ナショナリズムの顕れ?国産のLCC・スーパー・応援に見るベトナムの赤と黄

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※本記事は特集『海外の色』、ベトナムからお送りします。

クリックorタップでベトナム説明

 

ベトナムを代表する色は赤(と黄色)

ベトナムを象徴する色はなにかと問われれば、それは赤、もっといえば赤と黄の組み合わせだと思う。理由は単純明快、国旗がその二色で構成されているからだ。

「金星紅旗(きんせいこうき」と呼ばれるもので、同じ社会主義国である中国と旧ソ連の国旗も配色は同じ。赤が独立のために人民が流した色黄が革命の色だとされているが、(学校などで学んではいても)ふだんから国旗を見るたびに「血の赤だなぁ」と思う人もまれだろう。が、やはりベトナムといえばこの配色となるのか、さまざまな国産の企業・サービスにも使われている。

国産LCCの『ベトジェット』がそうであったり、

全国展開するスーパーマーケットの『ビンマート』にも使われている。

サッカーの国際試合ともなればTシャツもこの通り、どちらか一方を選ぶなら赤のようだ。

ちなみに、ベトジェットは2007年設立、ビンマートも2014年設立と、近年の話。同じくサッカーも、ベトナム代表が準決勝や決勝に進むほど強くなった時期もこの2~3年くらいの話だ。そう考えると、赤と黄の組み合わせが増えた時期がそのまま、ベトナムの企業や個人がナショナリズムへの意識が芽生えてきた(少なくとも色と結びついた)タイミングと言ってもよいのかもしれない

説明がややこしいので背景は無視してください、Tシャツが写っている写真がこれだけだった。

改めて考えてみれば、国旗がそのままTシャツのデザインとしてあちこちで売られている国はベトナム以外にあまり見覚えがない(もちろん見た目に映えるという理由もあるだろうけど)。

が、だからといって、ベトナムで使われがちな色は赤と黄だけということはない。あくまで在住外国人である私の印象としてではあるが、ほかにもいくつかの色を好んで使われるように思う。この記事ではそんなベトナムにおける色使いについて紹介していきたい。

 

行政は黄色使い!でもたまにやりすぎる?

ベトナムの都市部、さらに中心地を歩いていると、突然立派なコロニアル様式の建物が現れる。屋根の一番高い位置には国旗が掲げられているあたり、行政関係の施設ということは分かると思うが、これはホーチミン市人民委員会の庁舎。つまり、日本でいうところの県庁舎だ。そしてこの外壁が、黄色。

手持ちに夜の写真しかなかったが、かえって黄色が際立った。

ほかにも、たとえば軍関連の施設や、市の象徴のひとつであるサイゴン中央郵便局(日中なら誰でも入れる観光スポット)など、行政が管理あるいは関連する建物はどれも黄色に塗られている。先述の「革命の黄色」から来ているとは思うが、黄色はベトナムの8割以上を占めるキン族の権威を示す色でもあったという。すると、現在のベトナム社会主義国が建国される以前から刷り込まれている色かもしれない。

そこまではまぁまぁふつうの話だが、それで終わらないのがベトナムの(個人的に感じている)楽しいところ。2015年1月のこと、古くなったサイゴン中央郵便局の外壁を塗り替えることに。そこで、黄色へのこだわりは並々ならぬものだったのか、塗装後は目に刺さるほどの真っ黄っ黄になってしまった。これに対してホーチミン市民は猛反発! 結局、ちょっと落ち着いた黄色になったというオチ。

塗り替える前の色/©Daderot

塗り替えた色(左)と反発を受けてさらに塗り替えた色(右)/©Đình Quân

時間帯や角度によっても印象は異なるがこのように、もともとの淡いピンクから淡い黄色に変わった。

サイゴン中央郵便局の外壁、色味を抑えて塗り直しへ [社会] – VIETJOベトナムニュース

郵便局=行政という訳ではないが、上記記事にも「中央郵便局の改装改修には同市人民委員会などの許可を得なければならない」とあるように距離は近い。こうして突如として大胆に色を変えるところも、「反発されたので塗り直します」ところも、実にトライ&エラー的なことが多いベトナムらしいエピソードだなとしみじみ思う。良くも悪くも、手順を踏むことを重視する日本では聞けなさそうな話だ。

海軍の施設もこの通り、黄色。

ちなみに交通警察の制服も黄色(左)、やけに発色が良いがそれは下ろしたての展示品だからか。

 

世界遺産・ホイアンは”黄色の街”

黄色つながりで、これは中部にある街・ホイアンのシンボルカラーでもある。といってもこちらは行政の黄色とは違って、もう少し柔らかいクリーム色に近い印象で、根本的にその立ち位置も異なり権威は感じない。ただ、この黄色が、いつから、だれが、なぜ、選んだのかについては詳しく分かっていない。

ホイアンの町並み、よく見ると至るところが黄色く塗られている。

路地に入るとその黄色に圧倒される

この街、実は「ホイアンの古い町並み」として1999年に世界遺産に登録されている。1770年代に戦争(西山党の乱)による破壊とその後の再建を挟んでいるものの、それ以降はフランスからの独立戦争やベトナム戦争などの近世の大きな戦火を免れているためそれでも十分に歴史は古く、その町並みや、それが醸し出す雰囲気などは四世紀前から継承されているとも言える。

黄色の理由は「熱を吸収しないため」とも「インドシナ時代のフランスの影響」とも言われているが、現地在住者の方の話では「昔は青色だったと聞いている」とのこと。20年ほど前の写真を見ると確かに青い壁の家が多かったらしく、この黄色のイメージは比較的近代につくられたものなのかもしれない。ちなみに行政の黄色は権威の象徴ということもあってその発色には強い主張を感じるが、ホイアンの黄色にはその土地に漂うほんわかとした穏やかな雰囲気も入り混じって、優しさすら感じる。

ランタンの町としても知られ、夜には明かりが灯され美しい景色が広がる。最近、アメリカの旅行誌が発表した「2019年の世界で最も素晴らしい都市15選」一位に選ばれた。

 

個人的に推したい「ベトナムは緑色が多い」説

最後に紹介する色はホーチミンシティに6年余り住んだ自分自身の経験に基づく主観の部分が大きいので、あくまで仮説のひとつとして聞いてほしい。それは「ベトナムは緑色が多い」ということだ。

これまでは国旗に使われる赤色だったり、ホイアンという街を彩る黄色だったり、ある意味では「(自他ともに認める)オフィシャルカラー」としての側面を持つ色を紹介してきた。しかし、ベトナムという国(正確には南部のホーチミンシティ)に住んでいて、よく緑色を目にしてきたなぁと感じるのだ。

安心二大タクシーとも言われる『Mai Linh』は緑一色だし、

もうひとつの『Vinasun』も緑色が差し込まれてある。

こういったタクシーのほかにも緑色は多い。

公共のゴミ箱だったり、

公安の制服だったり(市民といっしょにサッカー観戦する様子)、

帽子だったり(左手前)……

あらゆるところで緑色を見る!

「ベトナム」の色は確かに赤色を思い浮かべるが、「ベトナムの街」の色は緑色。

タクシー、ゴミ箱、制服、帽子、こうして並べてみると量産されるものによく使われがちだ。あとは都市部では全体的に街路樹や植え込みが多いので、それもあるかもしれない。明確な理由はいまだに持っていないが(そもそもほかの在住者から「そんなことないと思うけど」と言われてしまったくらいなので)、一方でそれに共感してくれた人から納得できる仮説を聞かせてもらったことがある。

クチトンネルに潜る私です

南部の観光スポットであり、かつ戦跡でもある『クチトンネル』。これはベトナム戦争中にベトナム解放戦線(アメリカ軍による呼称の『ベトコン』の方が映画などを通じて聞き覚えがあるかもしれない、ただしこれは蔑称)がつくった地下要塞で、ほふく前進でないと進めないような穴が地中に張り巡らされ、まるでアリの巣のような構造になっている。

ここに行くと感じるのが、「緑色多いな」と。ジャングルなので迷彩に使われることも当然だが、当時の生活を再現したマネキンが着る服も被っている帽子も服も、なにもかも緑色。「そんな時代を経てそのまま日常的に使う色になったのではないか」というのが聞かされた仮説。思わず納得してしまった。

右手前の四人は全員マネキンです、姿勢が生々しい。

ただ、その理屈でいくと南部に限った話になるが、よく考えれば『Mai Linh』や『Vinasun』も南部に圧倒的に多いので、これは国民に使われる色というより、南部の人たちに使われる色と言った方が適切なのかもしれない。ただ繰り返しになるが、南部に暮らした私の主観だ。異論は大いに認めます。はい。

 

緑が緑を引き寄せた?考えすぎか…

そういえば、この2~3年でベトナムの街を埋め尽くすようになった『Grab』ドライバー。バイク&タクシー配車アプリで、そこに登録するドライバーはお揃いのジャケットとヘルメットを被っていて、そのシンボルカラーもこれまた緑色。これがますますベトナム(とくに都市部)の緑色に磨きをかけたと思う。

ただし、こっちはもともとマレーシア生まれ(現在の拠点はシンガポール)のサービスなので本当にたまたまの偶然なのだが、「緑が緑を引き寄せたのではないか」と思っておくと勝手に楽しくなれる。

配車アプリのGrabもシンボルカラーは緑色

そんな「ベトナムは緑色が多い説」をベトナム人の友人に振ってみると、「公安の制服は中国から来ているんじゃないか」という回答が返ってきた。あ、そうか、人民服も緑色だし、その線はすごくあるかも。そもそも国旗にしたって中国を参考にしているとも言われるのだし。じゃあ中国の制服はなぜ緑色なのか? というと、本当にキリがないので、今回はこのあたりで終えておきたいと思う。

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この記事を書いた人

ネルソン水嶋

ネルソン水嶋

ブロガー、ライター、編集者。2011年のベトナム移住をきっかけにはじめた現地生活を綴るブログ『べとまる』から『ライブドアブログ奨学金』『デイリーポータルZ新人賞』などを受賞を契機に、ライターに。2017年11月の立ち上げから2019年12月末まで、海外ZINEの編集長を務める。/べとまるTwitterFacebooknote

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