韓国はひとつのバス停に40路線!? 複雑多岐なバス網と「パルリパルリ」気質

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※本記事は特集『海外の通勤』、韓国からお送りします。

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韓国の通勤時間は日本以上! 平均一時間近く

韓国は、世界的に見ても通勤時間が長い国です。平均通勤・通学時間は1日あたり58分(2014年)にもおよび、OECD加盟国のうち、26か国中1位。40分で2位となる日本を突き放しています(参考:Time spent travelling to and from work)。韓国国内では出退勤をあわせると、1日平均100分以上を通勤時間に費やしている、というデータさえあります。

ソウル都心・江南(カンナム)のビジネス街

理由はいろいろと考えられますが、首都・ソウルでは、住宅費が年々上がり続けているという事情があります。家賃の負担が大きくなり、郊外に出ざるを得なくなる人が多いのです。

交通の観点から見た場合、ソウルの地下鉄は1~9号線や、郊外に延びる広域鉄道があり、路線網が発達しているようですが、郊外へと延びる鉄道は不十分とも考えられています。そして各駅停車がほとんどで、急行列車は東京の私鉄ほど多くはありません。

そのため現在でも鉄道延伸が進んでいたり、高速列車の運行が計画されていたりもします。

 

歩かなくても大丈夫!? 世界一のバス網

その一方で、都市部ではバス網が発達。世界一ではないか、というほど路線網が張り巡らされています。特にソウル市内は、少し広めの通りに出さえすれば、必ずバスが走っているというイメージ。住んでいる場所によっては、5分も歩くことなく、目的地にたどり着けることも!

ソウル市内を走るバスは数種類あって、それぞれ色分けされています。最も身近なのが、住宅街の合間など短い距離を走るマウルバス(マウルは「村」の意味)で、日本でいえばコミュニティーバスでしょうか。

マウルバス(左)と支線バスはグリーン。バスの顔はキャラクター「タヨ(타요)」。ブルーは幹線バス(右)。

地下鉄や主要バスとの乗り継ぎを担うグリーンの支線バス、市内の主要な町を結ぶブルーの幹線バスは、日本でいうと一般の路線バスのようなものです。さらに首都圏エリアとソウル市内を結ぶレッドの広域バスがあり、これは埼玉や千葉から東京都心をつなぐイメージ。時には高速道路を走行することさえあります。

市内の主要道路はバスでいっぱい

他には観光に使える循環バスがあり、さらに空港へのリムジンバスも走っているので、ソウル市内の主要道路は常にバスでいっぱいなのです。路線が多すぎるため、すべてを網羅できる路線図はありません。

歩かなくてもよい要因を作り出しているのは、最初に挙げたマウルバス。住宅街の隅々を走るようなイメージで、マイクロバスのような小さな車体で小回りが利きます。もちろん住んでいる場所にもよりますが、会社や学校に着くまで、ほとんど歩かなくても済んでしまうこともあるのです。

 

バスを見かけたら、走って飛び乗れ!?

そんなふうにバス網が張り巡らされているため、主要駅のバス停には30~40路線以上ものバスが停車します。そのためラッシュ時にはバスが数台も連なってしまうことがあります。

バスで埋め尽くされたバス停

韓国の運転士さんは基本せっかち。周囲の交通事情に合わせて、バス停の後方に止まってドアを開くことがあり、そうなるとバス停の前方までやってくることはほとんどありません。そのため、お目当ての路線番号や行先表示を見つけたら、40~50mもダッシュしなければならないことも。 バスがやってきた瞬間、ぼーっとしているものなら、あっという間に扉を閉じて走り去っていきます。

そんな事情のため、バスを整列して待つことは、一部の場所を除いてほとんどありません。バスがやってきたら、みんな一気に乗り込もうとするのです。

後方に止まったバスへと駆け足(左)、車内の様子(右)

朝の時間帯だろうと、足腰が強くなかろうと、お構いなし。この時ばかりは、みんなスタスタと駆け足で飛び乗っていきます。乗ったら乗ったで運転が荒く、急発進は当たり前。転んだら自己責任なので、すぐに手すりにつかまらなければなりません!

慌ただしいのは降車時も同じ。アナウンスでは、次のバス停、その次のバス停の順に読み上げられます。降りる前に降車ボタンを押すまでは日本と同じ。けれども、バスが停車する前に降車ドアの前に立って降りる素振りを見せないと、すぐにドアが閉まります。本当に気が抜けないのです。

山間部を走る農漁村バス

しかし地方の農漁村では例外。そういった地域では高齢者の割合が高いため、運転士さんはお年寄りが席に着くまで必ず見守っており、年配の方が途中で席を立つと注意されることもあります。

 

地下鉄・バスの乗り換えは4回までなら無料

ソウル近郊のバス・地下鉄の初乗り料金は、交通ICカードを利用する場合、1250ウォン(約125円)で日本と大差はありませんが、距離に比例して上がる金額は小さめ。そのため、たとえ100キロ乗車しても、2650ウォン(約265円)しかかからず、非常に安上がりです。

韓国の交通システムのユニークなところは、値段の安さとともに、乗り換え割引という制度。交通カードを利用する場合に限り、地下鉄・バスの初乗り料金は、最初に引かれるのみ。乗り換えをしてもその後は距離別の運賃が加算されていくだけなのです。JRや私鉄のように複数の鉄道会社に乗り換え、その都度、初乗り料金が加算される日本とは異なります。

地下鉄の端末機にカードをタッチ

乗り換え割引は、バスや電車を降りてから30分以内(深夜は1時間以内)に、別の路線の端末機にタッチをすれば、乗り換え扱いとなります。これはトータルで4回までならOK。ただし地下鉄の改札の出入りは1度だけです。

朝、家の前からバスに乗り、途中で別のバスに乗り換え、地下鉄に乗って会社や学校の最寄り駅まで行き、そこから再びバスに乗っても、すべて通し運賃として計算されるのです。

バスの交通カード端末機

30分以内というルールに従っていれば、乗り換えの合間にちょっとした買い物や用事を済ませることさえ可能です!

ちなみに私は、この乗り換え割引の制度を利用し、10,000ウォン(約1000円)でソウル市内をどこまで回れるかを試したことがあります(雑誌『スッカラ 2012年11月号』)。地下鉄・バスを降りてから30分以内に市場や旧跡、観光地を巡り、食事を済ませるなど、行きあたりばったりの旅を行い、午前10時にスタートして18時過ぎまで、初乗り基準で3セットをこなすことができました。

この時はかなり忙しい旅になりましたが、乗り換え割引をフルに使いこなせば、交通費を節約しながら、多くの場所に訪れることができるのです。

 

韓国の企業は通勤手当は出ないが、食事手当なら出る

前述のように韓国の交通費は、日本に比べると安め。地下鉄には制度として定期券があるにはありますが、それほど一般的ではありません。

ちなみに、韓国の通勤費は会社から手当は出ずに自己負担が当たり前。日本では通勤費が非課税扱いとなるため、会社から支給されることが多いのですが、韓国では通勤手当を出すと所得税が課されてしまいます。そのため多くの企業で支給されないのです。

朝、街中に置かれる無料新聞のスタンド

通勤手当が課税されてしまうのは、韓国では私鉄にあたる路線がほとんどなく、元々公的資金が投入されているからではないか、と思います。その代わりに食事手当は月10万ウォン(約1万円)まで非課税。韓国の飲食店では従業員にまかないを出すことが一般的なのですが、雇い主が食事を提供する、という文化が税制にも表れているのかもしれません。

 

自転車は趣味やレジャー、通勤に利用する人はごくわずか

韓国の街には日本ほど自転車が走ってはいません。バス網が発達していることもひとつの理由ですが、「自転車は趣味やレジャーで乗るもの」というイメージが強いのです。日本にやってきた韓国人たちは、スーツ姿に革靴で自転車を乗る姿を見て驚くのだとか。

地下鉄の駅入口の駐輪スペース

地下鉄の駅前には小さな駐輪スペースがありますが、料金を払う必要はなく、自由に止めても大丈夫。駐輪場がいっぱいになることは稀です。チェーンをくくりつけて駐輪して、電車に乗って行きます。

都心の地下鉄の入口には露店商がいて、朝の時間帯は海苔巻きを売っていたりします。近頃よく見かけるのは、ヤクルトレディー。朝食替わりとなる乳飲料やヨーグルト、紙パックに入った野菜ジュースを販売しています。

ヤクルトの電動カートと、野菜ジュース

ちなみに韓国のヤクルトレディーは、日本と違って自転車では移動しません。冷蔵庫のついた電動カートを運転して、最高時速8キロでパワフルに街を移動していきます。まれにセグウェイが公道を走っているのを見かけます。こちらは電動カート同様、原動機付自転車扱い。どちらも本来は車道を走らなければなりませんが、時々歩道を走っていることがあります。

現在では制度的には曖昧な部分が多いのですが、セグウェイでの通勤が普及するのは、もしかすると、日本よりも早いかもしれません。

 

韓国の国民性「パルリパルリ(早く早く)」は交通事情にも表れる

せっかちな国民性だといわれる韓国。ことあるごとに「早く早く」という意味の「パルリパルリ(빨리빨리)」という言葉を使います。「パルリパルリ」の文化は、韓国の交通にもよく表れています。地下鉄やバスを降りる際には前もってドアの前に立ったり、運転手さんも急いで出発しようとするのです。

しかし世界的に見ても通勤時間が長く、OECD加盟国のうち、26か国中1位の韓国。本気にさえなれば、改善されるスピードもピカイチ……!? のはず。

※本文中の金額は、1000ウォン=100円として計算しています。

 

 

編集:ネルソン水嶋

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この記事を書いた人

吉村 剛史

吉村 剛史

東方神起やJYJと同年代の1986年生まれ。「韓国を知りたい」という思いを日々のエネルギー源とするも、韓国のオシャレなカフェには似合わず日々苦悩。ソウルや釜山も好きだが、地方巡りをライフワークとし、20代のうちに約100市郡を踏破。SNSでは「トム・ハングル」の名で旅の情報を発信。Profile / Twitter / Facebook / Instagram / 韓旅専科

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