨年大流行したのは、地模様に水玉を織り込んだ渋めの色合いの無地布でした。

こちらは最新流行。伸縮性に富む光沢のある生地に、中東風のエスニックな柄が入ったタイプ

 

イデオロギーの表明にも利用

ロンジーが政治的に利用されることもあります。

現在、ミャンマーにおける事実上の国家元首であるアウンサンスーチーは、カチン族やチン族といった少数民族のロンジーをよく着ます。もちろんお洒落目的もあるでしょうが、少数民族との融和をアピールする目的が大きいのではないでしょうか

また、彼女率いる国民民主連盟(NLD)の支持者は、生成りのインジー(トップス)を好んで着ます。生成りは都会的で華やかなロンジー生地と対極的な質素イメージで、地方の農民たちとの一体感を表現していると考えられます。

NLD本部の売店では、生成りインジーを多数販売

そういえば軍政時代、NLDの支持者たちが秘密裏に政治的集会を開く際は、前もって仲間内で着てくるロンジーの柄や色を決めておき、集会に紛れ込もうとする公安をあぶりだすのに利用していたことがあるときいたことがあります。

 

ロンジーは生き残れるのか?

ヤンゴン市内で、ロンジーを取り扱う卸売店が最も多く集うショッピングセンターのひとつがユザナプラザです。

店舗情報は末尾にて

2014年にヤンゴンへ移住して以来たびたび買い物に訪れていますが、取り扱い商品をロンジーから、中国・タイ製の安価な洋服へと転換する店が年々増えていると感じます。日本人サラリーマンがふだんはカジュアルな服装をしていても通勤や正装時は背広というように、いずれミャンマーのロンジーも、仕事や通学だけのアイテムへと変化していくのでしょうか。

今後のさらなる増量を見込んでいる私のためにも、デブにやさしい民族衣装には生き残っていってもらいたいと、切に願っています。

 

YUZANA PLAZA

住所:Yuzana Plaza, Banyar Dala Road, Mingala Taungnyunt Township,Yangon
電話:01-200801
営業時間:9:00~18:00、月曜休
地図:https://goo.gl/maps/8a1js88WW6WzreyGA

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

板坂 真季

板坂 真季

ガイドブックや雑誌、書籍、現地日本語情報誌などの制作にかかわってウン十年の編集ライター&取材コーディネーター。西アフリカ、中国、ベトナムと流れ流れて、2014年1月よりヤンゴン在住。エンゲル係数は恐ろしく高いが服は破れていても平気。主な実績:『るるぶ』(ミャンマー、ベトナム)、『最強アジア暮らし』、『現地在住日本人ライターが案内するはじめてのミャンマー』など。Facebookはこちら

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