居酒屋で、カフェで、コンビニより便利!スペインの暮らしに根付くバル文化

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※本記事は特集『海外の居酒屋』、スペインからお送りします。

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バルなくしては語れないスペインの暮らし

日本でも最近耳にすることが多くなった「バル」。日本ではおしゃれでカジュアルにお酒とごはんを楽しめる居酒屋という印象が大きいですよね。

でも本場スペインでは、朝のコーヒーを飲んだり、お昼ご飯を食べたり、家に帰る前に一杯飲みに行ったりと、飲食店としての使い方はもちろん。サッカー観戦をしたり、タバコを買ったり、缶ジュースを1本買うついでにトイレを貸してもらったりと、いろんな場面で人々が訪れるお店、それがバルなんです。

これだけ使い方が色々あるので、バルに行くことが生活の一部になっているという人もスペインにはたくさんいます。ときにはプリペイド式のスマホにお金をチャージできたりするなど、コンビニよりも便利なバルも多いのです

事実コンビニより断然多く、ヨーロッパ全土にバルと呼べる、もしくは似た形式の飲食店がありますが、国民の人口に対するバルの数は世界で一番とも言われています。スペインには「全ての角にバルがある」という表現があるほど、そこらじゅうにあり、道の両側にずらっとバルが並んでいるということも少なくないので、体感的にはこの表現よりも多いような気がします。

2016年時点でのスペインの平均年収は、男性が約270万円、女性は約200万円と、物価に対して高い国ではありませんが、外食に使うお金は惜しまない人が多い印象です出典)。

飲んで食べること、そして人とおしゃべりするのが好きな国民性によって、スペインのバル文化は発展を遂げてきました。

 

カフェテリア+居酒屋=バル

陽気で昼からお酒を飲むイメージを持たれることも多いスペイン人ですが、さすがに朝からアルコールを飲む人は少ないので、バルではコーヒーやカフェラテを注文する人が多く見られます。昼間は居酒屋というよりはカフェテリアとしても機能しているのが、スペインのバルの特徴です。

コーヒーは基本エスプレッソか、そこに牛乳を入れてアレンジを加えたものを注文する人が多いですが、中にはエスプレッソと練乳を混ぜて飲む「bonbon(ボンボン)」と呼ばれるドリンクを注文する人もいます。これかなり甘いのですが、若い男性が結構好んで飲む印象があります。練乳の量が尋常ではないので実際に飲むとのどごしの悪さにびっくりしますが、仕事前にエネルギーを補給するには効率的で良さそうです。

また、コーヒーにこだわりを持つ人が多いスペインでは、希望の牛乳や練乳の量を店員さんにオーダーする人も少なくありません。「練乳少なめのボンボンください」などと注文すれば、自分好みのドリンクにカスタマイズすることができます。

 

バルで愉しむ豊富なおつまみ・タパスとお酒

タパスとは、バルで食べる小ぶりなサイズの食事のことです。お酒を頼むと何皿かタパスを付けてくれるバルもあり、おつまみ感覚で食べられる味の濃いものが多め。語源は、蓋という意味の「tapa(タパ)」であるとされており、その歴史は12世紀にまで遡ります。

バルのウェイターが、当時のカスティーリャ王・アルフォンソ8世が注文したシェリー酒に浜の砂が入らないよう、1枚のハムでグラスの口に蓋をしたのがきっかけ。これに感激したアルフォンソ8世の話が徐々に巷でも広がっていき、グラスに「tapa(タパ)」、つまり蓋をすることを目的に、お酒に小さな食事をつけるようになったのです(出典)。

現在では飲み物のグラスと食べ物のお皿は別々に出てくることがほとんどですが、タパスとお酒の相性はどれもぴったりであることから、切っても切れない関係であることが伺えます。例えば下に紹介するようなメニューが、バル定番の食事・お酒として親しまれています。

回転寿司的会計システムの「pinchos(ピンチョス)」

ピンチョスは、串に刺さったオープンサンドイッチのことを指します。ディスプレイされたそれらの中から好きなものを自分のお皿にとって、食べたら串は捨てずにお皿に残しておきます。最後に店員さんに串の数を数えてもらって、お会計という流れです。

ずらりと並んだ色とりどりのピンチョスは見た目にも美しく、高揚感に押されて思わず取りすぎてしまうことも少なくありません。

ただお店側にとってはあの細い串だけが頼りなわけですが、お客さんを信頼してないとなかなかできないことですよね。日本の回転寿司でさえも食べたあとのお皿が隠されるという被害が結構あるようですが、スペインは串だけで大丈夫なんでしょうか? 気になります。

小さいサンドイッチ「montaditos(モンタディートス)」

これはピンチョスと違って串に刺さっておらず、具材がパンで挟んであります。

スペインには国内で一番美味しいモンタディートスを決める大会があって、そんなにすごい話題になるわけでもないですが、優勝すればお店の看板には箔がつきます。たまに日本でも「イタリアのピザコンテストで優勝した日本人」などと聞くことがあると思いますが、それのモンタディートス版とでも言いましょうか、ファンなら知っている大会です。

そこで優勝したことのあるものを見てみると、豚ロース・フォアグラ・くるみ・トゥロンと呼ばれるピーナツバターのような甘いソースなどが使われた、甘じょっぱい組み合わせが強い印象。時代によってブームになるテイストが違うようで、地元の女性の話によれば、昔はトゥロンを肉と合わせたレシピには誰も振り向かなかったんだとか。

スペインオムレツ「tortilla(トルティージャ)」

スペイン料理の定番の卵焼きです。円形に作られたものが、ケーキのように扇型に切られて出てきます。そして、フォークが突き刺さって出てくることも多いです。日本人にしてみたらなかなか衝撃的な光景ですが、店員さんの話によると、「フォークをお皿から滑り落とさずに素早くお客さんの元へ届けるための技」ということです。約2年間こちらに住みながらいろんなスペインの文化に適応するように努力しているつもりですが、どうしてもこれだけはいつまでも耐性がつきません。毎回動揺します。

具はじゃがいもオンリー派と、じゃがいも&玉ねぎも入れたい派で好みが分かれます。この話題になると、日本のキノコやタケノコの形をしたチョコレート菓子に見る言い争いと似たようなものが、熱く繰り広げられます。そのどちらでもない玉ねぎオンリー派の私は、その土俵には上がれません。

日本でもおきまりのとりあえず「cerveza(セルベサ)」

セルベサとはビールのことで、スペイン人も飲み会で大勢集まると「ビールの人は手あげて」と、まずはビールの数から確認されます。手をあげないときは勇気と確固たる意思が必要なほど、グループのメンバーほとんどがビールを頼むことも少なくありません。日本と同じですね。早くマイノリティーが生きやすい世界になってほしいものです。

瓶や缶のほか、「caña(カニャ)」と呼ばれるサーバから注ぐ生ビールを頼む人も同様に多いです。

 

昼夜季節問わずテラス席が大人気

定番メニューを外のテラス席で楽しむのも、スペイン人の定番です。どんなに寒くても、暑くても、朝でも昼でも、とりあえずテラス席。スペインでは法律によって屋内は禁煙と定められているため、喫煙者が屋外を選ぶというのも理由の一つですが、開放的な場所の方がいいというシンプルな理由で選ぶ人も多いです。屋内スペースも広いお店は多いのですが、人がいないのでガランとしています。

そんなわけでみんなも外にいるので賑やかで、楽しくワイワイ飲みたいから続いてやってくる人たちもテラス席に行く、という連鎖も起きていると思われます。

サッカー観戦用のテレビ画面も外に向けてつけられていることが多いので、なにかが起これば公道で、街のみんなと一緒に喜びや悲しみを分かち合うことができます。ちなみにスペインはサッカー大国であるにも関わらず、スペインリーグの試合が主要のテレビ局で放送されることは稀で、家で観るためには毎月有料チャンネルを支払わなければなりません

そこで、観たい試合があるときはみんなバルへ出かけるのですが、大きな試合がある日はもちろんお店から人が溢れかえるので、公道に向かってテレビがついていれば席がない立ち見の人にも観やすいというメリットがあるのかもしれません。

 

シメはチュロス&ホットチョコレート

スペイン発祥のチョコレートをつけて食べる焼き菓子・チュロスですが、本場ではサクサクとした軽い食感で、生地自体にはそんなに甘みがあるわけではありません。日本で売っているチュロスをイメージすると、あれにチョコレートをつけるのは甘すぎではないかと思ってしまうかもしれませんが、砂糖をまぶさない限りは良い塩梅の甘さで美味しくいただけます。

スペインのチュロスは日本より軽め。

これはちょっといいチュロスセットなのでいろんな種類のチョコが付いてきますが、いつもは普通のチョコのカップが一杯だけ付いてきます。

チュロスは冬の食べ物。夏は店舗でないとなかなかチュロス&ホットチョコレートを見かけることはありませんが、冬なら路面にも移動式のチュロス屋さんが点在していています。飲んだあとは真夜中にそのキッチンカーからチュロスを買って、みんなで一緒に揚げたてチュロスと温かいチョコレートで暖を取りながらシメるのがスペイン流です。

しかし、私ははじめてのシメチュロス翌日ふつうに胃もたれしたので、スペイン人の胃袋の構造が気になって仕方がありません。

 

包容力のある人情酒場、それがバル。

お酒を飲む以外のサービスが充実しているスペインのバルですが、店員さんやほかのお客さんとのコミュニケーションで触れられる人情もそのうちのひとつ。肩を張らずにお客さんと店員さんが対等な関係でいられるので、誰かと一緒に行くのはもちろん、一人で行っても楽しい時間を過ごすことができます。

いつでもウェルカムで、まるで友達のように受け入れてくれるスペインのバル。一番の魅力は、その包容力にあるのかもしれません。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

関根 志帆

関根 志帆

スペイン在住デザイナー&ライター。女子美術大学卒業後、広告業界に就職。そのあと単身スペインへ渡り、大学院に通いながらフリーランスのデザイナー・イラストレーターとして活動中。人生でもっとも幸せを感じるタイミングは、犬がご飯を食べるときの咀嚼音を聞いてるとき。/HP

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