ベトナムの朝食は米づくし! 麺にもなればパンにだって米粉を使う

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※本記事は特集『海外の朝食』、ベトナムからお送りします。

クリックorタップでベトナム説明

 

お米をつくる国は、お米を「生まれ変わらせる」国だった!

北部の山岳地帯の街・サパの棚田。収穫前は黄金色のカーペットになるという。

ベトナムは、タイに次ぐ世界3位の米輸出量を誇る国(※1)。そのほか、インドやパキスタン、アメリカなどが並びます。人口の半数以上が農業に従事している(※2)ほどの農業大国という土台もありますが、メコン河の三角洲エリア・メコンデルタの肥沃な土と、とくに南部のたっぷりと降り注ぐ日照量によって、一年に三度もの収穫を実践できる「三毛作」もまたその秘訣でしょう。

※1 World Markets and Trade Record Rice Trade with Diversifying Suppliersより
※2 JETRO ベトナム農業関連 ビジネスパートナー発掘調査(2017年1月)より

つくる一方で、また食べもする。同じく日本人もお米が大好きな国民といえるのですが……そのこだわりは、もしかするとベトナムの方に軍配が上がるのかもしれません。米を食べる様子を想像してみてください、頭の中には今、お茶碗に盛られたご飯が浮かび上がりましたか? それ以外にありませんか? もしそうならやっぱりベトナムの方が米好きすぎる。なぜなら、ベトナムにおいて、ご飯は米(コメ)を食べる選択肢のひとつにしか過ぎないからです。というのも、ベトナムでは、米を、パンや、麺類などの素材レベルから変えてしまうのです。

運動好きのベトナム人の暮らし、公園には公共の運動器具があることが多い。

「なるほど、しかし朝食と関係ないじゃないか?」……いいえ、それはとんだ早とちり! それらの多くの料理たちが集結する時間帯が、朝! つまり、米なくしてベトナムの朝食は成り立ちません。今回は、国内最大の商業都市・ホーチミン市をおもな舞台に、そんなベトナムの朝食の世界をご紹介します。

 

パン、おこわ、麺類……もはや米マニア!? 米からできた朝食たち

ホーチミン市、バイクで通勤する様子。

ベトナムの朝は早い。個人的な感覚的としては、日本の2時間くらい活動が早い気がしています。以前、日本への帰国中、朝7時頃に商店街を歩くとどこもシャッターが閉まっている様子に、まさか地元がシャッター街に!? と思ったものの、勘違いでした。ベトナムではこの時間でもふつうにカフェなどのお店が開いています。

それもあってか、外食文化が盛んであり、ガラス製のドア付きの立派なお店を構えているところがあれば、露店や屋台もあったり、あらゆる選択肢に恵まれている。家で食べもするけれど、ベトナムの朝食文化を知るにはやはり外へ飛び出した方がいいでしょう。さて、その外に、どのような朝食があるのでしょうか。お米を使ったものを中心に見ていきましょう。

具材がたっぷり、腹持ちも良い! おこわ

おこわ、ベトナムではXôi(ソイ)。これはそれほど驚くものではないかもしれませんが、食べ方は少し変わっており、しょっぱいおこわの「Xôi mặn(ソイマン)」甘いおこわの「Xôi ngọt(ソイゴット)」に大別されます。写真はハノイで食べたしょっぱいおこわで、ハムや肉そぼろやゆで玉子が載っている、ラーメンで言うところのいわゆる「全部のせ」。一方、甘いものではココナッツミルクやドリアンを載せたものまであります!思った以上にお菓子らしく感じられるはず。

米粉入り、パリパリでフワフワな最強フランスパン・バインミー

日本でも人気が出て、たくさんの専門店が出ているというBánh Mì(バインミー)。チャーシュー、レバーパテ、なます、キュウリ、トマト、パクチーなどの香草、が入っています。そこにヌクマム(魚醤)をふりかけたら基本形の完成。ベトナムは1887年から1954年までフランスに統治されていた歴史があり、それを背景としてこのフランスパンが入ってきました。どこで食べてもたいがい美味しい、ベトナムのソウルフードでありファーストフードです。

このような屋台でも売られている。

もちろん、これにも米が入っています。正確には米粉ですが、これが外はパリパリッ! 中はフワフワ~! という独特な食感を生み出しているともいわれています。フランスパンは固いものというイメージだと、その夢心地な歯ごたえにビックリ必至。レシピが間違って伝わったら美味しくなった!? という話を聞いたことも(真偽は不明)。

移動はもっぱらバイクのベトナムでは、通勤や通学の途中でサッとバインミーを買ってオフィスや学校で食べる、というスタイルが一般的。最近では、注文から1分以内に提供するということを売りにしたサービスも出はじめていることから、都市部を中心にベトナムの朝も慌ただしくなってきている、ということがうかがえます。

米大国の真髄、ライスヌードル(フォー、ブン、フーティウなど)

バインミーがフランスの影響であるように、ベトナムは中国の影響もまた多大に受けています。島国の日本ですら漢字のルーツが古代中国であるように、ほぼ千年間に渡って争いつづけてきたベトナムに中国の影響がないと言えば明らかな嘘になるでしょう。当然、それは食文化にもおよび、ベトナム料理は麺類も豊富。スープのダシも実に多彩で、鶏ガラ、豚骨、カニやエビ、海に面したベトナムはやはり食材に恵まれているようです。

ベトナム料理といえば真っ先に思い浮びそうなフォー(Phở)も米粉麺ですね、ご存知の方も多いかも? 一方で、ブン(Bún)と呼ばれるひやむぎに似たものや、フーティウ(Hủ tiếu)と呼ばれるビーフンに似たものもあります。とくにブンはフォーよりも食べられる。ご飯がないならブンを食べればいいじゃない、という訳ではないのですが、日本人で言うところの白米的ポジションとして食べられることが多いのです。繰り返しますが、これ全部米粉ですからね!?

こちらがブン、家庭料理ではこのまま出されることもある。

趣旨から少し逸れますが、必ずしも朝食や麺類ではないものも挙げれば、バインセオ(Bánh xèo)、バインクォン(Bánh cuốn)、ご存知の生春巻きに巻くライスペーパー。さらに、地域ごとのご当地麺もあり、本当にキリがありません。ぜひ、現地にいらして食べてみてください。

米粉の惣菜クレープ、バインセオ。ターメリックで色付けされている。形状は中部風。

 

「B級米」がベトナムを「米の魔術師」に変えた……かも?

それにしても、同じ米粉でもその製法は多種多様で、別物の料理として完成させてしまう。なぜこうなったのか、明確な定説はありませんが、個人的には2つほどの仮説が思い浮かびます。

ひとつめは、米だけで満足できなかったんじゃないか。結果を見ればそりゃそうだろと思われるかもしれませんが、一方で日本は米で満足していた訳ですから。しかし、三毛作という環境は数を生み出す一方で味をそれなりにした、だから工夫を求めたのかなと。ふたつめは、これには実は自信があって、B級米の存在から発想した。ベトナムにはコムタム(Cơm tấm)と呼ばれる「壊れた米」があり、精米などの過程で生まれるこのB級米こそが生産者の主食でした。今はむしろ小さく食べやすいとしてあえて壊しているという話も聞きますが、その砕かれた米が日常的にあれば、さらに砕いて米粉に変えてみることは自然な発想だったのではないかなと。

コムタム、よく見ると米粒が壊れて小さくなっていることが分かる。

つまり、それなりの品質がベトナムの食文化を生み出したのかもしれない。あくまで仮説にすぎないのですが、そう考えると食文化って何が影響を与えるか想像がつかずおもしろいなぁと思うのでした。と、このように、米文化はベトナムの朝食を語る上で欠かせない訳ですが、もちろんそれ以外にもあります! 米粉を抜きにしても、早寝早起きのベトナムは「朝食大国」なのです!

 

タピオカ麺でアッサリスッキリ、しかし肉々しいステーキも!

こちらはバインカン(Bánh canh)と呼ばれるタピオカ・ヌードル。日本でタピオカといえば、ミルクティーなどに入ったパチンコ玉くらいのボールを思い浮かびますが、それを麺にしちゃうとはベトナムは発想が違います。カニなどのおもに甲殻類のダシのスープが絡まった、モチモチッとした半透明の麺は、チュルチュルッと喉越しも最高です。

南部の名物料理としてコムスン(Cơm sườn)があり、ご飯の上に甘ダレに漬け込んで炭火で焼いた豚肉を載せたものがあります。このほか、バインミーといっしょに鉄板ステーキも食べられることもあり、「朝は軽いものを食べる」という意識が一般的な日本からすると驚きですよね。これはもしかしたら、冒頭で書いたように人口の半数が農業従事者だったりと肉体労働者の割合が多いことが背景にあるのかもしれません。

 

早寝早起きのベトナム、でも最近は夜更かし族も増えている?

朝食文化が豊富なベトナムですが、最近ではホーチミン市などの都市部を中心に、夜間営業のカフェや娯楽施設が増えています。今よりさらに5年も経てば、若い世代を中心に意識は変わっていることでしょう。ベトナムは今、経済成長によって大きな過渡期にあると思います。

ベトナムは、日本人にとって、現地の料理などがとても安く食べられます。ホーチミン市を例に挙げた場合、今回紹介したもので、おこわはバインミーは1万~2万ドン(およそ50円~100円)、フォーなどの麺類は2万~4万ドン(およそ100円~200円)で食べられることが多い。もちろん食べられるボリュームにも限りがありますが、ベトナムの朝を楽しまずに過ごすことはもったいない! ぜひ街に繰り出して、目も舌も存分に楽しんでほしいと思います。

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この記事を書いた人

ネルソン水嶋

ネルソン水嶋

ブロガー、ライター、編集者。2011年のベトナム移住をきっかけにはじめた現地生活を綴るブログ『べとまる』から『ライブドアブログ奨学金』『デイリーポータルZ新人賞』などを受賞を契機に、ライターに。2017年11月の立ち上げから2019年12月末まで、海外ZINEの編集長を務める。/べとまるTwitterFacebooknote

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