ユダヤは青色、テルアビブは白でエルサレムは金!イスラエルの色ルール
※本記事は特集『海外の色』、イスラエルからお送りします。
イスラエルのナショナルカラーは青と白
おそらく誰もが簡単にイメージできるであろう色、青と白。イスラエルでこの2色が採用された最たるものといえば、それは国旗と言えるでしょう。国旗そのものがナショナルカラーをそのまま表しています。シンプルですよね。
国旗のデザインは礼拝用衣服が由来
イスラエルの国旗の上下の青の帯は「タッリート/Tallit」というユダヤ教徒の礼拝のときに着用する衣服がモチーフとされており、中央の六芒星は「ダビデの星/Star of David」と呼ばれています。
ダビデの星は現代ではユダヤ教を表すシンボルです。一説には、イスラエルの歴史上の重要人物である古代イスラエルのダビデ王をあらわしているのではないかともいわれていますが、しかし実際には関係がないというのが一般論。ちなみにダビデ王とは、誰もがよく知る、トランプのスペードのキングに描かれている人物です。
今でこそダビデの星はユダヤ教の象徴として定着していますが、それは近代に入ってからのこと。1897年の第一回シオニスト会議(ヨーロッパのユダヤ教徒の集会)で旗のデザインに採択されたことがきっかけと言われています。
19世紀以前のユダヤ教のシンボルとしての利用は、現代の南ドイツ・オーストリア・チェコといった一部の地域でひっそり使われていた程度だったと言われています。また、六芒星はユダヤ教の儀典「ソロモンの遺訓」に書かれる「ソロモンの指輪」のデザインとしても知られており、キリスト教やイスラム教のコミュニティでも用いられていました。
イスラエルで国旗(=青と白)を見るのは日常的
宗教とナショナルカラーをいっぺんに表現できるイスラエル国旗ですが、現地では日常的に目にします。イベント行事の際や重要な施設ではもちろん、娯楽施設から民家まで、ありとあらゆるところで様々なタイプの国旗が掲揚されています。
上の写真はどれも違うタイプですが、こういった様々な国旗はイスラエルのおもちゃ屋さんでよく売られています。愛国心を表す重要アイテムであると同時に、パーティーグッズという一面が垣間見えます。
私の場合、日本で国旗を見たら「何か特別な日/場所なのかな?」と思うことが多かったのですが、イスラエルでは、国旗があるだけではどういう意味か理解できない場合があります。
明らかに神聖な場所や特別な行事の場合はわかりますが、見かけても「あるね」という感じで、もしかしたら国旗を掲げるかどうかとかをそんなに深く考えないのかなと感じることもしばしば。国旗という存在は神聖だけど身近でもある国なのだなと解釈しています。
政党連合の名前にも「青と白」
青と白に関して国旗以外にもう一つ。「青と白(Blue and White)」というそのままの名前の政党連合も存在します。2019年4月9日に投票が行われた第21回イスラエル議会総選挙において、当時最強と言われたベンヤミン・ネタニヤフ(2019年7月時点でも現職)を打倒すべく登場し、その名前から話題になりました。
投票日に活動する「青と白」サポーターの様子。
ナショナルカラーである青と白のイスラエル国旗は、国のアイデンティティとユダヤ教だけでなく、政治をも間接的に表していると言えます。次に、青と白を個別に注目していきます。
宗教・娯楽・社会を表すイスラエルの青
青はユダヤ教の聖書にも登場する聖なる色で、「テカレット/Tekhelet」と呼ばれます(これについては後半で詳しく説明します)。
そんなこともあってか、祝日や行事の際のライトアップはだいたいいつも青。特別な日にはブルーライトが目立ちます。例えばユダヤ教の冬の行事「ハヌカ/Hanukah」の時期のエルサレムは、ユダヤ教のろうそく「メノーラ/Menorah」を模したライトが登場することも。
日常でもよく採用される青
特別な日だけでなく、公共機関の建造物をはじめとした多くのものに青が採用されています。色を選ぶ際に「何かあったら青でしょ」となっているのかと思うくらい、青の選択が多い。 たまたま青いものと意図的に青いものの区別ははっきりつけ難いですが、イベント抜きで普通に生きていても、体感として青いものに多く出会うというのがあります。
イスラエルに住んでいると、青は宗教的な聖なる色であると同時に楽しいパーティの色でもあるので、特別な日を思い出す色とも言えます。それらに加えて公共物も青いので、白よりは目立っています。
世界遺産の「白い都市」と呼ばれるテルアビブ
とはいえ白も負けていません。「純粋」という意味があるのはひとまず置いておいて、恐らくそれより重要視されているのは、世界遺産としてのテルアビブの別名でもある「白い都市/White City」です。
テルアビブの中心部には「バウハウス(※)」や「インターナショナルスタイル」と呼ばれる建築様式の建築物が4000件以上(該当するエリアが複数登録)あり、世界でも類を見ない密集度。イスラエル建国前の1930年代、イギリス委任統治領パレスチナに移民したドイツ系ユダヤ人の建築家たちによって建てられたと言われています。
※バウハウス:インターナショナルスタイルとも呼ばれ、地域独特ではなくユニバーサルな様式の建築を指します。余計な装飾がなく、直線に続く窓(水平連続窓)やフラットな屋根(陸屋根)が特徴。バウハウスはもともとドイツの美術学校の名前で、ナチスに閉校されるまで、1919年〜1933の間に存在していました。
該当する建築物が最も集中している「ディゼンゴフ・スクエア」 という広場は特に有名で、白い都市の典型的な景観としても知られています。エリア自体も人気の繁華街で、東京でいう新宿のような場所でしょうか。
ドイツ人建築家たちによる「白い都市」の建築物こそが、テルアビブがヨーロッパっぽいと言われる大きな理由と言えます。実はこの「白い都市」、全く同じ名前の世界遺産がドイツのベルリンにも存在します。
ドイツの「白い都市」は、「ベルリンのモダニズム集合住宅群」という名前で世界遺産登録されている6ケ所のうちの一つで、「Weiße Stadt」(ヴァイセ・シュタット)と呼ばれています。ちなみにこれらが建築されたのも、テルアビブと同時期の1930年代です。
1948年にイスラエルで建国宣言をした初代首相のダヴィド・ベングリオンよろしく、国家の根幹を築いたのはヨーロッパから移民したユダヤ人と考えられています。中でも、ドイツ・ポーランド・ロシアなどからの移民であるアシュケナジム(いわゆる東欧系ユダヤ人)の影響は、国の制度からインフラにまで強く及ぶことが分かります。
実は黄色いイスラエル
「イエローバッジ」というユダヤ人にとってのタブー
色彩理論上、青と最も相性がいい色は黄色(補色)と言われています。しかし残念ながらこの黄色、ユダヤ人に関するタブーとして存在します。その理由が他でもないイエローバッジ(Yellow Badge)の存在です。
イエローバッジとは、過去のヨーロッパでユダヤ人が着用を強制されていた印のことです。1930〜40年代のナチス・ドイツのものは特に有名ですが、ヨーロッパの多くの国でそれぞれのデザインが存在し、大半が黄色い布に六芒星のデザインでした。
今では過去の物となったイエローバッジですが、現代では反ユダヤ主義の「アンチセミティズム/Antisemitism」とほぼ同意と考えられています。日本語では「主義」という言葉が使われますが、欧米先進国では「アンチセミティズム」は明らかな人種差別と考えられています。アンチセミティズムに関して、ホロコーストを否定するような行為など、ドイツでは法律で罰せられる可能性があります。
ドイツのネオナチの集会の様子
そんなアンチセミティズムをあらわにしている極右団体「ネオ・ナチ/Neo-Nazism」は、現代も欧米を中心とした世界各国で問題になっています。余談ですが、ネオナチが聖地と崇めるのではと危惧されるヒトラーの生家がオーストリアに存在しており、これが奇しくも黄色です(偶然ですが)。なお、オーストリア政府はこれを取り壊そうとしています。
イスラエルの町は黄色い
ではユダヤ人にとって黄色は忌まわしい過去なのかなと思いきや、イスラエルでは実際にはそうではないようです。わざわざ青をアピールするように、わざわざ黄色を隠したりということは、私の知る限りでは一切ありません。 というか、むしろイスラエルの町は黄色が目立っており(金とも呼ばれる※後述)、黄色に誇りさえあるのではということが伺えます。
こういった黄色は、エルサレムストーンという材質による色です。真っ黄色ではなくて(そういうものもありますが)、黄色をベースにピンクやベージュがかっていたりと、色幅があります。エルサレムストーンはイスラエルのどの都市でも当たり前にありますが、エルサレムは特に顕著です。
エルサレムでは、建築物にエルサレムストーンを使うことが法律で決まっています。私の住んでいるテルアビブもそこそこ黄色いですが、エルサレムは明らかに違いがわかるほど黄色いです。また、エルサレムストーンが放つ色はエルサレムゴールドと形容されるため、エルサレムは「金の街/the City of Gold」とも呼ばれます。
金のエルサレムと白いテルアビブ。都市を色でまとめるとこのようになるでしょうか。これにナショナルカラーを含むと、青、白、黄がイスラエルの色になるのではというのが私の考えです。
青ではなく「テカレット」
ユダヤ教において青は特別な色なのですが、これには「テカレット/Tekhelet」という正式な名前があります。ユダヤ教の聖書にも登場する由緒正しき(?)色であり、「イスラエルの青は何からきてるの?」の答えとなる色でもあります。意味も様々で、海であり、空であり、サファイアでもあると言われています。
そんなテカレット、実は厳密な色が特定されておらず、断言できる専門家もまだいないというのが現状。ライトブルーから紫の間と言われているものの、人と時代によって若干色が変わるそうです。カラーチャートの数字で万人に通じる形ではまだ表わせないのです。
だがテカレットは確実に存在する
色の定義について学問的に議論の余地はあるものの、イスラエルでテカレットは実用されています。 男性のユダヤ教徒が服装につける装飾品の一つに「ツィーツィート/Tzitzit」という紐の束があるのですが、この紐の一つをテカレットにすべしというルールが存在します。つまりこの色こそがテカレットの一般認識。
ちなみにこのテカレットは「ツロツブリボラ」という貝から抽出されています。地中海沿岸に生息しており、イスラエル以外の国でも染色材料として使われる生物です。
青は重要だが最優先事項ではない
「へー貝か」と思うかもしれませんが、実はユダヤ教の食のルール(コーシャ)では、貝は食べてはいけない生き物です。神聖だからではなく、蔑まれているブタと同じく、ダメだからという理由です。それだけでなく、聖なるテカレット作りには、ツロツブリボラの体液を使用しています。コーシャは食材の選別と血の処理を特に神経質に行うはずなのですが、それとこれとは別のようです。
テカレットの作り方の動画
NGな貝から聖なる青、ランドスケープの白とタブーな黄色。私は外国人だからこそ、イスラエルの色の一つ一つに深い意味があるのではと勘繰ってしまうのですが、必ずしもそう言うわけではないようです。ただしテカレットの件など、優先事項がはっきりしているというか、要領よくやっているようにも思えます。
イスラエルの人口は約7割がユダヤ人ですが、その半数ほどは世俗的だと言われています。経済的中心地でもある、私の暮らすテルアビブではそれが顕著で、宗教を重んじつつもグローバススタンダードな都市ライフが成立しています。正直、青とか白とか黄色とかいちいち意識して生きているわけではさそう。
ユダヤ人でも発想はふつうにユニバーサル
最後に、「ハンバーガーは好きだがチーズバーガーは食べない※」というユダヤ人の知人に、こう質問してみました。(※コーシャでは肉とチーズの組み合わせNG)
「ナショナルカラーについて調べてんねんけど、イスラエルで青と白ってなんか意味ある?」とふわっと聞いてみたところ、「ん……ブルーカラーとホワイトカラーの職業問題がどうのこうの」という、めちゃめちゃユニバーサルな答えが帰ってきました。そっちかよ!
「青と白は国旗にも象徴されるユダヤ教の……」という模範解答を期待していたのですが、そうならなかったのが印象的でした。結局それを私が説明したのですが、「まあ確かに。でもなんか微妙」といったリアクションだったのを覚えています。
青・白・黄をピックアップしましたが、イスラエル人がどれだけそれらを意識しているかと言うのには色々あるみたいです。色だけに。
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編集:ネルソン水嶋
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