『サードウェイブを知りたいカフェの旅』第三回(最終回):珈琲の時間を考える

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前回までのあらすじ&サードウェイブ本場の地へ

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日本のサードウェイブの流行に疑問を抱き、「本場を見てみたい」と思ってはじめたカフェ巡りの旅。「人が集まる箱」としてのカフェを観察する中で、バンクーバーでお金のない人からお代を取らない形を目の当たりにし、ニューヨークではスタンド式で持ち帰りが基本の店舗スタイルが大半を占めることに驚嘆。

その場所や生活スタイルによって変化するカフェ店舗。全体の一部に過ぎませんが、たった2つの都市でも雰囲気や利用方法が大きく異なることを実感する日々でした。

そして、最後の行き先はポートランド。なぜなら、雑誌でもウェブでも、日本のサードウェイブ特集といえばこの街だから。すでに私の頭の中は予備知識でいっぱいです。なぜここで珈琲文化が根付き、特集されてきたのか? 自分の目で確かめる日がやってきました。

まずはシアトルへプロペラ機で移動、ポートランドへの長旅が始まります。

前夜入りのためニューヨークの空港泊から始まり、早朝ポートランドへと向かいます。シアトルを経由したあと、鉄道で向かうルートです。しかし、さっそく電車が3時間以上の遅延という想定外。荷物も重く身動きが取れず、ネットもなければ近くにカフェもない、お腹を空かせながらただただホームで待つばかり……。不安になります。ようやく乗車し、車内食堂で食事を口にしたときは心の底から「おいし~っ!」という言葉が出ました。

車内食堂の様子。

チキンシーザーサラダを食べてやっと心はほっとした

ポートランドに到着した頃はすでに暗く、宿に着く時間は真っ暗に。予定では夕方前だったのに……。私の旅はなぜこうも遅延がお決まりなのか。

宿の近くのスーパーで見たポップコーンのサイズが衝撃的。

余談ですが、到着後に「せめて少しはなにか見たい」とスーパー視察。そこで見たのが上記のポップコーン、デカすぎです。これを購入する人はいるのかと思いながら帰宅すると、宿泊先の夫婦(民泊でした)が食べていて更に衝撃。旅の合間に見るアメリカンサイズは想像をはるかに超えており、カフェの珈琲を飲み切ることが出来るのかと戦々恐々。

さて、そんな心配がありながらも、いよいよ明日からサードウェイブ発祥の地でそのルーツを自分の目で確かめる時がやってきました。カフェ文化はその街の風土が反映されるもの。どんな光景を目の当たりにできるでしょうか。

 

フリーパスで巡るポートランド6日間の旅

ポートランドの滞在日数は6日間。毎朝8時にバスの一日乗車券を買って、朝から晩まで「カフェで過ごす」と「移動」の繰り返し。その中で、『サードウェイブ』を軸に、本などで得た知識と実在するカフェという空間が、ひとつひとつつながっていきました。

サードウェイブの本場と日本のカフェの共通点

本場のカフェは、実際のところ日本と多くの共通点が見られるものでした。朝8時頃に訪れると既に、パソコンで作業する人やミーティングをする人など多くのお客さんで賑わっている。まるで日本の風景のようです。

空間は広く、コンクリートで囲われたシンプルなカフェ

また、珈琲の味わいの表現方法も似ています。「オレンジのような酸味」といった日本で見かけるものと同様の比喩で味わいを表現、それは1店舗だけでなく他の店舗でも見かけられます。ここに、日本のサードウェイブのカフェ文化が確かにヒントを得ていると実感できました

雰囲気に至っても、空間の大きさやテーブルの配置などその形はまさに日本と同じ。客層も、平日の朝は20代以上の利用客が多く、店内を利用する人と持ち帰る人もふくめてカフェの出入りが頻繁に。休日でも朝から賑わっていて、ニューヨークのカフェと同様に、日本では比較的珍しい男性グループの利用を多くみかけました。

日本では、「落ち着いた雰囲気の喫茶店」と「明るい雰囲気のカフェ」の2種類が存在し、その空間が生む雰囲気がそのまま客層に影響していると思います。しかし欧米ではカフェというひとつの空間しかない、だから、このようなバラエティにつながっているのかもしれません。

唯一、日本との大きな違いは、Myカップの利用率の高さです。持ち帰る人だけでなく、店内を利用する人も同様に利用していました。

日本の珈琲は「説明しすぎ」?

カフェのみならず、スーパーで売られる珈琲にもハッキリとした違いを感じました。

日本では珈琲の賞味期限が残り数か月になっても売られていますが、それだと劣化が進んで酸味が増え、ベストな状態で飲めるものではありません。一方、ポートランドでは焙煎後半年以内のものしか売られず、小売店の姿勢にも珈琲への造詣の深さを感じられます。

奥まで続く珈琲コーナー。品揃えの充実さは日本以上という印象。

また、商品について詳しく書かれたPOPはなく、表記はシンプルに値段のみ。日本ではサードウェイブの影響もあって味わいについて書かれてあることが多いのですが、これを見るに、むしろ私たちの国では、「珈琲という本来シンプルな飲み物が販売業者によってどんどん複雑化してしまっているのではないか」と思わずにいられませんでした

ラテ系を中心にブラックコーヒーなど容器は瓶の形態の物が多く取り揃えてあった。

また、豆のみでなく、珈琲飲料も豊富に売られていたことも衝撃でした。ポートランドは、カフェ、その2軒先にもカフェ、その周辺にも小中大のカフェ・カフェ・カフェ……カフェで街が溢れています。にも関わらず、100円ほど安いとはいえ、珈琲飲料にも需要があるのかと。

これはあくまでも私の想像に過ぎませんが、ひょっとすると日本のコンビニコーヒーと同じ位置づけなのかなと。100円で気軽に飲めるコンビニコーヒー。忙しなく動く日本の社会人の需要は今も衰えることはありません。コンビニが少なかったこの街で手軽に素早く購入できるコーヒーとなると、小売店のコーヒー需要というのもまだまだ高いのかもしれません。

カフェはカフェ、BarはBar、分けられたお店の役割。

日本は「カフェごはん」というカテゴリがあるように、夜になるとお酒を提供したり、長い時間営業しているカフェが多いように感じます。しかし、ポートランドでは基本的に7時~19時という営業時間が多く、19時以降はレストランやBarへ移動する。

お店同士の存在意義や利用価値が明確に分かれることによって、双方が必要とされそれぞれの時間で人が集まる、良い関係性が築かれているのではないかと思いました。

昼間は、珈琲を飲みながら勉強をする学生が多くいた。

「あったらいいな」が存在する、コインランドリー×カフェ。

個人的に、この街で最も訪れたかった場所。それがコインランドリーと一体になったカフェです。私も大学時代はコインランドリーを使用していましたが、ちょっと汚く、古びた場所で、それほどポジティブなイメージもありません。

しかし、ポートランドにあるそのカフェでは、洗濯が終わるまでの待ち時間はすぐ横のカフェを利用できる。「日々の生活の流れの中で珈琲を飲む場所がある」ということに魅力を感じました。

外観からもお洒落さを感じるコインランドリー×カフェ

店内は、カフェはもちろん、映画が映され、Wi-Fiもあり、自由に過ごせる空間。

コインランドリーの支払いはクレジットカードにも対応

ポートランドに別れを告げてスターバックス発祥の地へ

短すぎる6日間の滞在。心残りはありますが次の街シアトルへ向かいます。引き続き鉄道で向かうため、駅でポートランド最後の珈琲を飲みながら出発の時を待つ。本場ならではのサードウェイブの受け取り方に、複雑に考えず、珈琲を純粋に楽しむことが大切だと改めて思いました。

 

最先端を行くシアトル

シアトルといえば、世界中で愛されるスターバックス発祥の地。目的はそれひとつしか決めていません。今回予約した宿はとてもいいエリアにあったのですが、中心地へつながる坂道が3週間分の荷物を持つ私にとって過酷でした。ここシアトルでもバスを利用し、街中を巡ります。

ここはスターバックスのロースター店舗。この大きな焙煎機で一日中焙煎されています。

スターバックスと言えば昨年、環境への配慮から、プラスチックストローから紙のストローやストローなしで飲める新しいカップを導入。街中どこのスタバでも冷たい飲み物を飲んでいるお客さんは新しいカップに変化しています。このグローバル企業が導入することで、世界中のカフェも変化が始まるのか。今後が気になります。

スターバックスから個人店舗まで街中に溢れるカフェ

ポートランドの街中もカフェで溢れていましたが、シアトルも負けていません。もちろんスターバックスも多いのですが、個人経営の小さなカフェもひしめいています。それらふくめてひと際賑わいをみせていたのが、スターバックス1号店。ここは今も昔と変わらないロゴを使用し、店内はカウンターのみ。ただここは普段使いというより、観光スポットとして残されている印象を受けました。

外まで行列が一日中続く、スターバックス1号店。

ロゴも昔のまま。観光地ということもあり、店の前では弾き語りの男性が。

接客とは何か

シアトルのカフェで気になったといえば、カフェのスタッフの「無愛想な接客」だ。注文するときも、受け取るときも、彼らは笑わないし愛想もない。当初そこに、おもてなしが美徳の日本人としては違和感を抱かずにはいられなかったが、時間が経つにつれその違和感は果たして合ってるかと思うようになった。スタッフとの無言の壁は一見冷たくも感じるが、「珈琲は本物だ」という彼の主張と事実が確かに存在している。そういえば、日本の職人と呼ばれる人にも私は同じような印象を持っている。そう考えると、本当に良い接客とは何だろうか。

接客に正解はない。しかし、改めて考え直すよいきっかけにもなった。

愛想のない店舗はここだけではない。それは他の店舗でもみかけた。

 

カフェ文化からみる珈琲の時間とは

バンクーバー、ニューヨーク、ポートランド、シアトル。全4都市を、カフェ巡りをテーマに約1ヵ月の旅をしてきました。最初は単純に日本のサードウェイブはどのような影響を受けて取り入れられたのか知りたいだけでしたが、フタを開けば、場所ごとに異なるカフェ文化、珈琲を通じた老若男女に開かれた憩いの場の目撃など、想像以上に驚きの連続。私自身のこれまでの「珈琲人生」も振り返りながら、珈琲の時間と向き合う大切な時間となりました。

居心地の良さや人の雰囲気、味わいなど、私たちが普段から何気なく使うカフェという空間が醸し出す雰囲気は、淹れる人ももちろんいますが、一朝一夕で出来上がったものではなく、長い時間をかけてその街と一緒に創り出された空間であると改めて思いました

昼時のシアトルのカフェ。チェーン店に限らず、個人店も賑わっています。

4都市を巡って思ったことは、やはり日本の珈琲を取り巻く環境は年々複雑化しているということです。シンプルに珈琲を飲むという行為から、飲むことにも頭をフル回転させるような空間が増えすぎたように感じました。

サードウェイブを導入したカフェが格段に増えたことは、珈琲がより私たちの生活に身近になり、味わいの変化に気づくきっかけとはなりましたが、しかし日本の市場と大きくかけ離れたものが先走って流行してしまったように思いました。日本人は普段からお茶や水、ジュースなど様々な嗜好品を飲みます。珈琲もそのひとつでしかなく、居心地のよい空間であるため心がけることは、日常の中にある一杯の珈琲をいかに大切にするかということだと思います。その一杯を通して、さりげなく寄り添うような空間を守っていくことがまず大事なのではないでしょうか。

私も引き続き、珈琲とカフェを愛する一人として、サードウェイブもふくめて、世界中の珈琲文化を学び、そして伝えていきたいと思います。

フランス文化が混在しているベトナムで創り出されるカフェ文化。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

泉野 かおり

泉野 かおり

岐阜県出身。コーヒーを通じてつくる空間が好き。その思いから、日本各国、世界各国コーヒーの旅に出る。コーヒー屋さんを通じて見える現地の暮らし、コーヒーの旅から見える新たな空間と私たちのコーヒーとは何か、日々問いながら、いつか最高の空間を作り上げることを目標にしている。instagram / cocotrading vietnam

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