『独島の主張』はもはや文化? 韓国の過熱ぶりから今見直す竹島問題

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日韓が領有権を争うあの「島」とは?

韓国は外国人に対してとても親切な国です。とくに道端で外国人観光客が困っていようものなら声をかけてくれる人も多く、それは歴史・政治的に論争の絶えない日本人だからといって例外ではありません。私自身、地方への旅の途中に話しかけられ、そのまま食事に招かれた経験もあるほどです。

しかし、特に食堂や居酒屋で見知らぬ中年男性と会話をしていると、話が弾んで来たときに突然ある質問を投げかけられることがあります。「独島(トクト)はどこの国のものなんだ?」と。そのときはいつも、どう答えてよいのだろうかと思うのです。しかし、決して喧嘩を売られているわけではなく、単にそれは「日本人の意見を聞きたい」というものでしょう(結論ありき、かもしれませんが)。

©Rachouette(出典元

日本海(※韓国では東海(동해、トンヘ)と呼ぶ)に浮かぶ竹島。日本では島根県隠岐郡隠岐の島町に属し、隠岐島からは北西に約158㎞離れた海上にあります。一方、韓国では同じ島が「独島(독도、トクト)」と呼ばれ、鬱陵島からだと東南約88キロのところに位置しており、日韓両国が領有権を主張している島として知られています。

現在は韓国が実効支配を行っており、慶尚北道鬱陵郡に属しています。形を見ても本来は人が住むような島ではありませんが、政府から支援金が支給され住んでいる人もいます(2018年10月、居住者が病死したことにより一時的に住民はいない状態ですが、志願者も多いようなのですぐに元の状態に戻るでしょう)。

地下鉄の駅にも「独島」の模型が設置されている

この記事は、竹島(韓国名:独島)がどちらの領土であるかを検証するものではありません。

日本海上に浮かぶ「竹島(独島)」に対して韓国人はどのように考えているのか、ニュースで取り上げられているように韓国人が独島に関心を持ち、過熱しているように見える理由は何なのかを、少しばかり紐解いてみたいと思うのです。

 

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まずは、どうして現在の状況が出来上がったのか、その歴史について振り返ってみましょう。

 

竹島と独島、その論争とは?

戦後における竹島の歴史的経緯

1945年、日本が太平洋戦争に敗戦すると、連合国軍による占領期を経て、1951年9月に締結されたサンフランシスコ講和条約により日本は主権を回復します(発効は1952年4月)。

その条約のなかでは日本が放棄すべき領土として「済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮」とされており、この問題の渦中にある竹島の名前は含まれていませんでした(しかし現在、日本がそういったことを主張すれば、韓国側は「他の三千余の島嶼も同様に明示されていない」と反論するという状況です)。

そして講和条約が発効する直前にあたる1952年1月、韓国初代大統領李承晩は大統領令として「李承晩ライン」を制定。両国に国交がない状況下で、日本海に線を引いて独島(竹島)を韓国領とし、以降はこのラインを侵犯した日本漁船の拿捕、船員の拘束を行ってきました。

1952年に韓国側が一方的に定めたとされる李承晩ライン

その後1965年に日韓基本条約で国交の回復を果たしますが、竹島の領有権問題を先送りしたため韓国による実効支配は現在までずっと続いた状態です。また、その際に日韓漁業協定の締結に伴って李承晩ラインは無効化。いったんは落ち着きます。

そして1998年には、新日韓漁業協定により、両国が領有権を主張する島はないものとして線を引くとともに、暫定水域を定め、その水域内ではそれぞれが自国のルール内に基づいて漁業を行う場所になっています

さらにそのうえで、互いに相手国のEEZ(排他的経済水域)に入って漁業を行ってもよいよう、毎年漁獲量などの取り決めを行います。しかしここ数年は交渉が上手くいかず、ルール上では現在、相手国のEEZ内での操業はできない状態です。

そんななか日本のEEZ内に韓国漁船が入ってきて、違法操業で拿捕されるケースが目立っています。これは日本の漁場のほうが良質だと考えられているため。現状では日本漁船が韓国側のEEZに入るメリットはあまり大きくないようです。もちろん過去には日本漁船が韓国側に拿捕されたことが、一度もないわけではないのですが……。

 

古地図や文献による竹島の論争の要点

韓国側は古地図に描かれている「于山島(우산도、ウサンド)」という島や、近代においては「石島(석도、ソクト)」という島が「独島(日本名:竹島)」だと主張。これに対して日本側は「于山島は鬱陵島であるか、もしくは実在しない」、「石島は鬱陵島付近の観音島」として反論。また日本は古くから鬱陵島への航海の目じるしとなる島としており、日本の古地図では「松島」として記されていたことを主張していますが、韓国側は「1905年に竹島を島根県が編入した際に当時の大韓帝国に通知されなかった」と反論しています。

論争について詳しく知りたい方は、両国の外務省が発表する情報をご覧ください。

「竹島問題の概要」(日本外務省)
「独島」(韓国外交部) ※日本語

現在はというと、日本は韓国に国際司法裁判所での解決を求めていますが、韓国側は「領土問題は存在しない」と応じていません。ちなみに日本は中国との尖閣諸島問題については韓国と同様の立場をとっています。と、現状についてはこのようなところです。それでは、この領土問題が韓国国民の生活にどのように影響しているのか。そちらをご紹介したいと思います。

 

領土の根拠はメロディで覚える? 学校でも歌う「独島はわが領土」

日韓両国の政府は竹島、独島についてそれぞれ領有権を主張していますが、日本では韓国に比べると竹島に対する関心が低い傾向にあります。その理由を多くの人は「生活に関係ないから」と答えるでしょう。

しかし、韓国の友人や知人と話してみると彼らはそうは答えません。韓国では大半の人が「独島は絶対にわが領土(독도는 무조건 우리땅)」と答えるほど。これが決まり文句のようになっており、もはやそれ以外の発言は許されない風潮があります。

実際に「独島はわが領土(독도는 우리땅、トクトヌン ウリタン)」という歌もあるほどで、その歌詞は小学校の教科書にも採用されているようです


「独島はわが領土」という歌には、子供向けの映像もある。

この曲の歌詞では独島の位置や、韓国側が主張する独島が領土である根拠が含まれており、それらを歌を歌うことによって覚えられるようになっています。当初の歌詞は(竹島とはまた別に)「対馬(対馬島、대마도、テマド)は日本の土地」とされていますが、後発曲では「対馬は知らないが、独島は韓国の土地」、そしてついには「対馬は朝鮮の土地」というものまで生まれています。時代に伴って、歌詞の中の領土も変化しているのです。

韓国人の友人(20代女性)に歌えるかどうか聞いてみたところ、「私は歌えないけど、学校で童謡みたいに歌う曲」とのこと。領土の根拠は歌として覚えているようでした。また、ソウル駅前で若者たちが振付をしてダンスをする映像もあります。


韓国才能寄付財団による「独島はわが領土(독도는 우리땅)」のパフォーマンス

「どちらの国のものであるか」という事実や論証はさておき、日本では沿海に浮かぶ特定の島に対してこれほどまで熱意を注ぎ込む人はそれほど多くないように思います。一方、韓国では政府による教育やメディアの報道が影響していることは誰の目にも明らかですが、実際に「独島」に対して関心が高いことも事実です。

ちなみに若者における政治の関心についても韓国は日本に比べて高い、といわれます。2013年(平成25年)に行われた日本の内閣府「平成25年度我が国と諸外国の若者の意識に関する調査報告書」では、「政治に関心がある」と答えた割合は、韓国は61.5%、日本は50.1%です。実際に韓国ではデモのように直接行動を伴う場面もしばしば目にするので、これは確かだといえるでしょう。

2016年の朴槿恵前大統領の退陣を求めるデモのときは、100万人が光化門広場に集まったとされ、世界的に報道されました。しかし実際のデモの会場では一部の人が警察に連行されたとはいえ、怒り狂ったように見える人はほとんどおらず、ろうそくを持って歌を歌ったり、寸劇を行う人がいたりするなど、メッセージやその思いとは対照的に、お祭りのように和やかなムードでした。

朴槿恵大統領退陣要求デモの様子

韓国人自身が自国民の性格を「歌を歌ったり、踊りを踊ったりする民族性」と語ることもあるのですが、そうした性質が政治的主張やデモの場でも現れるのではないかと思います。

 

駅やバスターミナルに置かれている独島の模型や、独島体験館。

韓国政府は「独島」について、教育への組み込み以外に、どのような広報活動を行っているのでしょうか? ソウルの玄関口、ソウル駅から徒歩約10分のところにあるビルの地下には独島体験館(東北アジア歴史財団による運営)があり、実際に出かけてみることにしました。

入口の写真

訪れたその日は平日。5~6歳に見える子どもたちが先生の引率で見学をしつつ、説明を聞いています。展示室で案内員の方が「韓国最古の歴史書は?」と尋ねると、子どもたちはおぼろげながらに「サム・グッ・サ・ギ(三国史記、삼국사기)」と答えており、事前学習をしてきたのだろうとはいえ、幼稚園児や小学校低学年にも教えているのか、と驚きました。

この展示館の目玉のひとつは、4D映像館。「どちらの国の方ですか?」と尋ねられ、「日本人です」と答えたものの職員の方は特に表情が変わることもなく、「韓国語と英語どちらがよいでしょうか?」と聞かれたので韓国語を選びました。4Dメガネをかけて約10分の映像を実際に見てみると、当初の予想とは裏腹に政治的な主張は一切なく、その中身は「独島」周辺の地形や海洋資源について伝えるのみ。

この映像を見るや、「美しい場所だから行ってみたくなった」というのが一番の感想。「東海(日本海)」に浮かぶ美しい島で、様々な魚たちが生息し、海鳥が訪れ、海中にはサンゴ礁があって、海洋資源に富んだ島であることがわかります。その後も展示室をじっくり見ていましたが、職員の方は丁寧にも親切に日本語のパンフレットを手渡してくれました。

独島体験館にある「独島」の模型

展示室内では、数々の歴史書や文献で「独島」の名前が挙げられていることや、客観的に「独島が韓国領」である理由をパネルで説明するとともに、別の展示室には島の大きな模型が置かれ、「独島」周辺の環境がパネル展示されています。

入口のLEDに「独島は歴史的にも、地理的にも、国際法的観点においても大韓民国固有の領土です」と表示されている以外は、領有権を主張する日本に対して否定的な文言は一切なく、日本人としては安心して観覧することができました。

取材協力:独島体験館(HP)

 

街中で見かける「独島は韓国の領土」という主張

歌や展示館、そのほかにも韓国国内では至るところで「独島は韓国の領土」という主張を見かけることができます。ときにはかなり意外な場所にも。そちらをご覧に入れたいと思います。

空港鉄道の車内や地下鉄の駅で

韓国の仁川国際空港に着き、ソウルに向かう途中に空港鉄道に乗ると、ニュースや様々なお知らせが表示されるなかで、独島が韓国領である根拠を含んだ映像が流れることがあります。

空港鉄道の車内映像でも「独島」を広報

絆創膏や薬包紙などの小物にも

あるとき私が指に怪我をして血が止まらず、薬局に駆け込んだところ、とっさに出してくれた絆創膏には「独島が韓国領土である根拠」が書かれていました。

絆創膏の箱の裏側にも「独島がわが領土である根拠」が書かれている


上記のツイートは日系ホテルのウォーターサーバーで、水飲み用の薬包紙として使われていたもの。私も実際に見たことがあります。韓国の担当者が意図的に仕入れた可能性がないとは言えませんが、とくに何も意識せずに置かれたものではないかと思います。

お店の看板にも独島!?

韓国の刺身店や水産業者には「独島水産」「独島刺身」という名前のお店があります。

独島を冠した刺身店の看板

さきほどの薬包紙もそうですが、日本人が見ると「これも愛国心の象徴では?」「こんなところで領有権の主張をしているの?」と考えてしまいがちです。実際、韓国の人たちはどのように考えているのでしょうか。

―看板はどんな印象?

特に意識したことはないが、遠く離れた海、きれいな海で獲れた魚、というイメージが湧く。もちろんオーナーがどう思っているかは知らないけれど。(40代女性)

独島は元々韓国の島だし、こういう看板は特に気にしたことはないです。そもそも「領土問題」という言葉自体がおかしいと思うんです、当然韓国の島なのだから。(20代女性)

ちなみに前述の歌の1番の歌詞は「誰が自分たちの島と言い張っても、独島はわが領土」となっています。学校でそういう教育がされていることもあり、韓国では何がなんでも「独島はわが領土(독도는 우리땅)」であって、それ以外の答えは基本的に存在しないのです

韓国の1000ウォンショップ、ダイソー(다이소)では、「韓国伝統シリーズ」として観光土産品が取り揃えられているのですが、なんとその中にも独島(DOKDO)と書かれたペンやポストイット、タンブラーなど多彩な商品が販売されています(韓国のダイソーは、日本から一部投資を受けているものの、韓国独自で運営している企業だとされています)

1000ウォンショップの独島関連商品

これ自体は観光客向けではありますが、こういった独島関連商品は、外国人の目から見れば「韓国人の愛国心を煽って購買意欲を掻き立てるビジネスではないか?」と思う方もいるかもしれません。しかし、実際にそういう考えが全くないとはいえませんが、ほとんどの韓国人は特に意識してはいないように思います。このような商品についてどう感じるか、実際に尋ねてみました。

―独島関連商品についてどう思う?

韓国の立場からすると「独島が韓国の島」ということを、学生から社会人に至るまでに浸透させるため、いろんな方法を使うんだと思う。自分は韓国の島だと充分わかっているから買わないけれども。(30代男性)

こういう商品は良いと思う。私は買わないけれど。独島は韓国の領土である、ということを世界に知らせることができるから。(20代女性)

とにかく「独島は韓国の領土」であることを韓国国民だけでなく、世界的な共通認識にしようという考えから、このような商品が生まれている、といえます。

 

独島を主張する行為は、もはや韓国の文化。そして対馬は?

どちらの領土かどうかは別として、このように「独島はわが領土」の歌が生まれたり、独島を訪問するツアーが販売されていたり、「独島」を主張を入れたグッズが存在することからは、「独島の主張」がもはや韓国の文化のひとつとして定着しているといっても過言ではないのでしょうか。「独島はわが領土」という言葉が書いてあっても特に意識すらしていない人が多いようです。

「対馬はわが領土(대마도는 우리땅!)」と書かれた横断幕(2012年3月撮影)

現在「対馬は日本の領土」という認識は間違いありませんが、「古地図では対馬は朝鮮の土地」「日本が独島の領有権を主張するなら、韓国も対馬の領有権を主張しよう」という考えも一部にはあるようで、駅前に垂れ幕が掲げられているのを実際にみたことがあります。先述の歌詞の変化も、まさしくこれと同じことです。このようなこともあり、竹島問題が仮に解決を迎えたとしても日韓の領土問題は終焉を迎えるのか、というと私は疑問を感じるのです。

ただひとつ言うならば、韓国では愛国心を持つように教育されていることもあり、領土問題はもちろん、政治や歴史問題に対して国民的な関心が高い事柄だということが感じられます。「日本も同じようにすべき」とまでは思いませんが、隣国との温度差を知っておくことは必要ではないかと思うのです

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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